第九話 2026年から続く空白
翌朝。
俺は新大阪駅のコンコースに立っていた。
昨日までずっと気になっていた、13~19番線。
その謎について、かなりのことが分かってきた。
地下に将来の鉄道施設を造る可能性がある。
そのために、番線番号を変更せずに残している。
――そう思っていた。
でも、今朝になって一つのことを思い出した。
「……あれ?」
俺はスマホを取り出した。
2026年の新大阪駅の写真。
昔の案内表示。
駅の構内図。
そして、現在の2054年の新大阪駅。
二つを見比べる。
「……待てよ。」
俺は写真を拡大した。
2026年の新大阪駅。
そこにも――
13~19番線がない。
「そうや。」
俺は思わず声を出した。
「もともと空いてたやん。」
⸻
俺はベンチに座った。
昨日まで俺は、13~19番線が未来の計画のために空けられたものだと思っていた。
でも、それは少し違う。
13~19番線は、2054年になって突然できた「空白」じゃない。
2026年の時点ですでに存在していなかった。
「じゃあ、未来のために新しく空けたわけじゃない。」
これはかなり重要なことだった。
2026年。
俺がいた時代の新大阪。
そこでも番線番号は飛んでいた。
そして2054年。
未来の新大阪でも、同じように飛んでいる。
「じゃあ、なんでそのままなんや?」
俺は考えた。
⸻
俺は改めて現在の新大阪駅を歩くことにした。
1番線。
2番線。
3番線。
在来線のホームが続く。
そして、10番線。
そこから少し離れたところに、11・12番線。
なにわ筋線のホームだ。
「ここまでは普通。」
そして、その先。
20番線。
東海道・山陽新幹線。
「……やっぱり飛んでる。」
俺はホームを見ながら考える。
もし2054年になって新大阪駅を大改造したとき、13~19番線を新しく作るつもりだったなら、2026年の時点で番号を空けておく必要はない。
そもそも、2026年の時点ですでに空いている。
つまり――
13~19番線という空白は、未来の計画のために作られたものではない。
少なくとも、それだけが理由ではない。
「じゃあ、地下計画は?」
俺は昨日見つけた資料を思い出す。
将来整備予定区域。
地下に新たな鉄道施設を整備する可能性。
そして13~19番線。
これらが関係している可能性は高い。
でも、番線番号そのものは昔から空いている。
「……なんかややこしいな。」
⸻
俺は駅の資料室へ向かった。
昨日見た資料をもう一度確認する。
2026年。
2030年代。
2040年代。
2050年代。
それぞれの新大阪駅。
ページをめくる。
「……。」
やっぱり13~19番線はない。
どの年代にもない。
でも、面白いことに気づいた。
駅が大きくなっても、番線番号の基本的な並びはほとんど変わっていない。
新しい路線ができても、既存の番線を大きく変えることはしていない。
「なるほど。」
俺は少しずつ理解してきた。
番線番号って、単なる数字じゃない。
一度決めたものを変更すると、案内表示、駅員の案内、乗客の認識、列車の運行システムなど、いろいろなところに影響する。
だから、簡単には変えられない。
「じゃあ、13~19番線は……。」
もともと存在しない。
でも、番号を詰める必要もない。
だから、そのまま。
そして将来もし地下施設を造るなら――
その空いている番号を利用できる。
「そういうことか。」
俺は納得した。
これは「未来のためにあえて空けた」というより、
昔から存在していた空白を、未来の計画でもそのまま利用できる。
そういうことなのかもしれない。
⸻
しかし、ここでまた新しい疑問が生まれた。
「じゃあ、なんで地下なんや?」
俺は資料の地下部分を見る。
現在の新大阪駅の地下。
地下鉄。
地下通路。
さまざまな設備。
そして、将来整備予定区域。
「もし13~19番線を使うなら、かなり大規模な工事になるよな。」
7本分の番線。
それだけのホームを地下に造るとなると、駅の構造そのものを大きく変える必要がある。
しかも、既存の地下施設を避けなければならない。
「……新大阪、さらにダンジョンになるやん。」
俺は思わず笑った。
でも、その笑いはすぐに止まった。
資料の隅に、小さな文字があったからだ。
「地下鉄道施設の整備については、既存施設への影響を考慮し、段階的に検討する。」
「段階的に……。」
つまり、まだ計画は完成していない。
今はあくまで「検討」。
それなのに、将来使える番号が残っている。
「これ、かなり先の話なんかな。」
⸻
昼頃。
俺は新大阪駅の外へ出た。
駅前は今日も人が多い。
新幹線から降りてくる人。
阪急へ向かう人。
なにわ筋線へ向かう人。
南海の列車に乗り換える人。
JRの列車を利用する人。
2054年の新大阪は、関西の鉄道網の中心になっている。
「2026年とは全然違うな。」
そう思いながら、ふと昔の記憶を思い出した。
2026年の新大阪も、人が多かった。
新幹線も走っていた。
JRも走っていた。
地下鉄も走っていた。
そして、番線番号も飛んでいた。
「……でも、基本は変わってない。」
未来になっても、新大阪は新大阪だった。
変わったものも多い。
でも、変わっていないものもある。
その一つが――
13~19番線という空白。
⸻
俺はもう一度駅へ戻った。
今度は新幹線のホームへ向かう。
20番線。
21番線。
22番線。
列車が入ってくる。
「東海道・山陽新幹線は20番から。」
これは未来になっても変わらない。
俺はホームの案内表示を眺めた。
