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10回ループするまでにサッカー日本代表にならないと人類滅亡ってそりゃないよ  作者: いとやん


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15/19

10回目 第7話 高校最強とユース最強

 高円宮杯、決勝。


 青森田中高校対横浜マリナーズU18。


 高校最強とユース最強。


 サッカー雑誌が散々煽っていた対決が、ついに実現した。


 スタジアムには、予想以上の観客が集まっている。


 高校サッカーの関係者、ユースの指導者、プロクラブのスカウト。


 記者席にも、見覚えのある顔がちらほら見えた。


 まあ、当然だろう。


 何しろ、これから行われるのは高校年代の頂点を決める一戦だ。


 しかも、両チームにはプロ入りが期待される選手が何人もいる。


 マリナーズには、神誠一郎。


 石河、田井中。


 そして、こっちも俺を筆頭に数人。


 俺は、相手のウォーミングアップを眺めながら、改めてその顔ぶれを確認していた。


 いやあ、豪華だねえ。


 何しろ俺は知っている。


 あの中の何人かは、将来、日本代表にまで上り詰める選手だ。


「おい、何を見てるんだ?」


 隣にいたチームメイトが声をかけてきた。


「相手の選手だよ」


「あぁそうか、元チームメイトだもんな」


「ああ。あいつらとは中学のときに一緒にやってたからな」


「挨拶しなくていいのか?」


「ああ、今は敵だからな」


「試合前くらいいいだろ」


「いらない」


 そう、神を含め今奴らは敵なんだ。

 

 仲良くおしゃべりなんかは試合後にやればいい。


     ◇


 試合開始前。


 両チームの選手がピッチに並ぶ。


 そのとき、神と目が合った。


 あいつは、昔と変わらない笑顔で手を上げた。


 俺も軽く手を上げる。


 そして、整列が終わったところで、神が近づいてきた。

 

