第六話 新大阪ダンジョン
翌朝。
「……ん。」
目を覚ます。
昨日と同じ、新大阪駅のベンチ。
目の前には、朝から大勢の人が行き交っていた。
スーツ姿の会社員。
キャリーケースを引く旅行客。
制服姿の学生。
そして、見たことのない制服を着た駅員。
俺はしばらく周囲を眺めていた。
昨日は未来に来たことそのものに驚いていた。
でも、一晩経って少し落ち着いた今だからこそ分かる。
ここは、本当に巨大な駅だ。
「……今日はちゃんと見て回ろう。」
昨日は阪急に乗って京都へ行っただけだった。
新大阪駅そのものについては、まだほとんど何も知らない。
俺は立ち上がった。
「よし。」
今日は――
新大阪駅を徹底的に探索する。
⸻
まずは駅の案内表示を確認する。
巨大なデジタル案内板には、たくさんの路線が表示されていた。
なにわ筋線
東海道・山陽新幹線
北陸新幹線
阪急新大阪線
「……多いな。」
2026年の新大阪を知っている俺からすると、見慣れない名前がいくつもある。
特に阪急。
昨日実際に乗ったとはいえ、まだ不思議な感じがする。
「まず、なにわ筋線から行くか。」
俺は案内表示に従って歩き始めた。
⸻
なにわ筋線
なにわ筋線の乗り場へ向かう。
新大阪の1番線付近まで来たところで、俺はふと足を止めた。
「……あれ?」
1番線の隣。
そこには、少しだけ不自然に空いたスペースがあった。
そして、その先に――
11番線・12番線
の表示。
「……ここか。」
これが、未来のなにわ筋線ホーム。
2026年の俺が知っている新大阪とは、番線の配置が違う。
普通なら1、2、3……と順番に並んでいそうなのに、
1番線の隣に11・12番線。
「番線番号、順番ちゃうやん。」
思わず笑った。
でも、理由を考えてみれば分かる。
もともと1~10番線があり、そのさらに隣に新しい路線を造った。
だから、新設されたホームには11・12という番号が付けられた。
「なるほどなぁ。」
俺は妙に納得した。
ホームへ入る。
ホームには、なにわ筋線の列車が停まっている。
しばらくすると、別の列車が入ってきた。
「……あれ?」
車両を見る。
阪急でもない。
南海の列車だ。
「関西空港方面にも行くんやな。」
さらにその後、今度は見慣れたJRのロゴが入った列車が入ってきた。
「……JRも来るんか!」
どうやらこの未来のなにわ筋線では、南海の列車だけでなく、JRの列車も乗り入れているらしい。
「めちゃくちゃ便利になってるやん……。」
2026年の俺にとっては、まだ未来の話。
それが2054年では、完全に日常の光景になっている。
列車が発車する。
その直後、反対側から別の列車が入ってくる。
「本数も結構あるな。」
ホームの案内表示もかなり進化している。
乗り換え案内がリアルタイムで表示され、列車の遅れまで細かく案内されている。
「便利そう。」
しばらくホームを眺めていた。
しかし――
「……ここから新幹線どう行くんだ?」
案内板を見る。
新幹線
と書いてある。
「こっちか。」
歩き始める。
⸻
ところが。
「……。」
歩いても歩いても、なかなか着かない。
「長っ!」
通路を曲がる。
また通路。
さらに階段。
そしてエスカレーター。
「新大阪、広すぎるやろ!」
俺は笑った。
ようやく見慣れた案内表示が見えてきた。
新幹線
「やっとか……。」
俺はその表示に従って歩いた。
⸻
東海道・山陽新幹線
新幹線の案内を見る。
20~27番線
「ここは変わってない。」
2026年の新大阪でも、東海道・山陽新幹線は20番線から。
2054年になっても、そこは変わっていない。
「なんか安心するな。」
ホームへ上がる。
未来の新幹線が停車していた。
車両の形は変わっている。
でも、ホームに入ってくる姿を見ると、やっぱり新幹線だ。
電光掲示板を見る。
東京
名古屋
岡山
広島
博多
いろいろな行き先が表示されている。
「2054年になっても、新幹線は新幹線なんやな。」
少し感動した。
俺はホームを歩いていく。
20番。
21番。
22番。
23番。
……。
27番。
「こんなにあるんか。」
改めて見ると壮観だ。
北陸新幹線
そのままさらに先へ進む。
次の案内表示には、
29~32番線 北陸新幹線
と書かれている。
「北陸新幹線か。」
