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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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16/19

10回目 第8話 天才の意地

 ハーフタイム。


 青森田中のベンチには、悪くない雰囲気が流れていた。


 先制点こそ奪われたものの、前半のうちに追いついた。


 しかも、相手は横浜マリナーズU18。


 最強のクラブユースチームだ。


 その相手に、一対一。


 十分に戦えている。


 選手たちが手ごたえを感じるのも当然だろう。


 だが、監督の表情は険しかった。


「お前ら、何を満足そうな顔してる」


 いつもの低い声が響く。


「まだ同点だぞ。何も終わっちゃいない」


 はい。


 おっしゃるとおりです。


 まあ、もう少し優しく言ってくれてもいいと思うけどな。


 このおっさん、褒めると死ぬ病気にでもかかっているんじゃないだろうか。


「前半の修正はよかった。特に右サイドへの対応だ」


 おや。


 珍しく褒めたぞ。


 病気は治ったのか?


「だが、同じことが後半も通用するとは思うな。向こうだって馬鹿じゃねえ」


 ああ、やっぱり。


 すぐに厳しい話へ戻った。


「それと神だ。あいつを自由にするな。前を向かせたら、一人じゃ止められねえぞ」


 俺は頷いた。


「分かってます」


 監督は少し考えたあと、頷いた。

 