 くそ、さっきチームメイトにクールでカッコいいところをアピールしたところなのに。


 まぁ神ならしょうがないか。


「久しぶり!」


「おう。元気そうだな」


「うん! そっちもね」


 久しぶりに間近で見る神は、随分と身体が大きくなっていた。


 中学時代は細身だったが、今ではしっかりと筋肉がついている。


 それでも、動きの軽さは失われていない。


 むしろ、ウォーミングアップを見る限り、以前より速くなっているように見える。


 ……本当に厄介な成長をしてくれたものだ。


「今日は楽しみにしてたよ」


「俺もだ」


「でも、負けないからね」


「こっちのセリフだ」


 神は楽しそうに笑った。


 俺も笑い返す。


 いいねえ。


 こういうのは、嫌いじゃない。


 相手が強ければ強いほど、勝ったときの喜びも大きい。


 それに。


 今日は、神だけじゃない。


 横浜マリナーズそのものを倒す日だ。


 俺をユースに昇格させなかったクラブ。


 あのときの判断が間違っていたと、思い知らせてやる。


 ……いや、まあ。


 今となっては青森田中に来て本当によかったと思っている。


 センターバックという新しい道も見つかった。


 監督にも、先輩たちにも感謝している。


 でも、それとこれとは別問題だ。


 人間、そう簡単に恨みを忘れられるものではない。


 特に俺の場合、記憶力には自信があるからな。


 九回分の人生を覚えている男だぞ。


 三年前の屈辱なんて、昨日のことのように思い出せる。


「おい!」


 ベンチから監督の声が飛んできた。


「いつまでしゃべってる! 集中しろ!」


「はい!」


 まったく。


 決勝戦でも通常運転だな、このおっさんは。


 俺は神と軽く拳を合わせ、自分のポジションへ戻った。


 さあ。


 始めようか。


     ◇


 主審の笛が鳴った。


 青森田中のキックオフで試合開始。


 まずはボールを後方へ下げる。


 俺は味方からのパスを受けると、顔を上げた。


 マリナーズの前線が、すぐにプレスをかけてくる。


 神が中央のパスコースを切りながら、俺へ向かって走ってきた。


 なるほど。


 ただ突っ込んでくるわけじゃない。


 俺が出したいパスを消しながら、逃げ道を限定している。


 昔の神なら、もっと一直線にボールを追ってきただろう。


 成長したな。


 だが。


 それくらいで慌てる俺ではない。


「右、開け!」


 右サイドバックが外へ広がる。


 神がそちらへのパスを警戒した瞬間、俺は左へボールを運んだ。


 そして、逆サイドへ大きく展開する。


 ボールは、相手のプレスを越えて味方の足元へ届いた。


 よし。


 まずは一つ。


 マリナーズの守備の出方も、少し分かった。


 しかし、そこから先が簡単ではなかった。


 ボールを受けた味方が前を向いた瞬間、相手のサイドハーフが素早く寄せる。


 中央へのパスコースも、すでに消されていた。


 仕方なく後方へ戻す。


 すると、今度は神がプレスをかけてくる。


 速い。


 個人の足だけじゃない。


 チーム全体の動きが速い。


 誰か一人が寄せれば、別の選手がその背後を埋める。


 こちらが逃げた先にも、すぐに次の選手が現れる。


 さすが、ユース最強と呼ばれるだけのことはある。


 ただ、青森田中も負けていない。


 俺たちは、この三年間で何度も強豪と戦ってきた。


 プレスを受けることにも慣れている。


「一回戻せ!」


 味方のボランチへ指示する。


 ボールが戻ってくる。


 俺は相手の配置を確認し、今度は中央へ縦パスを入れた。


 攻撃的MFがワンタッチで落とす。


 ボランチが前を向く。


 そこから右サイドへ展開。


 相手の守備が横へ動いたところで、再び中央へ。


 よし、崩せる。


 そう思った瞬間だった。


 マリナーズの選手が、素早く身体を寄せてきた。


 ボールを奪われる。


 そして、すぐに前線へパス。


 神が走り出した。


「戻れ!」


 俺は叫びながら、神の進路へ身体を向けた。


 神はボールを受けると、ほとんど減速せずに前を向く。


 そのまま一気に加速。


 速い!


 中学時代より、明らかに速くなっている。


 俺は無理に飛び込まず、進路を限定する。


 右へ行かせない。


 中央も切る。


 神は一瞬だけ足を止めた。


 よし、止まった。


 そう思った次の瞬間。


 神は、ほとんど予備動作なしで左へボールを動かした。


 そして、俺の脇を抜けようとする。


 おいおい!


 昔はそこから一度、ボールを持ち直してただろ!


