第10話:株式会社「日本」の産声
「……まさか、薩摩と長州が、こんなにもあっさりと握手を交わすとはな」
慶応二年の春。
薩摩の西郷と長州の桂が、俺の用意した海援隊の事務所で同じテーブルを囲んでいる。
歴史の教科書では数々の困難の末に成し遂げられるはずの「薩長同盟」だが、俺が持ち込んだのは、歴史的な友情物語ではない。
圧倒的な利益をもたらす「業務提携契約書」だ。
「これより両藩は、物流および防衛の共同体として『海援隊』の配下で事業を統合する。薩摩は資金と海軍力を、長州は最新鋭の兵器運用能力を互いに提供する。……利益は折半や」
俺の言葉に、二人とも満足げに頷いた。
武士の面子など、莫大な利益の前では塵同然ということや。
(これで盤面は整った。幕府がいくら軍を動かそうが、俺たちが握った物流と金融を止めれば、その軍は一歩も動けんようになる)
その時だった。
事務所の扉が激しく叩かれた。
入ってきたのは、血相を変えた海援隊の部下だ。
「坂本! 大変だ! 幕府の要人が、我々の取引先である大坂の商人を次々と逮捕し始めた! 『坂本龍馬と関わる者は賊軍とみなす』という通達!」
ついに来た。俺の『経済戦』に対し、幕府が『国家権力』という暴力的な手段で対抗してきたんや。
「ハハッ、やっぱりな。幕府もようやく、俺たちが一番恐ろしい敵だと気づいたわけか」
俺は立ち上がり、愛銃の銃身を撫でた。
ここから先は、ただの経営じゃない。
幕府という巨大な看板を相手にした、生存を賭けた潰し合いや。
「西郷さん、桂さん。面白いゲームの始まりや。……これから、幕府という名の『既得権益の塊』を、俺たちで市場から退場させようか」
俺の言葉に、二人の鬼たちがニヤリと笑った。




