第4話:脱藩は計画的に
脱藩――それは、藩の許可なく領外へ出るという、極めて重大な罪だ。
見つかれば捕縛、最悪の場合は切腹というリスクが伴う。
だが、俺にとって脱藩は「海外旅行の出立」程度の認識しかなかった。
「……よし、完璧だ」
俺は高知城下から数里離れた山中で、装備を確認した。
道中で追手と戦う気など毛頭ない。
そんなのはリスクが高すぎる。
俺が用意したのは、現代のキャンプ用具を模した軽量装備と、最低限の護身用火縄銃、そして『土佐藩の密偵を撒くための偽装工作キット』だ。
案の定、峠を越えようとしたところで、前方に影が二つ現れた。藩の目付(監視役)が放った刺客だろう。
「坂本龍馬、そこまでだ。大人しく戻り、処分を受けよ」
冷徹な男が刀の柄に手をかける。
史実の龍馬ならここで剣を抜くところだが、俺は違った。
「処分? 冗談はやめてくれ」
俺は落ち着き払った様子で、懐から一通の書状を放り投げた。
中身は、藩の重鎮たちにこれまでの商売で献金し、抱き込んでおいた「密命(という名目で捏造した公的な移動許可証)」の偽造品だ。
さらに足元には、事前に仕掛けておいた発煙筒の代わりに、硫黄を燃やした煙幕を点火する。
「お前たちが俺を追ったという事実は、この先にある大坂の商家に筒抜けになる。俺が捕まれば、お前たちの主も損をする。それでもやるか?」
煙が濛々と立ち込め、視界を奪う。
狼狽する刺客たちの隙を突き、俺は一気に峠を駆け抜けた。
(剣術の腕? そんなの、最後の手段に取っておけばいい。戦わずして勝つのが、一番の近道なんだよ)
背後で刺客が叫んでいるのが聞こえるが、もう遅い。土佐の結界は破った。
ここから先は、俺の時代だ。