 俺は慌てて身体を入れた。


 完全には止められない。


 だが、シュートコースだけは消した。


 神は無理に打たず、後方へボールを戻す。


 危なかった。


 今のは、かなり危なかったぞ。


 中学時代の神なら、もう少し余裕を持って対応できたはずだ。


 それが今では、判断も動きも一段と速い。


 こいつ、本当に成長したな。


 神も俺を見て、少し驚いたような顔をしていた。


「すごいね」


「何がだ?」


「今の、絶対抜けたと思ったのに」


「昔の俺はセンターバックじゃなかったからな」


「そうだったね」


 神は笑うと、再び前線へ戻っていった。


 まったく。


 試合中だというのに、楽しそうなやつだ。


 まあ、俺も人のことは言えないか。


     ◇


 前半十五分。


 ここまでは互角だった。


 青森田中は俺を中心にボールを動かし、マリナーズのプレスをかわしながら攻撃する。


 一方のマリナーズは、高い個人技と素早い連携でこちらの守備を崩そうとしてくる。


 どちらも、簡単には決定機を作れない。


 ただ、少しずつ気になることがあった。


 マリナーズの右サイド。


 石河だ。


 こいつが、厄介だった。


 とにかく速い。


 それも、ただ足が速いだけじゃない。


 ボールを持った状態での加速が異常に速い。


 相手を一歩ずらしてから、一気に縦へ抜ける。


 青森田中の左サイドバックも、決して遅い選手ではない、むしろ早さを売りにしている。


 だが、石河のスピードには苦戦していた。


「無理に取りに行くな! 縦を切れ!」


 俺が指示を出す。


 サイドバックが身体の向きを変える。


 石河は一度、内側へ切り返した。


 そこへボランチが寄せる。


 よし。


 これなら止められる。


 しかし、石河はすぐにボールを後方へ戻した。


 そして、味方とのワンツー。


 再び縦へ抜ける。


 速い!


「カバー!」


 俺は叫びながら、中央の位置を調整した。


 石河がクロスを上げる。


 相手の長身FWがゴール前へ飛び込んできた。


 俺はその動きを確認し、落下地点へ向かう。


 何とか先に触り、ボールをクリアした。


 ふう。


 危ない危ない。


 だが、今の攻撃で分かったことがある。


 石河の突破力は、想像以上だ。


 そして、マリナーズはその武器を最大限に生かす形を持っている。


 右サイドを突破してクロス。


 中央には長身FW。


 さらに、その周囲を神が動き回る。


 厄介だ。


 実に厄介だ。


 だが、止められない攻撃ではない。


 そう思っていた。


 少なくとも、そのときまでは。


     ◇


 前半二十二分。


 マリナーズが右サイドでボールを持った。


 石河だ。


 また来たか。


 俺は、味方へ指示を飛ばす。


「縦を警戒! ボランチ、カバーに入れ!」


 左サイドバックが石河へ寄せる。


 石河は一度、ボールを止めた。


 そして、突然加速した。


 速い!


 サイドバックが身体を入れようとする。


 だが、石河はその外側を一気に抜けた。


 深い位置まで侵入。


「クロス来るぞ!」


 俺は中央へ目を向けた。


 長身FWが走り込んでくる。


 その背後には神。


 まずい。


 石河の突破が速すぎて、守備の位置を整える時間が足りない。


 クロスが上がった。


 高いボール。


 狙いは長身FWだ。


 俺は落下地点へ向かう。


 だが、相手もすでに飛び込んできていた。


 間に合うか?


 いや、厳しい。


 俺は身体を寄せて、ゴール方面にはヘディングさせないようにする。


 しかし、長身FWの狙いはシュートではなかった。


 身体をひねり、頭でボールを後方へ落としたのだ。


 しまった!


