第12話:徳川慶喜を「株主総会」へ引きずり出せ
徳川慶喜は草なぎ剛さん
俺の目の前には、第十五代将軍・徳川慶喜が静かに座していた。
かつての威光は見る影もなく、幕府の財政は火の車、軍も薩長の手によって無力化されつつある。
(慶喜……。歴史上でも屈指の切れ者。だが、こいつは『大局』が見えすぎている。だからこそ、俺の提示する『数字』には逆らえん)
俺は深く頭を下げることはせず、一冊の分厚い決算報告書を慶喜の前に置いた。
「将軍。これが、徳川家が現在抱えている負債と、これからの五年間に発生する財政赤字の予測図です」
慶喜の目が、ゆっくりと開かれた。
冷たく、それでいて全てを見透かすような瞳だった。
俺は畳に指で円を描く。
「徳川家がこのまま独占的に政権を握り続けたら、徳川家は五年以内に破産しますき。借金は数百万両を超え、領民は暴徒と化すに違いない……。それが、この国の現実ながです」
「坂本、お前は俺に、引けと言うのか」
「違います。俺はあんたに、『経営者の交代』を提案しに来たがです」
俺は不敵に笑い、本題を切り出した。
「政権を朝廷に返してください。その代わり、徳川家は日本最大の『投資法人』として残る。俺らの『株式会社・日本』において、あんた方は最大の株主になるがです。それが、徳川家が滅びんと生き残る唯一の道ぜよ」
一瞬、部屋の空気が凍りついた。
だが、慶喜は報告書の数字を一瞥した後、ふっと口元に笑みを浮かべた。
武力による倒幕ではなく、経済的な論理による政権解体。
そのあまりに合理的で冷徹な提案に、彼は「敗北」ではなく「合理的な撤退」という出口を見出したのだ。
「……面白い。徳川の栄光を『株価』に換えるというわけか。坂本、そなたという男は、本当に底知れんな」
二条城の奥深くで、歴史の大きな歯車が軋みを上げながら、今までとは全く違う方向へ回り始めた。




