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第三話 未来の阪急

『……乗ってみるか。』


俺はそう決めた。


ここまで来たら、もう引き返すこともできない。


というより――


気になって仕方がなかった。


2026年の俺が知っている新大阪駅には、阪急の路線は存在しない。


もちろん阪急が新大阪への乗り入れを計画しているという話を聞いたことはあった。


でも、それはあくまで「未来の話」だった。


ところが今、目の前には――


阪急新大阪線


という名前が表示されている。


「……本当にできたんだ。」


俺は電光掲示板を眺めた。


次の列車は18時10分。


行き先は――


京都河原町。


「京都河原町……?」


俺は思わず二度見した。


「新大阪から京都河原町まで直通?」


2026年の感覚では、かなり不思議な光景だ。


俺の知っている阪急京都線は大阪梅田を起点にしている。


それなのに2054年では、新大阪から阪急京都線へ直通する列車が走っている。


「……乗るしかないな。」



列車が来るまで、ホームを少し見回してみる。


未来の駅なのに、妙に落ち着く。


案内表示のデザインは現在とかなり違う。


広告も見たことのない企業ばかりだ。


やがて、ホームの向こうから列車のライトが見えた。


「来た!」


列車が近づいてくる。


「……阪急や。」


一目見て分かった。


カラーリングも、車体の雰囲気も、どこか阪急らしい。


ただし――


俺の知っている車両ではない。


「新型車両か……?」


車体には小さく、


HANKYU


の文字。


「阪急は阪急なんだな。」


なんとなく安心した。


列車がホームに入ってくる。


静かに減速し、停車する。


ドアが開いた。


俺は車内に乗り込んだ。



「……おお。」


車内も未来だった。


座席は阪急らしい雰囲気を残しているものの、照明や案内表示はかなり違う。


車内モニターには、次の駅だけではなく、現在位置や到着予定時刻、他路線への乗り換え案内まで表示されている。


「めっちゃ便利やん。」


俺は空いている席を見つけ、腰を下ろした。


「…………。」


座席に身体が沈む。


「…………ふかふかだぁー。」


思わず声が出た。


未来の車両なのに、なぜか一番最初に感動したのは座席だった。


「阪急、2054年になっても座席には本気なんだな……。」


少しだけ笑った。


そんなことを考えていると、発車を知らせる案内が流れた。


ドアが閉まる。


列車がゆっくり動き始めた。


「…………。」


「静かだー。」


思わず呟いた。


モーター音もほとんど聞こえない。


「2054年の阪急、静かすぎるだろ……。」


俺は思わず笑った。


ふかふかの座席に座りながら、静かに走り出す未来の阪急。


なんか……めっちゃ快適だ。


新大阪駅を出る。


窓の外には、未来の街並みが流れていく。


高層ビル。


新しい道路。


見たことのない建物。


そして――


現在の新大阪周辺とは明らかに違う景色。


「これ、俺が知ってる新大阪じゃないな……。」


列車は地下へ入っていく。


車内が少し暗くなる。


モニターを見る。


次は 淡路


「淡路か。」


俺は少し楽しみになった。


2026年の淡路駅なら知っている。


阪急京都線と千里線が交差する重要駅。


そして現在、大規模な高架化工事が進められている。


「2054年なら、工事もとっくに終わってるよな。」


どんな駅になっているのだろう。


そんなことを考えていると、車内アナウンスが流れた。


「次は、淡路。淡路です。」


「来た。」


列車が地上へ上がっていく。


窓の外が明るくなる。


そして――


俺は目を疑った。


「…………え?」


巨大な駅が目の前に現れた。


何本もの線路。


高架ホーム。


大きな駅ビル。


そして、見慣れた「淡路」の文字。


「淡路……だよな?」


駅名は間違いない。


でも――


「こんなんじゃなかったよな……?」


もちろん2026年の淡路とは違う。


高架化された駅は想像以上に大きくなっていた。


ホームも広い。


案内表示も多い。


乗り換え客も大量にいる。


そして、列車が次々と入ってくる。


「うわ……。」


俺は窓に顔を近づけた。


京都河原町方面の列車。


北千里方面の列車。


大阪梅田方面の列車。


そして――


新大阪方面。


「……新大阪方面って表示されてる。」


当たり前のことなのに、ものすごく不思議だった。


2026年の俺にとって、新大阪と阪急は直接つながっていない。


それが2054年には――


普通に一つの路線網としてつながっている。


「未来ってすげぇな……。」


列車がホームへ入る。


反対側からも別の列車が入ってくる。


発車ベル。


アナウンス。


人の流れ。


まるで巨大なターミナル駅だ。


「淡路って、こんなにデカくなるのかよ……。」


俺は駅の案内板を見る。


そこには、乗り換え案内が表示されていた。


京都河原町


大阪梅田


北千里


新大阪


さらに、その下には見慣れない表示があった。


○○方面


「……○○?」


俺は眉をひそめた。


「また知らない名前だ。」


この未来には、自分が知らない路線がいくつも存在している。


それが少し怖くなってきた。


列車が淡路駅を発車する。


俺はそのまま座席に座っていた。


「……このまま京都河原町まで行くんだよな。」


窓の外を見る。


夕方の大阪。


知らない建物。


知らない道路。


知らない鉄道。


それでも、どこか懐かしい。


「俺は……本当に2054年にいるんだな。」


そのときだった。


車内モニターが切り替わった。


「阪急線 路線情報」


その画面には、未来の阪急の路線図が表示された。


俺は何気なく眺める。


「……。」


そして――


ある一点で目が止まった。


「…………なんだ、これ。」


俺の知っている阪急の路線図には存在しない線。


新大阪から伸びる線。


淡路を通り、さらにその先へ続いている。


「……阪急、新大阪線だけじゃない。」


俺は画面に顔を近づけた。


「この先……どこまで行ってるんだ?」


その答えは、まだ分からない。


だが一つだけ確かなことがあった。


2054年の阪急は、俺が知っている阪急とは全く違う。


そして――


この未来を知るには、まだまだ調べなければならない。


俺はモニターを見つめながら、京都河原町へ向かう列車の中で考えていた。


「……俺、元の時代に帰れるのかな。」


その疑問だけは、どれだけ未来の鉄道を見ても消えなかった。


むしろ――


未来を知れば知るほど、


「なぜ自分はここに来たのか」


という疑問が大きくなっていった。 


第三話、読んでいただきありがとうございます!


今回は少し投稿が遅くなってしまいましたが、その分、第三話はかなりボリュームを増やしてみました!


なんと約2450文字!


今回はついに主人公が2054年の阪急に乗車しました。


新大阪から京都河原町まで直通する阪急新大阪線。


そして、未来の淡路駅。


2026年を知っている主人公だからこそ、「こんな阪急になってるのか!」という驚きも楽しんでもらえたら嬉しいです。


ちなみに主人公が未来の阪急に乗って一番最初に思ったことは……


「ふかふかだぁー」


そして発車してからは……


「静かだー」


……鉄オタって、未来の鉄道を見ても結局そこ気になるんですよね(笑)


さて、次回は京都河原町へ。


2054年の京都は一体どうなっているのか?


そして、主人公は無事に元の時代へ帰れるのか――。


第四話もお楽しみに!

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