第八話 空白の先にあるもの
翌朝。
目を覚まして、最初に思い出したのは昨日のことだった。
「13番線……」
あの謎の放送。
そして、存在しない13~19番線。
「……やっぱり気になる。」
俺は新大阪駅へ向かった。
昨日までなら、未来の新大阪を見て「すげぇ!」と思っていただけだった。
でも今は違う。
駅を見るたびに、あの数字が頭に浮かぶ。
11・12番線。
その次が、
20番線。
13、14、15、16、17、18、19。
七つの番号が、きれいに抜けている。
「今日は、この謎をちゃんと調べる。」
⸻
まずは駅の案内表示を見る。
何度確認しても同じ。
11・12番線
その下には、
20~27番線
13~19番線の表示はない。
当然だ。
そこにはホームもない。
線路もない。
そもそも、13~19番線という場所自体が存在しない。
「でも……。」
俺は考える。
もし本当にただの欠番なら、わざわざ七つもまとめて飛ばす必要があるのだろうか。
一つ二つならまだ分かる。
でも七つ。
「何か理由があるはず。」
⸻
俺は案内所へ向かった。
「あの、昨日も聞いたんですけど……。」
「はい。」
「13~19番線について、もう少し詳しく分かることってありますか?」
駅員さんは少し考えた。
「13~19番線は、現在の新大阪駅にはありません。」
「それは分かってるんですけど……番号が飛んでいる理由は?」
「理由ですか……。」
駅員さんは端末を操作する。
しばらく画面を見たあと、
「駅の番線番号には、将来の設備計画を見越して、あらかじめ確保されている番号があります。」
「……!」
俺は思わず身を乗り出した。
「じゃあ、13~19番線も?」
「可能性はあります。」
「将来ここに新しいホームを造る予定があるんですか?」
「現時点では、具体的な新線計画はありません。」
「じゃあ、何のために?」
駅員さんは少し笑った。
「将来のためです。」
「将来……。」
「鉄道施設を新設するとき、既存の番線を全部変更するのは大変ですからね。」
「なるほど。」
「ただ、13~19番線については、現時点で具体的な計画はありません。」
「分かりました。ありがとうございます。」
俺は案内所を離れた。
「……将来のために、番号だけ確保してる。」
これなら少し納得できる。
でも、まだ疑問は残る。
なぜ13~19番線なのか。
そして――
何を想定しているのか。
⸻
俺は駅の歴史資料を見に行った。
昔の新大阪駅の構内図。
駅の改良記録。
ホーム増設の資料。
いろいろなものを見ていく。
すると、ある古い資料に目が止まった。
「将来の駅施設拡張を考慮した番線番号設定について」
「……これか?」
ページを開く。
そこには、番線番号を設定する際の考え方が書かれていた。
新しい路線ができるたびに、既存の番号を変更すると混乱する。
そのため、
将来的に大規模な設備を追加する可能性がある場所には、あらかじめ番号を確保しておく。
そんな考え方だった。
「なるほど……。」
俺は読み進める。
そして、具体的な番号が書かれた図を見つけた。
11・12番線
その次に、
13~19番線
そして、
20~27番線
「……!」
まさに今の新大阪と同じ。
「最初から、この番号を残すつもりだったんか。」
俺は驚いた。
つまり――
13~19番線は、存在しないのではない。
まだ存在させていない。
そのための番号だけを、ずっと残している。
⸻
しかし、資料には気になる一文があった。
「13~19番線については、将来の広域交通計画を想定した番号確保とする。」
「広域交通計画……?」
俺はその言葉を何度も読む。
新線計画ではない。
具体的な路線名もない。
ただ、
「将来の広域交通計画」
それだけ。
「2054年になっても、まだ具体化してないのか。」
そう考えると、少し不思議だった。
2026年から28年。
それだけの時間が経っても、13~19番線は存在しない。
それでも番号は残されている。
「じゃあ、この計画って……。」
俺は駅の構内図をもう一度見た。
11・12番線。
その次は20~27番線。
「……やっぱり13~19番線がない。」
でも、そこでふと思った。
「待てよ。」
新大阪駅には、地上だけじゃない。
地下にも鉄道施設がある。
「まさか……。」
俺は地下の構内図を確認した。
地下鉄のホーム。
地下通路。
さまざまな施設が描かれている。
