最終回:帳尻を合わせるための帰還
明治政府の発足という偉業を成し遂げた二条城のバルコニー。
俺は京の街を眺めながら、懐に忍ばせた愛用のピストルに指をかけた。
「……やりすぎたな」
自嘲気味に呟く。
武士の世を経済の論理で塗りつぶし、歴史という名の巨大な砂時計を勝手な形にひっくり返してしまった。
俺という異物が入り込んだことで、この時代は本来歩むべき軌道から大きく外れ、歪みを生んでいた。
このまま俺が存在し続ければ、いずれ歴史の歪みは修正不可能な破綻を迎えるだろう。
「……帳尻を合わせる時が来た、ちゅうことか」
俺は空を仰いだ。この時代を動かした充足感と、歴史を汚してしまったという罪悪感が、胸の中で入り混じる。
だが、後悔はない。
俺は俺のやり方で、日本という国に新しい風を吹き込んだのだ。
あとは、この物語の「結末」を、俺自身で書き終えるだけだ。
冷たい金属の感触をこめかみに当てる。
指先に力を込めたその瞬間、京の景色がひび割れ、真っ白な光が俺を飲み込んだ。
――次の瞬間、俺は病院の集中治療室(ICU)のベッドで激しく息を吸い込んでいた。
「ピー……ピー……」
無機質なアラームの音が、全身に突き刺さる。
酸素マスク越しに、点滴だらけの自分の腕が見える。
俺は現代のベッドに横たわっていた。
過労とストレスで倒れ、死の淵を彷徨っていたあの夜の続きだ。
「……夢か」
掠れた声が漏れる。
歴史を改変し、大勢を翻弄し、最後には拳銃で自ら幕を引くという、血なまぐさい覚悟を決めたあの数年間。
そのすべてが、この静かな病室での昏睡が見せた夢だったのか。
しかし、俺の指先には、今もまだあの引き金を引いた時の確かな震えが残っている。
窓の外を見上げると、高層ビル群の間から沈みゆく夕日が見えた。
俺が変えたかった「日本」は、この現代にしっかりと根を張っている。
「……あっちで散々暴れた分、こっちではせいぜい働かせてもらいますよ」
俺は心の中で、あの時代の仲間たちに別れを告げた。
夢の中で見たあの熱い景色を胸に、俺はまた、この現実という名の新しい戦場へ歩みを進める。
完
ありがとうございました。




