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第11話:市場(マーケット)を支配する者が、歴史を制する

「坂本、幕府の弾圧で大坂の取引先が軒並み店を閉めちゅう! このままでは兵糧も武器も届かんようになるぞ!」


桂小五郎が焦った様子で駆け込んでくる。


確かに、幕府の「坂本龍馬と関わるな」という通達は強力だ。表向きの商人は、お上の威光には逆らえない。


だが、俺は窓の外を眺めながら、不敵に笑った。


「桂さん、おまんら侍は『お上(幕府)』という巨大な主語で世界を見過ぎや。世の中を動かしちゅうのは、お上やない。個々の『欲望』や」


俺が幕府の制裁を予想していなかったとでも思っているのか?


俺は机の上に、一枚の紙を放り投げた。


そこには、大坂の商人ではなく、これまで幕府の干渉が届かなかった「地方の小規模生産者」や「密航商船」との契約が列挙されていた。


「幕府が大坂を封鎖するなら、物流ルートを全部書き換えればいいだけの話や。俺は最初から、大坂一ヶ所に頼り切るような脆弱なシステムは組んでない」


俺は懐から、自分が発行した『海援隊債(社債)』を取り出した。


「これを見せれば、どこへ行っても金より信用される。幕府の役人が『坂本と関わるな』と怒鳴る前に、俺たちは彼らの足元をすくう『新しい通貨』を流通させちゅうんよ」


幕府が弾圧すればするほど、逆に俺たちのシステムが「唯一の生き残りルート」として市場で重宝される。この構造こそが、俺が仕掛けた最大の罠だ。


「さあ、桂さん。幕府が『賊軍』として俺たちを叩き潰そうと必死になっとる間に、俺たちはこの国の経済の血液を全部入れ替えてしまうで」


悲壮感など、これっぽっちもない。


俺は静かに茶を啜った。


幕府が暴力で支配しようとするなら、俺は「市場」という透明な暴力で、彼らの権威を腐らせるまでや。



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