しかし――
13~19番線の表示はない。
「地下にもないのか。」
俺は少し考えた。
「じゃあ、13~19番線って……」
そのとき、改良計画の資料に載っていた一文を思い出した。
「将来整備予定区域」
「……地下?」
俺は資料の図を拡大した。
すると、新大阪駅の地下部分に、将来的な鉄道施設を整備することを想定した区域が示されていた。
現在は何もない。
ホームもない。
線路もない。
ただ、将来そこに地下の鉄道施設を造ることを見越している。
「これ……13~19番線のことじゃないか?」
俺は画面を見つめた。
つまり、13~19番線は地上に造るための番号ではない。
将来、新大阪の地下に新たな鉄道施設を造るために、あえて確保されている番号なのだ。
「だから地上の案内には出てこないんか……。」
今はまだ存在しない。
だから、案内表示にもない。
ホームもない。
線路もない。
そして、正式な新線計画もまだない。
それでも――
番号だけは、未来のために残されている。
「……なるほど。」
俺はようやく、第七話から続いていた謎の一つが解けた気がした。
13~19番線は「消えた番線」ではなかった。
まだ生まれていない番線だった。
そして、その誕生する場所は――
新大阪の地下。
俺はもう一度、未来の新大阪駅の構内図を見る。
地上には存在しない13~19番線。
地下に眠る、まだ存在しない7本のホーム。
その空白は、偶然ではなかった。
未来の計画を見越して、最初から残されていたのだ。
「……これ、めちゃくちゃ気になるな。」
俺はスマホを閉じた。
まだ計画の詳細は分からない。
何の路線が来るのかも分からない。
いつ完成するのかも分からない。
ただ一つ分かっているのは――
新大阪の地下には、まだ誰も利用したことのない「13~19番線」という未来が待っている。
昼。
俺は駅のベンチで昼食を食べながら考えていた。
「将来の広域交通計画。」
この言葉が頭から離れない。
そして昨日のニュース。
新大阪駅改良計画。
さらに、
関西圏広域交通網の再編。
「……つながってる?」
俺はスマホを取り出した。
2054年のニュースを検索する。
しかし、詳しい情報は出てこない。
まだ正式発表前なのだろう。
「そういや、改良計画の正式発表は来月だったな。」
つまり――
今はまだ、誰も詳しいことを知らない。
13~19番線も同じ。
番号だけは確保されている。
でも、その番号を実際に使う計画は、まだ発表されていない。
「だから駅員さんも『具体的な計画はない』って言ったんか。」
俺は少し納得した。
⸻
午後。
俺はもう一度、13~19番線の「将来」を考えてみることにした。
駅の構内図を広げる。
11・12番線。
そして20~27番線。
その間に、番号だけが存在する。
実際の駅には何もない。
でも、もし将来ここにホームができたら――
7本の番線が一気に増える。
「新大阪、さらにデカくなるな。」
俺は思わず笑った。
でも、7本も増えるとなると、それなりに大きな計画になる。
普通の小さな路線じゃない。
「一体、何を想定してるんやろ。」
そのとき、昨日聞いた男性の言葉を思い出した。
「存在しなかったことになっている。」
今なら、その意味が少し分かる。
13~19番線は、存在していない。
でも――
存在することを前提に、番号だけが残されている。
「空白そのものが、未来のための準備なんや。」
⸻
夕方。
俺は阪急新大阪線のホームへ向かった。
昨日乗ったばかりなのに、また来てしまった。
「……やっぱり気になるんよな。」
ちょうど列車が入ってくる。
ドアが開く。
乗客が降りる。
そして、また乗っていく。
未来の阪急。
この路線も、今では新大阪駅に当たり前のように乗り入れている。
俺はホームのベンチに座った。
「ふかふかだぁー。」
『ホームのベンチもふかふかなんだな……』
昨日と同じことを言ってしまう。
そして列車が動き出す。
「……静かだー。」
これも昨日と同じ。
思わず笑う。
「でも、これも昔はなかったんだよな。」
2026年には存在しなかった阪急新大阪線。
2054年には当たり前に存在している。
つまり――
未来の鉄道は、今は存在しないものが普通に存在する。
だったら、
今は存在しない13~19番線も、いつかは使われる可能性がある。
そう考えると、少しワクワクした。
⸻