 落とし先。


 そこへ走り込んでいたのは、神誠一郎。


 俺は振り向いた。


 神が右足を振り抜く。


 ダイレクトボレー。


 ボールは、鋭い軌道を描いてゴールへ飛んだ。


 GKが反応する。


 だが、届かない。


 ネットが揺れた。


 ゴール。


 横浜マリナーズU18、先制。


 〇対一。


 スタジアムの一角から、大きな歓声が上がった。


 神は拳を握りしめ、チームメイトたちに囲まれていた。


 石河も駆け寄る。


 長身FWも笑顔で神の肩を叩いている。


 ……やられた。


 見事にやられたな。


 神のボレーは、確かに素晴らしかった。


 あのボールを、あの体勢から正確にゴールへ飛ばす。


 普通の高校生には、そう簡単にできない芸当だ。


 だが。


 俺が本当に驚いたのは、そこじゃない。


 石河の突破。


 長身FWの落とし。


 神の飛び込み。


 すべてが、きれいにつながっていた。


 誰か一人の力だけではない。


 それぞれが、自分の武器を理解している。


 そして、味方の武器も理解している。


 だから、あれだけ速く、正確な攻撃ができる。


 なるほど。


 これが、横浜マリナーズU18か。


 ユース最強という評価は、伊達じゃないらしい。


 ……ちくしょう。


 腹立つくらい、いいチームじゃないか。


     ◇


 試合が再開した。


 青森田中の選手たちは、少し動揺していた。


 無理もない。


 ここまで全国の強豪と何度も戦ってきたが、あれほど完成度の高い攻撃を受ける機会は多くない。


 しかも、相手はマリナーズ。


 個人技だけでも十分に脅威になる選手が、組織として連携している。


 だが、ここで慌てるわけにはいかない。


「落ち着け! まだ一点だ!」


 俺は声を張り上げた。


「いつもどおりやればいい! 焦るな!」


 味方が頷く。


 ボランチがボールを受ける。


 俺は後方から指示を出し、攻撃の組み立てを始めた。


 ただし、頭の中では別のことも考えていた。


 どうすれば、あの攻撃を止められる?


 石河の突破。


 長身FWの落とし。


 神のシュート。


 単純に神をマークするだけでは、石河にやられる。


 石河を二人で止めようとすれば、中央が薄くなる。


 長身FWに人数をかければ、神が自由になる。


 ……うまくできてるなあ。


 本当に、よく考えられた攻撃だ。


 だが、どんな攻撃にも弱点はある。


 九回の人生で、俺はそれを嫌というほど学んできた。


 相手の長所は、使い方によって短所にもなる。


 石河のスピードは強力だ。


 だが、そのスピードを生かすためには、前へ出なければならない。


 深い位置まで攻め上がれば、その背後にはスペースが生まれる。


 そこを使えないか?


 俺は、マリナーズの右サイドを確認した。


 石河は、攻撃時にはかなり高い位置まで上がる。


 もちろん、その背後を味方がカバーしている。


 だが、攻撃が終わった直後ならどうだ?


