第9話:長州の鬼を、商談のテーブル
薩摩を攻略した勢いのまま、俺は江戸の喧騒を離れ、長州藩の潜伏先へと向かっていた。
薩摩の西郷が「豪傑」なら、長州の連中は「火薬庫」や。
一歩間違えれば、交渉のテーブルが爆破される。
(今の長州は、幕府との対立で完全に追い詰められちゅう。……だが、追い詰められた鼠ほど、新しい『餌』に飛びつくもんはいない)
俺が会うべきは、桂小五郎。
長州の頭脳であり、のちの木戸孝允。
彼らは今、物資不足と資金難で喉から手が出るほど「武器」と「支援」を欲しているはずや。
隠れ家の扉を叩くと、鋭い眼光の男たちが刀に手をかけて待ち構えていた。
「何者だ。薩摩の回し者か?」
桂小五郎が、氷のような冷たさで俺を射抜く。
俺は慌てず、懐から一枚の契約書をゆっくりと取り出した。
「薩摩の回し者やない。あんたらの『未来の投資家』や。……西郷吉之助から預かった言葉がある。『長州の熱量と、俺の経済力。これで日本をひっくり返せ』と」
桂の眉がピクリと動く。
俺はそのまま、彼らが一番喉から手が出るほど欲しがっていた「最新式ゲベール銃」の供給ルートと、それを裏打ちする薩摩との連帯を示す書類を床に置いた。
「金も武器も、俺が用意する。その代わり、あんたらの『剣』を、俺が指定するタイミングで使ってもらう。……どうや、割のいい話やろ?」
桂は書類を手に取り、目を走らせる。
その表情から徐々に焦燥が消え、計算高い政治家の顔へと変わっていく。
「……薩摩と長州を、坂本、お前が結ぶと?」
「結ぶだけやない。一つの巨大な『株式会社』にして、幕府を株主総会で黙らせるんや」
俺はニヤリと笑った。
長州の鬼も、金と勝てる未来の前では、ただの交渉相手や。