 お、いつもの小言がなかった、監督もある程度は俺のことを信頼してくれているのかもしれない。


「分かった。守備の細かい指示はお前に任せる」


「はい!」


「いいか、一つ一つのプレーに集中しろ。

 もしかしたら一回手を抜いたら、それで試合が決まってしまうかもしれない。

 ボールに対する執念をみせろ!!」


「はい!」


 選手たちが立ち上がる。


 俺も水を飲み、ピッチへ向かった。


 さて。


 神誠一郎。


 後半は、そう簡単に仕事をさせないぞ。


     ◇


 後半開始。


 マリナーズのキックオフ。


 予想どおり、相手は積極的に攻めてきた。


 前半と同じく、神を中心に攻撃を組み立てようとしている。


 だが、こちらも準備はできている。


「ボランチ、少し右!」


 俺は後方から声を飛ばした。


 神が中央でボールを受けようとする。


 その瞬間、ボランチがパスコースへ入る。


 相手は神へのパスを諦め、左サイドへ展開した。


 田井中だ。


 こいつも厄介なんだよなあ。


 石河がスピードなら、田井中は技術。


 細かいタッチと緩急を使ったドリブルが得意だ。


 しかも、どちらの足でもボールを扱える。


 右へ行くのか、左へ行くのか。


 守る側からすると、非常に読みづらい。


 田井中が右サイドバックへ仕掛ける。


「中を切れ! 縦はカバーする!」


 サイドバックが内側への進路を塞ぐ。


 田井中は縦へボールを運んだ。


 そこへボランチが戻る。


 二人で挟む形になった。


 田井中は無理に突破せず、後方へパスを戻した。


 よし。


 まずは一つ。


 相手の攻撃を止めた。


 だが、マリナーズはすぐに反対側へボールを動かす。


 今度は石河。


 相変わらず速い。


 しかし、前半の失点から学んだ青森田中の左サイドバックは、簡単には飛び込まない。


 石河の進路を限定し、クロスを上げる位置を制限する。


 石河が強引に縦へ仕掛けた。


 サイドバックがついていく。


 クロスが上がる。


 俺は落下地点へ向かった。


 長身FWが飛び込んでくる。


 だが、今度は先に位置を取れていた。


 ヘディングでクリア。


 よし。


 いいぞ。


 前半より、明らかに守備が安定している。


     ◇


 後半十分。


 マリナーズはボールを保持していた。


 だが、決定的なチャンスは作れていない。


 神が中央へ入れば、俺が対応する。


 少し下がって受けようとすれば、ボランチが寄せる。


 裏へ抜けようとすれば、最終ライン全体で位置を調整する。


 もちろん、神の動きを完全に封じているわけではない。


 あいつは何度も動き直し、パスを引き出そうとしている。


 だが、自由にはさせない。


 神がボールを受ける。


 俺は、すぐに距離を詰めた。


 神は右へ身体を向ける。


 俺は、その進路を切る。


 今度は左。


 だが、そこにはボランチがいた。


 神は一度、後方へボールを戻した。


 よし。


 これでいい。


 無理に奪いにいく必要はない。


 神に前を向かせず、危険な場所へ入らせない。


 それを繰り返せばいい。


 二百年もサッカーをやってきたんだ。


 天才相手に真正面から勝負するほど、俺も馬鹿じゃない。


 ……まあ、今もたまにやるけどな。


 そして、何度も痛い目に遭った。


 才能で勝てない相手に、才能だけで勝負しても仕方がない。


 大切なのは、相手の得意な形を作らせないことだ。


 俺一人で神を止める必要はない。


 チーム全体で止めればいい。


 そう。


 サッカーは十一人でやるスポーツなんだからな。


     ◇


 後半十八分。


 神が、少しずつ苛立ちを見せ始めた。


 いや、怒っているわけじゃない。


 味方に文句を言うこともない。


 ただ、動きが変わってきた。


 それまでは周囲との連携を優先していた神が、自分で突破しようとする場面が増えている。


 分かるぞ。


 その気持ちは。


 自分が何とかしなければならない。


 そう思うほど、普段なら選ばないプレーを選んでしまう。


 俺も、過去の人生で何度も経験した。


 そして。


 そういうときこそ、隙が生まれる。


 マリナーズのボランチが、中央へ縦パスを入れた。


 神が受ける。


 俺は、すぐに前へ出た。


 神は右足でボールを止める。


 俺は距離を詰めながら、右への進路を塞いだ。


 神は左へボールを動かす。


 そこには、味方のボランチが戻っている。


 いつもなら、ここで後方へ戻すはずだ。


 だが。


 神は、さらに前へ出ようとした。


 強引な突破。


 ボールが、わずかに足元から離れた。


 今だ。


 俺は一歩踏み込み、身体を入れた。


 神がボールを取り返そうとする。


 だが、もう遅い。


 俺は右足でボールを奪い、すぐに前を向いた。


「悪いな、神!」


 神が振り返る。


 しかし、俺はすでに次のプレーを考えていた。


 マリナーズの最終ライン。


 神の突破に合わせて、少し前へ押し上げている。


 そして、青森田中のFWが、その背後を狙っていた。


 見えた。


 俺は迷わず右足を振り抜いた。


 ロングパス。


 ボールは、マリナーズのDFラインを越えていく。


 FWが走り出した。


「行け!!」


 俺の声が響く。


 FWが相手DFの背後へ抜けた。


 ボールは、ちょうどその進路へ落ちる。


 あとは頼んだぞ!


 FWがボールを追いかける。


 相手DFが追いかける。

 

 しかしボールの勢いも早い。

 

 それを見たGKも飛び出してくる。


 だが、わずかにFWの方が先に追いつきそうだ。


 GKが体でボールを止めようと体を広げる。


 FWは懸命に右足を伸ばす。


 つま先。

 

 つま先がわずかにボールに当たる。


 ぼてぼてのシュート。


 しかしボールは、GKの脇を抜けた。


 ゴール!!


 青森田中、逆転!!