 カバーの選手が戻りきる前に、こちらがボールを運べれば。


 チャンスはある。


 問題は、どうやってボールを奪うかだ。


 石河のクロスは、正確だった。


 そして、長身FWは空中戦に強い。


 普通に競り合っていては、また同じ形でやられる可能性がある。


 ならば。


 競り合う前に、落下地点へ入ればいい。


 石河がクロスを上げる瞬間。


 身体の向き。


 軸足の位置。


 ボールを蹴る角度。


 そこから軌道を予測する。


 もちろん、完璧に読めるわけではない。


 だが、何も考えずに飛び込むよりは、ずっといい。


 俺は、味方の左サイドバックへ声をかけた。


「次も石河が来るぞ!」


「分かってる!」


「無理に奪わなくていい! クロスを上げる位置を限定してくれ!」


「おう!」


「できれば、さっきより外へ追い込め!」


 続いて、ボランチへ指示する。


「左のカバー、少し厚くしてくれ!」


「了解!」


 そして、左サイドハーフを呼んだ。


「おい、次に石河が深く上がったら、お前は少し高い位置に残れ」


「え? 守備に戻らなくていいのか?」


「戻らなくていいわけじゃない。石河の背後を狙える位置にいてほしいんだ」


「カウンターか?」


「ああ」


 俺は、相手の配置を指さした。


「石河が上がると、あそこが空く。ボールを奪えたら、そこへ出す」


「でも、お前らの守備は大丈夫なのか?」


「その分は、こっちで調整する」


 俺はボランチとサイドバックに目を向けた。


「カバー頼むぞ!」


「任せろ!」


 よし。


 準備はできた。


 あとは、もう一度チャンスが来るかどうか。


 ……いや。


 来るだろうな。


 石河は、あれだけ突破できているんだ。


 マリナーズが使わない理由がない。


 ならば、次はこっちの番だ。


     ◇


 前半三十六分。


 マリナーズが再び右サイドへ展開した。


 石河だ。


 来た。


 俺は、すぐに味方の位置を確認した。


 左サイドバックが石河へ寄せる。


 ボランチが、その内側をカバー。


 そして、左サイドハーフは少し高い位置に残っている。


 よし。


 狙いどおりだ。


 石河は、またしても縦へ仕掛けた。


 サイドバックが必死についていく。


 だが、石河の加速は鋭い。


 一瞬で半歩前に出た。


 そのままクロスを上げる体勢に入る。


 俺は、石河の足元を見た。


 軸足。


 身体の向き、体勢。


 振り抜く足の角度。


 クロスが上がる。


 高いボール。


 先ほどと似た軌道だ。


 長身FWが中央へ飛び込んでくる。


 さっきと同じ形。


 だが、今度は違う。


 俺は、ボールが上がった瞬間には動き始めていた。


 長身FWよりも先に、落下地点へ入る。


 相手が背後から身体を寄せてきた。


 重い。


 さすが、長身FW。


 だが、位置はこちらが先に取っている。

 

 チラッと左サイドのスペースを確認する。


 俺は踏ん張り、タイミングを合わせて跳んだ。


 そして、額でボールを捉える。


 よし!


 クリア成功。


 だが、ここで終わりじゃない。


 俺は、ただ遠くへ蹴り出したわけではなかった。


 狙いは、左サイド。


 石河が攻め上がったことで空いたスペースだ。


 そこには、俺があらかじめ残していた左サイドハーフがいる。


 ボールが、その前方へ飛んでいく。


「走れ!!」


 俺が叫ぶ。


 左サイドハーフが、一気に加速した。


 マリナーズの選手が慌てて戻る。


 だが、間に合わない。


 俺のクリアは、味方の走る方向へ落ちた。


 左サイドハーフがボールを収める。


 そのまま、前へ。


 青森田中のカウンターが始まった。


「行けえええ!!」


 ベンチからも声が飛ぶ。


 俺は後方から、味方の動きを確認した。


 中央のFWが走り出している。


 攻撃的MFも、その後ろから上がっている。


 マリナーズの守備陣は、必死に戻っている。


 だが、全体が前がかりになっていたので戻り切れていない。


「早めに入れろ!」


 俺の声が届いたかどうかは分からない。


 だが、左サイドハーフは、ほぼ同じタイミングでクロスを上げた。


 アーリークロス。


 相手の守備が整う前に、中央へボールを送り込む。


 青森田中のFWが走り込む。


 相手DFも必死についていく。


 だが、わずかにFWの方が早かった。


 右足を伸ばす。


 ボールに触れた。


 シュート!


 GKが飛ぶ。


 しかし、ボールはその手をすり抜けた。


 ゴール!!


 青森田中、同点!!