俺はコンコースへ戻った。
大型モニターを見る。
ニュースが流れている。
「新大阪駅改良計画、来月正式発表へ」
「……またこれか。」
その下には、
「関西圏の鉄道ネットワークについても、同時期に新たな発表が予定されています。」
「……!」
俺は立ち止まった。
関西圏の鉄道ネットワーク。
13~19番線の番号を確保した理由。
新大阪駅改良計画。
全部が少しずつつながってきた。
「でも、まだ何ができるのかは分からない。」
今の時点では、正式な新線計画はない。
だからこそ、13~19番線はまだ空白のまま。
未来を見越して、あえて空けている。
それだけなのだ。
⸻
夜。
俺は駅のベンチに座っていた。
今日分かったことをスマホにまとめる。
13~19番線
・ホームなし
・線路なし
・案内表示なし
・現在の新線計画なし
・しかし番号は意図的に欠番として確保
・将来の広域交通計画を見越したもの
・具体的な計画はまだ公表されていない
「……。」
昨日より、かなり分かった。
でも、謎が完全になくなったわけじゃない。
むしろ新しい疑問が生まれた。
「将来の広域交通計画って、何?」
そして、
「なぜ7本もの番線が必要になる?」
俺は新大阪駅を見上げた。
巨大な駅。
何本もの列車が行き交っている。
でも、その中にはまだ存在しない場所がある。
13~19番線。
今は何もない。
しかし、その番号だけは未来を待っている。
「……空白の先に、何があるんやろ。」
俺はそう呟いた。
そのとき。
スマホに通知が入った。
「新大阪駅改良計画に関する事前資料が公開されました。」
「……!」
俺はすぐに開く。
そこには一枚の図が表示されていた。
新大阪駅の未来予想図。
現在とは少し違う。
そして、13~19番線の場所には――
まだ何もない。
「……。」
やっぱり、空白だ。
でも、その図の端に、小さな文字があった。
「将来整備予定区域」
「……これか。」
13~19番線そのものではない。
しかし、その番号を確保している理由と関係している可能性は高い。
そして、その下にはさらに小さく、
「詳細については今後の発表を予定」
と書かれていた。
「まだ秘密ってことか。」
俺はスマホを閉じた。
でも、これで一つだけ確かなことが分かった。
13~19番線は、偶然の欠番ではない。
誰かが、未来を見越して、
あえて空けた。
今はまだ何もない。
計画も正式にはない。
それでも、その番号だけは残されている。
未来が来たとき、すぐに使えるように。
「……なるほどな。」
俺は立ち上がった。
第七話で見つけた「空白」。
その正体は、完全な謎ではなかった。
それは、未来への予約だった。
ただ――
その予約が、いったい何のためなのか。
そこだけは、まだ分からない。
俺は新大阪駅を出る。
夜の街に、列車の音が響いていた。
そして俺は思った。
空白の先には、まだ何かがある。
13~19番線が実際に使われる日は来るのか。
そのとき、どんな列車がやって来るのか。
そして――
その計画が正式に発表されたとき、俺はその場に立ち会えるのか。
まだ何も分からない。
でも、未来は確実に動き始めていた。
第八話、読んでいただきありがとうございます!
今回は前回から続いていた13~19番線の謎を、少しずつ掘り下げてみました!
第七話では、
「なんで11・12番線の次が20番線なん?」
というところから始まったこの謎。
今回、その理由が少しだけ明らかになりました。
13~19番線は、単なる欠番ではありません。
将来の計画を見越して、あえて番号を確保している。
しかも、その場所は――
新大阪駅の地下。
現在はまだホームも線路もありません。
もちろん、現時点で具体的な新線計画が発表されているわけでもありません。
それでも、将来そこに鉄道施設を造る可能性を考えて、13~19番線という7本分の番号だけが残されています。
「まだ存在しない番線」というのが今回のポイントです。
そして、7本もの番線が必要になるほどの計画とは一体何なのか。
ここは今後の大きな伏線になっていく……かもしれません
今回は第七話よりさらに設定を増やしたので、かなり未来の新大阪らしい話になったと思います。
新大阪駅、どこまでデカくなるんや……
次回は、この地下に眠る13~19番線が、いよいよ別の計画とつながっていくかもしれません。
第九話もお楽しみに!