俺はホームへ向かった。
そこには、北陸新幹線の列車が停車していた。
車両を見た瞬間、なんとも言えない気持ちになる。
2026年の俺が知っている北陸新幹線は、敦賀まで。
でも、2054年には――
新大阪まで来ている。
電光掲示板を見る。
金沢
富山
そして、
新大阪
「……。」
「本当に新大阪まで来てるんや。」
当たり前のように列車が停まり、乗客が乗り降りしている。
「敦賀から先、ちゃんとつながったんやな……。」
俺はホームを歩く。
29番線。
30番線。
31番線。
32番線。
北陸新幹線だけでも4本の番線がある。
「これ、かなり便利やろな。」
北陸方面から大阪まで乗り換えなし。
俺だったら絶対乗ってみたい。
「……いつか乗ろ。」
そう思った。
俺はコンコースへ戻った。
そこで、ふと駅の案内板を見上げる。
1~10番線
11・12番線
13~19番線
20~27番線
28番線
29~32番線
33番線
「……。」
番号を順番に追っていく。
「13~19番線だけ、かなり空いてるな。」
ここまで見てきた28番線と33番線は、あえて空いているように見える。
でも、13~19番線は規模が違う。
「ここ、何か造れそう。」
俺は駅構内図を見てみた。
13~19番線付近には、広い空間が残されている。
「将来、ここ改造するんかな。」
まだ正式な計画は分からない。
でも、俺はなんとなく気になった。
「新大阪、まだ変わる気満々やん。」
⸻
阪急新大阪線
次に向かったのは阪急。
昨日乗ったばかりだが、今日は乗ることより駅そのものを見るのが目的だ。
案内表示を探す。
阪急新大阪線
「あった。」
改札へ向かう。
JRの巨大な駅構内を歩き、阪急のエリアへ入る。
「ここだけちょっと雰囲気違うな。」
ホームへ向かう。
ちょうど列車が入ってきた。
昨日乗った列車だ。
「おー。」
ドアが開く。
乗客が降りてくる。
そして次の乗客が乗り込んでいく。
俺はホームのベンチに座ってみた。
「……やっぱりふかふかだぁー。」
昨日と同じ。
そして列車が出発する。
「……静かだー。」
また同じことを言っている。
「俺、これ好きやな。」
思わず笑った。
列車が新大阪駅を出ていく。
その先には淡路。
そして京都河原町。
昨日行った場所だ。
「また乗りたいな。」
そう思いながら、俺はホームを離れた。
⸻
阪急の改札を出たところで、駅員同士が話しているのが聞こえた。
「……改良計画、来月発表でしたよね?」
「そうですね。」
「駅の方、かなり変わるんですか?」
「まだ詳しいことは言えないみたいです。」
「阪急も関係するんですか?」
「そこは……正式発表待ちですね。」
「……。」
俺は足を止めた。
阪急。
また出てきた。
昨日から何度も耳にする。
「新大阪の改良計画と、阪急って何か関係あるんかな……。」
でも、ここで聞き続けるのも変だ。
俺はその場を離れた。
⸻
新大阪駅改良計画
中央コンコースへ戻る。
昨日見つけた案内を探す。
「あった。」
大型モニターに、
新大阪駅改良計画
と表示されている。
俺は画面をタッチした。
いくつかの項目が出てくる。
駅施設の更新
乗換動線の改善
駅周辺開発
そして、
将来の鉄道ネットワーク拡張への対応
「……やっぱり、まだ改造するんや。」
さらに画面をスクロールする。
すると、見覚えのない言葉が出てきた。
関西圏広域交通網再編計画
「……関西圏?」
俺は画面をタップする。
しかし、
詳細は近日公開予定です。
としか表示されない。
「なんだよ……。」
一番知りたいところが分からない。
さらに下を見る。
駅の未来予想図が表示されていた。
現在の新大阪駅よりも、さらに大きい。
「またデカくするんか……。」
俺は思わず笑った。
その図をよく見る。
13~19番線付近に、新たな施設が描かれている。
「……やっぱりここか。」
13~19番線。
今は空いている。
将来、改造するならこの辺りなのだろうか。
一方で、28番線と33番線には大きな改造予定の表示はない。
「なるほどな。」
少しずつ分かってきた。
「28番と33番は今のまま。」
「でも13~19番線は、これから何か変わるかもしれない。」
俺はスマホにメモした。
新大阪駅改良計画
13~19番線付近に将来の動き?
