第7話:西郷どんを「出資者」にしろ
西郷さんとの出会い
「坂本、薩摩の西郷吉之助が江戸に来ちゅう。…とんでもない豪傑やが、筋金入りの硬骨漢やき、油断せんことや」
勝海舟の言葉を聞きながら、俺は次の布石を打つ算段をしていた。
薩摩藩。この巨大な軍事力を抱える藩を動かさなければ、日本という国の再建は絵に描いた餅に終わる。
(西郷隆盛か……。史実では情に厚く、しかしそれ故に迷いやすい男。だが、今の俺にとって必要なのは、彼の人脈と軍事力や)
俺はすぐさま、西郷の宿泊先へ向かった。
俺が持っていくのは、薩摩藩が抱える最大の懸案――莫大な負債を解消するための「事業計画書」だ。
西郷の部屋へ通されると、そこには威圧感そのもののような大男が座っていた。
「ほう、勝先生のお弟子さんか。なんの用かな」
低く響く声。
だが、俺は微塵も怯まない。
むしろ、その懐の広さを逆手に取る。
「西郷さん。薩摩の抱えちょる借金、俺が肩代わりして整理しましょうか?」
沈黙が走る。
西郷の目が、獲物を狙う猛獣のように細められた。
「……おはん、何を言いよっか。武士に金の話ばするとは、無礼千万。命の惜しくなかごたる」
西郷の殺気が畳を伝ってくる。
だが、俺は涼しい顔で持参した計算書を広げた。
「無礼なのは承知の上や。けんど西郷さん、今の薩摩は金に縛られて、肝心の『未来』が見えんようになっちょるんじゃないが? 俺がやりたいのは、あんたたちの力を借りて近代的な物流網を敷くことや。金は俺が海援隊という商社を使って、世界中から稼ぎ出す」
俺は利率や回収期間、将来的な薩摩の軍事的地位向上まで、淀みなく説明した。
「これからは、ただ兵を養うだけじゃなく、『富』を生み出す仕組みが必要なんや。あんたたちには剣があっても、金がない。俺には金を作る知恵がある。ここで組めば、十年以内に薩摩は日本で一番の藩になれる。……どうや、これでも俺の提案は無礼か?」
西郷はしばし俺の資料をじっと見つめ、やがてその太い眉を動かして、腹の底から豪快に笑い出した。
「ハハハ! おはん、面白いわ! 侍を商売の道具にしようっちゅうんか! 確かに薩摩の借金は、頭の痛か問題。そいばおはんが解決するっちゅうんか」
西郷は畳に手をつき、俺をまっすぐに見据えた。
「おはんの言葉には、迷いがなか。面白か。その腹づもり、とくと見せてもらうど!」
交渉成立の予感に、俺はニヤリと口角を上げた。
8話へ続く