 二対一。


 スタジアムが、大きく沸いた。


「よっしゃあああ!!」


 俺は思わず叫んだ。


 拳を握りしめる。


 完璧だ。


 神からボールを奪い、そのまま一本のパスでゴールを生み出した。


 守備から攻撃へ。


 またしても、俺の狙いどおりの形だった。


 しかも、今回は相手が神だ。


 中学時代から知っている、あの天才。


 そいつからボールを奪い、逆転ゴールにつなげた。


 いやあ。


 気持ちいいねえ。


 実に気持ちいい。


 もちろん、まだ試合は終わっていない。


 だが、ここまでの展開は悪くない。


 むしろ、かなりいい。


 俺たちの守備は機能している。


 マリナーズの攻撃も、ある程度は読めている。


 このままいけば。


 勝てる。


 そう思った。


     ◇


 後半二十五分。


 マリナーズは、さらに攻勢を強めてきた。


 当然だ。


 このままでは負ける。


 しかも、残り時間は二十分ほど。


 焦るなという方が難しいだろう。


 石河が右サイドを突破する。


 だが、クロスは俺がクリアした。


 田井中が左サイドから仕掛ける。


 しかし、サイドバックとボランチが連携して対応する。


 神が中央へ走り込む。


 俺は、その進路を塞いだ。


 よし。


 いいぞ。


 守れている。


 マリナーズの攻撃は、相変わらず鋭い。


 だが、こちらも対応できている。

 

 時折俺たちも鋭いカウンターを仕掛けられている。

 

 もう一点取れば、勝てる!


 残り十五分。


 残り十分。


 時間が進むたびに、勝利が近づいてくる。


 青森田中の選手たちも、必死に走っていた。


 誰も気を抜いていない。


 前線の選手まで守備に戻り、相手の攻撃を遅らせる。


 ボランチは何度もパスコースを切り、サイドバックは石河と田井中に食らいつく。


 俺も、後方から声を出し続けた。


「ライン上げろ!」


「右、カバー!」


「神を見失うな!」


 いい。


 このままいける。


 そう思ったときだった。


 神が、こちらを見た。


 目が合った。


 前半までの、楽しそうな笑顔はなかった。


 だが、怒っているわけでもない。


 ただ、真剣だった。


 まっすぐに、俺を見ている。


 何だ?


 あいつ。


 何を考えている?


 神は、ゆっくりと息を吐いた。


 そして、再び走り出した。


 その動きを見て、俺は少しだけ違和感を覚えた。


 何かが変わった。


 だが、何が変わったのかは分からない。


 動きが速くなったわけではない。


 技術が急に上がったわけでもない。


 ただ。


 さっきまでとは、何かが違う。


 嫌な予感がした。


     ◇


 後半四十三分。


 残り時間は、あとわずか。


 マリナーズが左サイドへボールを展開した。


 田井中だ。


 こいつは、最後まで厄介だな。


 田井中が右サイドバックへ仕掛ける。


 細かいタッチ。


 右へ行くと見せかけて、左。


 さらに、急激な切り返し。


 サイドバックが必死についていく。


「中を切れ!」


 俺が叫ぶ。


 サイドバックが内側を塞ぐ。


 田井中は縦へボールを運んだ。


 そこへボランチが戻る。


 二人で挟む形。


 よし。


 これなら、自由にはさせない。


 だが、田井中は止まらなかった。


 わずかな隙間から、強引にクロスを上げようとする。


「ブロック!」


 サイドバックが足を伸ばした。


 ボールが、その足に当たる。


 軌道が変わった。


 中央へ向かうはずだったクロスが、大きく逸れる。


 ゴール脇のスペースへ。


 よし。


 これなら危険は少ない。


 そう思った瞬間だった。


 視界の端で、誰かが走り込んでくる。


 神だ。


 神誠一郎。


 あいつが、ボールの落下地点へ向かっていた。


 速い。


 いや、速いだけじゃない。


 ボールがDFの足に当たった瞬間には、もう動き出していた。


 まるで、そこへ飛んでくることが分かっていたかのように。


 俺は、すぐに状況を確認した。


 神が向かっているのは、ゴール脇の角度がほとんどない場所。


 あそこから直接シュートを狙うのは、かなり難しい。


 普通なら、トラップして中へ持ち込む。


 あるいは、ダイレクトで中央へ折り返す。


 俺は味方へ指示を出した。


「中を固めろ!神には俺が当たる!」


 DFが中央へ寄る。


 GKもニアを警戒する。


 神がトラップした場合には、俺が対処する。


 トラップ際を狩ってそのままカウンターだ。


 ダイレクトで折り返した場合には、中央のDFが対応する。


 よし。


 これなら大丈夫だ。


 神が落下点に入る。

 

 ボールを追い越し体をゴール側に向ける。


 その瞬間。


 神は、ゴールを見ていた。


 まさか。


 いや、待て。


 あの角度だぞ?