そして、その下にもう一つ。
阪急が関係している可能性あり。
⸻
気づけば、もう夕方だった。
「……めっちゃ歩いたな。」
朝から新大阪駅を歩き回った。
なにわ筋線。
東海道・山陽新幹線。
北陸新幹線。
阪急。
そして改良計画。
「これだけ見ても、まだ全部見終わってないのか……。」
本当に巨大な駅だ。
俺はベンチに座った。
周囲では、今もたくさんの人が行き交っている。
列車が到着する。
列車が出発する。
案内放送が流れる。
駅員が走り回る。
未来になっても、駅は忙しい。
「……。」
俺は少しだけ静かになった。
楽しかった。
未来の鉄道を見るのは、本当に楽しい。
でも――
俺は2026年から来た。
家族にも連絡できない。
帰る方法も分からない。
「……帰らないとな。」
その言葉が、頭の中に浮かぶ。
未来をもっと見たい。
でも、元の時代にも戻りたい。
「どうすれば帰れるんやろ。」
俺はスマホを握りしめた。
そのとき。
駅の大型モニターが切り替わった。
ニュース速報。
「新大阪駅改良計画、来月正式発表へ」
「……またこれか。」
俺は画面を見る。
すると、その下に小さく表示された。
「関西圏広域交通網の再編に伴い、新たな鉄道計画を発表予定」
「……新たな鉄道計画?」
俺は立ち上がった。
さらに画面を見る。
ほんの一瞬だけ、
阪急電鉄
という文字が表示された。
「……阪急。」
しかし、すぐに画面は別のニュースへ切り替わった。
「待ってくれ……。」
もう一度表示されることはなかった。
俺はしばらく画面を見つめた。
阪急新大阪線。
新大阪駅改良計画。
13~19番線の空きスペース。
そして、関西圏広域交通網の再編。
「……全部、つながってるんか?」
まだ分からない。
でも、偶然とは思えなかった。
俺はもう一度、駅の案内板を見る。
1~10番線。
11・12番線。
13~19番線。
20~27番線。
28番線。
29~32番線。
33番線。
そして、その先に続く未来の設備。
「2054年の新大阪って……。」
俺は小さく呟いた。
「まだ完成してないんやな。」
この駅は、未来そのものだった。
そして、その未来はまだ変わろうとしている。
俺はベンチから立ち上がった。
「……明日も調べよう。」
駅の出口へ向かう。
最後に振り返る。
巨大な新大阪駅。
何本もの列車が行き交っている。
俺はその光景を見ながら思った。
この未来、もっと知りたい。
そして――
絶対に2026年へ帰ってやる。
新大阪ダンジョンの探索は終わった。
……いや。
本当の意味では、まだ始まったばかりだった。
第六話、読んでいただきありがとうございます!
今回は予告していた通り、新大阪ダンジョン回でした!
なにわ筋線から始まり、東海道・山陽新幹線、北陸新幹線、そして阪急新大阪線まで、未来の新大阪駅をかなりじっくり探索してみました。
特になにわ筋線は、2054年ならではの設定を入れています。
南海の列車だけでなく、JRの列車も乗り入れているという、かなり便利になった未来仕様です。
そして今回、28番線と33番線についても少し触れました。
この2つが今後どうなるのか……?
さらに13~19番線にも、まだ何かありそうです。
そして最後に出てきた、
「新大阪駅改良計画」
「関西圏広域交通網再編計画」
一体何を意味しているのでしょうか。
阪急も何やら関係していそうですが……。
まだまだ謎は残っています。
ちなみに今回は4316文字!
第五話よりかなりボリュームアップしました。
書いている側も「新大阪広すぎるやろ!」ってなりながら書いてました(笑)
次回からは、新大阪駅の謎が少しずつ別の場所へつながっていく予定です。
果たして主人公は、2026年へ戻ることができるのか。
そして2054年の関西では、一体何が起ころうとしているのか。
第七話もお楽しみに!