「……そう考えたら、13~19番線も変わらないんやな。」
2026年にもなかった。
2054年にもない。
そして、その間の時代でも、おそらくない。
ただし――
将来、地下に新しい鉄道施設ができれば、使われる可能性がある。
「空白っていうより、余白なんかもしれんな。」
俺はそう呟いた。
⸻
そのとき。
後ろから声がした。
「何見てるん?」
振り返る。
昨日の資料館で会った男性だった。
「えっ、また会った。」
「また13~19番線?」
「はい。」
俺は笑った。
「でも、ちょっと分かったんです。」
「ほう。」
「13~19番線って、2054年に新しく空けたわけじゃないんですよね。」
男性はうなずいた。
「そう。」
「2026年にも空いてた。」
「よく気づいたな。」
「じゃあ、なんでずっとそのままなんですか?」
男性は少し考えた。
「変える必要がなかったからじゃないか?」
「変える必要が?」
「そう。」
男性は新幹線ホームを指差した。
「20番線から始まっている。それが昔からの新大阪なんだ。」
「……。」
「駅ってな、便利にするために変えることはあっても、変えなくていいものまで変える必要はないんだよ。」
「なるほど。」
「それに――」
男性が少し間を置く。
「空いている番号があるなら、将来使える。」
「……!」
俺は男性を見る。
「地下の計画のこと、知ってるんですか?」
男性は笑った。
「少しだけな。」
「何ができるんです?」
「それはまだ言えない。」
「えー!」
「正式発表前だからな。」
男性はそう言って歩き出した。
「ちょっと待ってください!」
俺も後を追う。
「13~19番線って、本当に地下にできるんですか?」
男性は立ち止まった。
そして――
「できる可能性はある。」
それだけ言った。
「可能性……。」
「未来の計画なんて、最後まで決まるとは限らない。」
「確かに。」
「でも、番号だけは残っている。」
男性はそう言って去っていった。
⸻
夕方。
俺は駅のコンコースに戻った。
もう一度、案内表示を見る。
11・12番線。
その次に、
20~27番線。
何も変わっていない。
13~19番線は、今日も存在しない。
でも、今までとは見え方が違う。
昨日までは、
「なぜない?」
だった。
今日は、
「いつか使われるのか?」
になった。
同じ空白なのに、意味が変わった。
「……面白いな。」
俺はスマホにメモを残した。
2026年にも13~19番線は存在しない。
2054年にも存在しない。
もともとの欠番を、そのまま維持している。
ただし、将来の地下鉄道施設に利用できる可能性がある。
そして、その下に一言。
「空白は、未来のための余白。」
と書いた。
⸻
夜。
新大阪駅のホームに列車が入ってくる。
ドアが開く。
乗客が乗り込む。
発車ベル。
そして列車が静かに走り出す。
俺はそれを見送った。
「2026年にもあった景色やな。」
未来に来て、いろんなものが変わった。
阪急新大阪線。
なにわ筋線。
北陸新幹線。
そして、さらに進化した新大阪駅。
でも――
変わらないものもある。
20番線から始まる新幹線。
昔から存在しない13~19番線。
そして、その空白を残したまま発展していく新大阪。
「未来って、全部が新しくなるわけじゃないんやな。」
俺はそう思った。
その瞬間。
駅の大型モニターにニュース速報が流れた。
「新大阪駅地下交通施設計画について、近日中に新たな発表へ」
「……!」
俺は立ち止まった。
ニュースはまだ続いている。
「現在は具体的な路線・事業者について調整中で、詳細は発表されていません。」
「……まだ決まってないんか。」
つまり、13~19番線は今も空白。
何が来るかも分からない。
誰が使うのかも分からない。
いつできるかも分からない。
ただ――
番号だけは、ずっとそこにある。
俺は画面を見ながら笑った。
「13~19番線……。」
昨日までは不気味だった数字。
今は、少し楽しみになっていた。
いつか、この数字に列車がやってくる日が来るのだろうか。
もしそんな日が来たら――
俺は絶対に、その一番列車を見に行きたい。
いや。
乗りたい。
俺はそう思いながら、新大阪駅を後にした。
空白は、まだ空白のまま。
でも、その空白には意味がある。
そして、その先には――
まだ誰も知らない未来が待っている。
第九話、読んでいただきありがとうございます!
今回は、これまでずっと気になっていた13~19番線の空白について、さらに掘り下げてみました。
第七話では「存在しない番線」として登場し、第八話では「将来の地下施設に関係しているのでは?」というところまで進みました。
そして今回、さらに重要なことが判明しました。
実はこの空白――
2026年の時点ですでに存在していました。
つまり、2054年になって突然13~19番線を空けたわけではありません。
2026年からずっと続いている、昔からの「空白」なんです。
未来になっても番線番号の基本的な並びは変わらず、もともと存在しなかった13~19番線は、そのまま残されています。
ただ、その空いている番号を将来の地下鉄道施設に利用できる可能性がある。
そう考えると、単なる「欠番」だったものが、少し違って見えてきますね。
そして最後には、新大阪駅地下交通施設について新たな発表が近づいていることも判明。
13~19番線に、いつか本当に列車がやってくるのか?
まだ何も決まっていません。
でも、この「空白」が今後どう物語に関わってくるのか……。
ここからさらに新大阪の未来が動き始めます!
第十話もお楽しみに!




