第七話 空白の13〜19番線
翌朝。
俺は新大阪駅のベンチで目を覚ました。
昨日は朝から夕方まで、ほぼ一日中この駅を歩き回った。
なにわ筋線。
東海道・山陽新幹線。
北陸新幹線。
阪急新大阪線。
未来の新大阪は、とにかく広かった。
「……今日も新大阪か。」
正直、昨日だけでもかなり疲れた。
でも、どうしても気になることが一つある。
昨日、駅の案内表示を見ていて気づいたこと。
それは――
13~19番線が存在しないこと。
「なんでなんやろ。」
俺はスマホのメモを開く。
そこには昨日の番線を書いていた。
1~10番線。
11・12番線。
20~27番線。
28番線。
29~32番線。
33番線。
34~37番線。
「……やっぱり。」
13、14、15、16、17、18、19。
この七つだけが、きれいに抜けている。
しかも、ただ番号が飛んでいるだけではない。
駅の案内表示にもない。
構内図にもない。
ホームもない。
線路もない。
そして――
新しい路線を造る計画すらない。
「じゃあ、なんで?」
それが今日の疑問だった。
⸻
俺はまず、駅の中央コンコースへ向かった。
巨大な案内表示の前に立つ。
路線一覧を確認する。
在来線。
なにわ筋線。
東海道・山陽新幹線。
北陸新幹線。
阪急新大阪線。
いろいろな路線が並んでいる。
「……。」
もう一度見る。
やっぱり13~19番線の表示はない。
「そりゃそうか。」
存在しないんだから、案内されるわけがない。
でも、俺は少し違和感を覚えた。
「番号って、普通は順番につけるよな?」
例えば1~10番線がある。
その次に新しいホームを造ったなら、11、12、13……と続ける。
昨日見たなにわ筋線の11・12番線は、まさにそうだった。
1番線の隣に新設されたから、番号は11・12。
「じゃあ、その次は13~19じゃないんか?」
なのに、いきなり20番線。
「……変やな。」
⸻
俺は新幹線の案内へ向かった。
20番線。
21番線。
22番線。
23番線。
24番線。
25番線。
26番線。
27番線。
そして28番線。
ここまでは分かる。
「でも、11・12の次が20。」
改めて考えると、かなり不思議だ。
俺は駅の案内板を写真に撮った。
もちろん、13~19番線なんてどこにも書かれていない。
「存在しない番線を探すって、どうすればいいんだよ……。」
自分で言って笑ってしまった。
⸻
次に、駅員さんへ聞いてみることにした。
案内所へ向かう。
「あの、すみません。」
「はい、どうされましたか?」
「新大阪駅の番線について聞きたいんですけど。」
「はい。」
「11番、12番の次が20番になってますよね?」
「そうですね。」
「13~19番線って、昔はあったんですか?」
駅員さんは少し考えた。
「13~19番線……ですか?」
「はい。」
「いえ、現在の新大阪駅には、その番号の番線はありません。」
「昔は?」
「……私が知る限りでは、ありませんね。」
「じゃあ、番号が飛んでる理由って分かります?」
駅員さんは苦笑いした。
「それについては、ちょっと分からないですね。」
「そうなんですか。」
「番線番号は駅の歴史や改良の過程で決まるので、必ずしも全部が順番になるとは限りません。」
「なるほど……。」
「ただ、13~19番線については、現在使われているわけでも、将来の新線用として確保されているわけでもありません。」
「……!」
そこまで聞いて、俺は余計に気になった。
「じゃあ、本当に何もないんですね。」
「はい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
俺は案内所を離れた。
「……余計分からなくなった。」
⸻
俺はもう一度、駅構内を歩く。
11・12番線へ向かう。
なにわ筋線のホームは普通に存在する。
列車も来る。
南海の列車も来る。
JRの列車も来る。
駅員もいる。
乗客もいる。
そして、その先は――
20番線。
「……。」
11・12番線から20番線へ向かう通路を歩いてみる。
途中に13番線への分岐があるわけでもない。
14番線への階段もない。
15番線のホームもない。
16、17、18、19もない。
ただ、普通に20番線へつながっている。
「本当に何もない。」
俺は立ち止まった。
「番号だけ消えたみたいになってる。」
⸻
昼過ぎ。
俺は駅の資料コーナーへ行ってみた。
昨日見つけた、新大阪駅の歴史を紹介する展示だ。
「もしかしたら昔の構内図に何かあるかも。」
昔の新大阪駅の写真。
開業当時の駅。
その後の改良。
新幹線の開業。
さまざまな資料が並んでいる。
俺は駅の構内図を一枚ずつ見ていった。
「1~10番線……。」
ある。
「11、12番線……。」
ある。
「20番線……。」
ある。
「……。」
13~19番線はない。
昔の資料にもない。
別の年代の資料を見る。
ない。
さらに別の資料。
やっぱりない。
「ずっとないやん。」
俺は少し驚いた。
2054年になって消えたわけじゃない。
少なくとも、資料を見る限りでは――
最初から存在していない。
「じゃあ、なんで20番線から始まってるんだ?」
ここで俺は、一つの可能性を考えた。
「もしかして……新幹線側の番号に合わせた?」
でも、それならなにわ筋線の11・12番線がある。
「うーん。」
分からない。
⸻
俺はスマホを取り出した。
2026年にいた頃の新大阪駅の写真を探す。
昔撮った写真。
駅の案内表示。
ホーム。
構内図。
「……。」
見比べてみる。
もちろん2054年とは違う。
でも、番線番号には共通する部分があった。
「20番線から新幹線。」
そこは変わっていない。
俺は少し安心した。
未来になっても、変わらないものはある。
けれど――
「13~19番線だけは、ずっとない。」
そう考えると、やっぱり不思議だった。
⸻
夕方。
俺は再びコンコースへ戻った。
大型案内表示を見る。
11・12番線
その下は、
20~27番線
と表示されている。
たったそれだけ。
13~19番線の痕跡はない。
「……。」
俺は案内板を見つめた。
昨日までは、ただの数字の飛びだと思っていた。
でも、今日一日調べてみて分かった。
これは単純な空き番ではない。
「最初から存在しない番号」
なのだ。
じゃあ、なぜ?
