第29話:明治政府の創設――「会社」から「国家」へ
慶応4年。元号が明治と改まったその日。
京都・二条城の大広間には、かつての公家も、大名も、そして俺のような浪人も入り混じった、かつてないほど奇妙で熱気あふれる議場が完成していた。
俺は壇上に立ち、集まった全国の藩主たちを見渡した。
彼らの手には、刀ではなく「明治政府・株主総会」の招集通知が握られている。
「これより、明治政府の第一回株主総会を始めるぜよ」
会場がざわめく。だが、俺が背後の大きな黒板に、日本の「損益計算書」をチョークで書き込むと、静まり返った。
そこには、俺が全国を飛び回って整理した、圧倒的なまでの数字の羅列がある。
「徳川の古いシステムでは、国は死ぬ。けんど、この『明治』という新しい組織は違う。俺が提唱する政府は、国中の全ての藩を『支店』として管理し、国民一人ひとりを『株主』とする。藩の借金は明治政府が株式化し、全国統一の通貨を発行して経済を一本化する。これが、日本という国の新しい経営計画ぜよ」
西郷が前列で力強く頷き、桂が議案書を掲げる。二人の合図とともに、列席した者たちが一斉にペンを走らせた。
戦わずして、大名たちは「領主」から「株主」へと立場を変えた。
彼らにとって、領土という名の重荷を下ろし、配当金を得られる立場になることは、この上ない救済だったのだ。
「これにて、明治政府の発足と、株式会社・日本の統合を宣言する!」
俺の声が響き渡った瞬間、議場の窓から差し込む太陽が、新しい時代の到来を告げるように会場を眩しく照らした。
二〇〇年以上続いた封建制度が終わり、近代国家という名の「巨大企業」が産声を上げた瞬間だった。
俺は壇上から降り、外の空気を吸いにバルコニーへ出た。
京の街には、早くも新しい時代の息吹が満ちている。
もはやここは、誰か一人の城ではない。俺たちが作り上げた、世界と対等に渡り合うための「最強の政府」なんだ。
(……さて、舵取りは西郷さんたちに任せるとするか。俺の仕事は、ここで終わりや)
俺は懐から愛用のピストルを取り出し、海へと続く道を眺めた。
政府という「組織」が完成した今、坂本龍馬という「個」は、歴史の表舞台から消えるべき時が来ている。