 一対一。


 スタジアムが、大きく沸いた。


 FWが両手を広げて走り出す。


 左サイドハーフが追いかける。


 ほかの選手たちも、次々と駆け寄った。


 俺も思わず拳を握った。


「よっしゃあ!!」


 完璧だ。


 狙いどおりのカウンターだった。


 もちろん、最後に決めたFWも素晴らしい。


 クロスを上げた左サイドハーフも、最高の仕事をした。


 だが、その攻撃は、石河がクロスを上げる前から始まっていた。


 俺が守備の配置を調整し、左サイドハーフを残した。


 相手の攻撃を読み、ボールを奪う。


 そして、空いたスペースへ送る。


 守備と攻撃。


 その二つが、完全につながった。


 これだ。


 これが、俺の目指しているセンターバックだ。


 ただ相手の攻撃を止めるだけじゃない。


 止めた瞬間から、次の攻撃を始める。


 いや。


 正確には、止める前から攻撃を考えている。


 九回の人生で磨いてきた攻撃的MFとしての経験。


 それが、センターバックというポジションで生きている。


 俺は、改めてその面白さを感じていた。


     ◇


 同点に追いついたことで、青森田中の選手たちの動きがよくなった。


 マリナーズの攻撃にも、落ち着いて対応できるようになっている。


 石河がボールを持てば、サイドバックとボランチが連携して対応する。


 田井中が左サイドから仕掛けてくれば、右サイドバックが内側を切る。


 そして、神が中央へ入ってくれば、俺が対応する。


 もちろん、すべてを完璧に止められるわけではない。


 だが、相手に自由を与えないことはできる。


 前半四十二分。


 神がペナルティーエリア手前でボールを受けた。


 俺は、すぐに距離を詰める。


 神は一度、右へボールを動かした。


 俺はついていく。


 次に、左へ切り返す。


 だが、そこにはボランチが戻っていた。


 神は、一瞬だけ動きを止めた。


 よし。


 今度は、簡単には抜かせない。


 神は無理に突破せず、後方へボールを戻した。


 俺は、少しだけ息を吐いた。


 ふう。


 何とか抑えたな。


 だが、油断はできない。


 神は、まだ一度も本気の勝負を仕掛けてきていないように見える。


 いや、もちろん手を抜いているわけじゃない。


 むしろ、チームの一員として、非常に質の高いプレーをしている。


 だが。


 俺は知っている。


 神誠一郎という選手の、本当の恐ろしさを。


 中学時代。


 あいつは、何度も俺の予想を超えるプレーを見せてきた。


 普通なら無理だと思うところから、シュートを決める。


 抜けないと思った相手を、あっさり抜く。


 追い詰められた場面で、信じられないような選択をする。


 しかも、本人にはそれが特別なことだという自覚がない。


 あれが、天才というものなんだろう。


 そして今の神は、中学時代よりはるかに成長している。


 まだ、何かを隠している。


 そんな気がしてならなかった。


     ◇


 前半四十五分。


 主審が時計を確認した。


 そして、笛が鳴る。


 前半終了。


 青森田中高校、一点。


 横浜マリナーズU18、一点。


 互角のまま、試合はハーフタイムへ入った。


 俺たちは、ベンチへ戻る。


 チームメイトたちの表情は、明るかった。


「よし、追いついたな!」


「いけるぞ、これ!」


「マリナーズ相手でも、十分やれるじゃないか!」


 確かに、手応えはあった。


 先制点こそ奪われたが、その後はしっかりと修正できた。


 石河の突破にも対応した。


 神にも、決定的な場面をほとんど作らせていない。


 青森田中の守備は、十分に通用している。


 それは間違いない。


 だが。


 俺は、少し気になっていた。


 前半終了間際。


 神は、俺たちの守備を見ながら、何かを考えているようだった。


 焦っている様子はない。


 苛立っている様子もない。


 むしろ、楽しそうだった。


 あいつ。


 何を考えている?


「おい!」


 監督の声が響いた。


「前半は悪くなかった! だが、相手はまだ何か仕掛けてくるぞ!」


 さすが監督。


 同じことを考えていたらしい。


 俺は、チームメイトたちに声をかけた。


「みんな、まだ安心するなよ」


「分かってるって」


「いや、特に神だ。あいつは、こんなもんじゃない」


 チームメイトの一人が笑った。


「お前、あいつのこと買いすぎじゃないか?」


「そうかもしれないな」


 俺は、そう答えた。


 だが、心の中では違うことを考えていた。


 買いすぎ?


 いや。


 むしろ、まだ足りないくらいだ。


 神誠一郎。


 あいつの才能は、こんなところで終わるものじゃない。


 そして、俺たちはまだ知らない。


 この試合が、ここからどれほど激しくなるのかを。


 前半は一対一。


 高校最強とユース最強。


 二つの頂点は、まだ互いに譲らない。


 勝負は、後半へ持ち越された。

ほかにもサッカー小説を投稿しています。

この小説とはかなり読み味が違う作品ですが、よろしければご一読ください。


この街に、プロサッカークラブを。

~選手の能力が見えるIT社長、県6部からプロを目指す~


https://ncode.syosetu.com/n2172mu/

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