駅員にも分からない。
資料にも記録がない。
新線計画もない。
未来の計画にも出てこない。
「……謎すぎる。」
俺はベンチに座った。
すると、隣に座っていた男性が、俺のスマホ画面をちらっと見た。
「13から19?」
「え?」
男性が俺を見る。
「その番号、気になってるの?」
「はい。」
俺は少し驚いた。
「なんで?」
男性は少し笑った。
「昔から鉄道が好きな人なら、たまに気にするんだよ。」
「やっぱり気になる人いるんですか?」
「ああ。」
「じゃあ、理由知ってるんですか?」
男性は首を横に振った。
「知らない。」
「なんやそれ!」
思わずツッコんだ。
男性は笑った。
「でも、一つだけ聞いたことがある。」
「何ですか?」
「13~19番線は――」
男性が少し間を置く。
「『存在しなかったことになっている』って。」
「……え?」
俺は男性を見る。
「どういう意味ですか?」
しかし、男性は立ち上がった。
「さあな。」
「ちょ、待ってください!」
男性はそのまま人混みの中へ消えていった。
「……なんなんだよ。」
俺はしばらく動けなかった。
⸻
夜。
駅の照明が少し暗くなる。
列車が次々と発車していく。
俺はもう一度、案内板を見る。
11・12番線。
20~27番線。
その間には何もない。
でも――
さっきの男性の言葉が頭から離れない。
「存在しなかったことになっている」
「……。」
俺はスマホにメモを残した。
13~19番線
・ホームなし
・線路なし
・案内表示なし
・過去の資料にもなし
・新線計画なし
そして最後に、
・なぜ番号が飛んでいるのか不明
と書いた。
「これ、調べても答え出ないやん……。」
俺はため息をついた。
でも、不思議と嫌な気分ではなかった。
分からないなら――
調べればいい。
俺はそういうのが嫌いじゃない。
むしろ、気になる。
「……明日も調べるか。」
俺は立ち上がった。
新大阪駅を出ようとした、その瞬間。
背後から、駅の放送が聞こえた。
「お客様にご案内いたします。」
俺は振り返る。
いつもの案内放送だ。
しかし――
その直後。
一瞬だけ、聞き慣れない音声が流れた。
「13番線……」
「……え?」
俺は振り返った。
放送は続かない。
通常の案内に戻っている。
「今……13番線って言った?」
周囲を見る。
誰も気にしていない。
俺だけが、その場に立ち尽くしていた。
「……気のせいか?」
俺はそう言いながら、もう一度案内板を見る。
そこには、
11・12番線
の下に、
20~27番線
と表示されている。
13番線なんて、どこにもない。
「……。」
俺は駅を出た。
だが、その夜。
俺はずっと考えていた。
存在しない13~19番線。
そして、突然聞こえた、
「13番線」という案内放送。
もしかすると――
この空白には、俺がまだ知らない何かがあるのかもしれない。
ただの番線番号の謎。
そう思っていた。
このときまでは。
第七話、読んでいただきありがとうございます!
今回はタイトル通り、「空白の13~19番線」について調べる回でした!
第六話でちょこっと出てきた13~19番線ですが、実はこの番線――
ホームもありません。
線路もありません。
案内表示にもありません。
さらに、新しい路線を造る計画があるわけでもありません。
じゃあ、なんで11・12番線の次がいきなり20番線なのか?
主人公も調べてみましたが、駅員さんにも分からず、昔の資料を見ても13~19番線は見つかりませんでした。
そして最後には、まさかの謎の放送。
「13番線……」
……一体何だったのでしょうか?
ただの聞き間違いなのか。
それとも、本当に「存在しない番線」が存在するのか。
ここから先、この謎がどう物語に関わってくるのかはまだ秘密です
今回は第六話より少しミステリー寄りにしてみました。
未来の鉄道を楽しむだけじゃなく、こういう「なんか変じゃね?」という謎が混ざってくると、物語も一気に面白くなりますね
次回、主人公はこの謎をさらに追うのか。
それとも、別の場所へ向かうのか。
第八話もお楽しみに!




