第3話:剣術と計算、最強の二刀流
数年が経過し、俺は十四歳になっていた。
身体は、徹底した栄養管理と独自に考案した体幹トレーニングのおかげで、当時の日本人としては大柄で強靭なものへと育っていた。
剣術の道場では、同世代の門下生たちを圧倒し、「小川の龍」などと持てはやされている。
だが、俺にとって剣術とは「歴史に巻き込まれた際の保険」に過ぎない。
(剣一本で変えられるのは、せいぜい一人の命だけだ)
道場の稽古が終わり、皆が休息を取っている間も、俺は一人、土佐の山頂から海を眺めていた。
目の前には、広大な太平洋が広がっている。
あの水平線の向こう側には、黒船を擁する列強諸国がひしめいているのだ。
「龍馬! またそんなところで海を眺めゆが?」
声をかけてきたのは、幼馴染の武市半平太だ。
史実では尊皇攘夷に傾倒し、悲劇的な最期を遂げる男。
「武市。おまん、この海を見て何を思う?」
「何って……、広いことや。そして、その先には異人が居ることや」
「違う」
俺はニヤリと笑い、懐から一枚の自作の図面を取り出した。
蒸気船の構造と、近代的な交易ルートを記したメモだ。
「この先には、黄金と新しい『仕組み』が埋まっちゅう。侍の魂を刀に込める時代はもう古い。これからは、言葉と計算で世界を動かす時代が来る」
武市は図面を覗き込み、わけがわからないといった顔で首を傾げた。
だが、俺がかつて助言した家業の商売が成功している事実は、彼の中にも「龍馬の言葉は当たる」という確信を植え付けていた。
「龍馬おまん、何者なが……?」
戸惑う武市をよそに、俺は立ち上がった。
準備は整った。
父の許可も得た。
次は江戸へ行き、勝海舟という「時代の変革者」に会う。
俺の『幕末攻略』は、ここからが本番だ。