 そこから直接狙うのか?


 普通なら、あり得ない。


 だが。


 神は、普通じゃない。


 俺がそう思ったときには、もう遅かった。


 神が右足を振り抜いた。


 ダイレクトシュート。


 ボールは、鋭くゴールへ向かう。


 GKが反応した。


 ニアを塞ぐ。


 だが、神のシュートは、そのわずかな隙間を抜けた。


 そして。


 ファーポストの内側を叩いた。


 乾いた音が響く。


 ボールが跳ね返る。


 ゴールラインの内側へ。


 ネットが揺れた。


 ゴール。


 横浜マリナーズ、同点。


 二対二。


 スタジアムが、爆発したような歓声に包まれた。


 俺は、その場に立ち尽くした。


 何だ。


 今の。


 あの角度から?


 しかも、ダイレクトで?


 いや、確かに神なら打てるかもしれない。


 だが、あんなコースに正確に飛ばせるものなのか?


 GKはニアを警戒していた。


 DFも中央を固めていた。


 守備の対応は、間違っていなかったはずだ。


 普通なら、あそこから決められることはない。


 そう。


 普通なら。


 俺は、ゆっくりと神を見た。


 あいつは、ゴールの中へ走り込んでいた。


 そして、ボールを拾い上げる。


 チームメイトたちが駆け寄ってくる。


 石河が肩を叩く。


 田井中が何かを叫んでいる。


 だが、神は笑っていなかった。


 ボールを抱えたまま、センターサークルへ走っていく。


 同点で満足していない。


 まだ、勝つつもりなのだ。


 俺は、思わず笑ってしまった。


 まったく。


 何なんだよ、お前は。


 九回の人生で、俺は数え切れないほどの選手を見てきた。


 世界的なスター選手もいた。


 日本代表の選手とも、何度も対戦した。


 才能というものが、どれほど残酷なものかも知っている。


 だが。


 神誠一郎。


 こいつは、やっぱり特別だ。


 俺の知っているサッカーの常識を、平気で飛び越えてくる。


 しかも、それを当然のようにやってのける。


 天才。


 その言葉が、これほど似合う選手も珍しい。


 ……いや。


 感心している場合じゃないな。


 俺たちは、今まさに追いつかれたんだ。


 残り時間は、ほとんどない。


 しかも、相手は勢いに乗っている。


 俺は大きく息を吐いた。


 そして、味方へ声をかける。


「まだ終わってないぞ!」


 チームメイトたちが、こちらを見た。


「下向くな! 同点だ! まだ勝てる!」


 そうだ。


 まだ負けたわけじゃない。


 むしろ、ここからが本当の勝負だ。


     ◇


 主審が、アディショナルタイムを示した。


 残された時間は、わずか。


 スコアは二対二。


 青森田中高校と横浜マリナーズU18。


 高校最強とユース最強の決戦は、まだ終わらない。


 俺は、神を見た。


 神も、こちらを見ていた。


 その目は、試合開始前とはまるで違っていた。


 楽しそうに笑っていた少年の顔は、もうない。


 そこにいるのは、勝利だけを見据えた一人のストライカーだった。


 俺は、思わず口元を緩めた。


 まずいな。


 どうやら、あいつは本気で勝ちに来たらしい。


 だが。


 こっちだって、負けるつもりはない。


 九回の人生をかけて追い求めてきた夢。


 その十回目の挑戦は、まだ始まったばかりなんだ。


 こんなところで、立ち止まってたまるか。


 さあ、神。


 決着をつけようじゃないか。

ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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