第28話:盟友との再会、明治という名の「新会社」
「株式会社・日本」の設立からひと月。
改組された明治政府の執務室には、かつて薩長同盟で火花を散らした西郷隆盛と桂小五郎の姿があった。
しかし、彼らの腰にはもう刀はない。
代わりにぶら下がっているのは、計算機と各地の市場価格を記した手帳だった。
「坂本はん……。あんたがやったことは、到底信じられん。血を流さんで幕府を終わらせ、しかも日本中を『株式会社』にするとは」
西郷が呆れたように笑いながら、湯呑みを置く。その眼光は、以前の闘志ではなく、龍馬という「怪物」に対する信頼と好奇心に満ちていた。
「驚くことはないぜよ、西郷さん。おまんらが必要以上に刀を振り回しよった時間を、算盤を弾く時間に変えただけや。おかげでこの国の生産力は、去年の倍以上になっちゅう」
桂が苦笑しながら、山積みになった「明治政府・事業計画書」を指で弾く。
「これを見ろよ。旧幕府の官僚も、俺たちの藩士も、今は武器を捨てて貿易の統計をとるのに必死だぜ。お前の作った『社債』とやらが、国中の金を吸い上げて、近代産業に投資しちまう。俺たちが何年もかけて成し遂げようとした『変革』が、お前の手にかかれば僅か数ヶ月か……。正直、悔しいを通り越して笑いが出てくるぜ」
「二人とも、これでええんや」
俺は懐から、世界地図を取り出した。そこには、日本から伸びる無数の商路と、各国の金利、主要物産が赤ペンで記されている。
「明治政府は単なる政治機関やない。日本という国を管理し、世界中で利益を上げるための『持株会社』ぜよ。俺とおまんらで、この小さな島を世界最大の『ビジネスの拠点』にするんや。……どうや、幕末の喧嘩はこれでおしまいにして、世界を相手に博打を打ってみんか?」
西郷と桂は顔を見合わせ、やがて同時に豪快に笑い出した。
かつての戦友たちが、今や明治という新しい時代を動かす「役員」となった瞬間だった。
「面白い。坂本さん、あんたの船に乗ることにするよ。この明治政府、あんたの指揮下で世界を食ってやろうじゃないか」
「ああ。世界相手の博打か……悪くない。まずはどこから攻める?」
俺は窓の外、横浜港に停泊する巨大な蒸気船を指差した。
「次はロンドンや。世界の金融の中心地を、俺らが根こそぎひっくり返してやるぜよ。明治の夜明けは、俺たちが世界を買い叩くことから始まるんや」




