表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/12

第2話:三歳の神童、家計を再建する

三歳になった俺の当面の敵は、坂本家の逼迫する家計だった。


坂本家は土佐藩郷士としてそれなりの立場にはあるが、財政は火の車だ。


父・八平は実直な男だが、家計の管理という点では驚くほど甘い。


このままでは、俺が青年になる頃には一家は路頭に迷うか、あるいは分不相応な借金を抱えて没落する未来が見えていた。


(幕末という激動を生きるには、まずは軍資金が必要だ。……いや、そもそも家が安定していなければ、脱藩して江戸へ行くなんて自由は利かない)


俺は、父が書斎で帳簿を眺め、頭を抱えている隙を狙った。


「父上。ここ、間違っているよ」


俺はつかつかと歩み寄り、父の膝の上によじ登ると、筆を奪い取って帳簿の隅に数字を書き足した。


三歳児にできる芸当ではない。 


だが、隠す気など毛頭ない。 


背に腹は代えられないのだ。


「……龍馬? そなた、何を……」


父の目が丸くなる。 


俺は構わず、現代の簿記知識を簡略化した「複式簿記」の概念を、幼児言葉を交えながら懸命に説いた。


「支出を管理して、ここを削れば、収支が合う。余った金で木綿を仕入れれば、利益が出る。土佐の商人に流すんやない。浦戸湾から大坂へ、直接売るんだ」


俺の言葉は、当時の人間には理解しがたいものだったはずだ。


だが、父は驚愕に目を見開いたまま、俺が書きなぐった数字の羅列を見つめている。


「……誰に教わった」


「誰にも。ただ、分かったんや。世の中の仕組みが」


俺はふてぶてしく笑って見せた。


これでいい。


父は俺を「神童」として扱うだろう。周囲が俺の「異常さ」を認めるほど、俺の自由は広がる。


(いいぞ、これなら俺の意見に耳を傾けるはずだ)


俺の生存戦略、その第一フェーズ『坂本家経済の安定化』が、こうして幕を開けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