第27話:幕開け、「株式会社・日本」の設立
慶応3年、秋。
かつて徳川幕府の中枢として君臨した二条城の一室に、重苦しい沈黙が流れていた。
病院から運び出されたばかりの老中たちと、蒼白な顔色の徳川慶喜。
彼らの前には、俺――坂本龍馬が一人、泰然と座っていた。
「慶喜公、もはや刀を振るう時代は終わりました。これからは『資本』を動かす時代です」
慶喜は震える手で、目の前に置かれた契約書を見つめた。
そこには、日本中の藩の借金を海援隊が肩代わりし、その代償として「経営権」を新政府へと移行する旨が記されている。
「坂本……そなた、これがどれほど恐ろしいことか分かっておるのか。徳川の世を、ただの商売の道具にしようというのか」
「ええ。将軍家の威光は、日本という会社を守るための『ブランド』として残しましょう。ただし、決定権は株主が持つ。……国民一人ひとりが、この国の行く末を決める株主になるのです」
俺は懐中時計をカチリと鳴らした。
城の外では、看板を見て新しい時代を確信した町人や民衆たちが、静かに、しかし熱狂的に「新しい世」の到来を待ちわびている。
慶喜は、力なくペンを手に取った。
抵抗しても無駄だ。
経済という鎖に繋がれた以上、彼に拒否権など最初から用意されていなかった。
「……これが、そなたの描いた『国』か」
「はい。株式会社・日本。赤字続きの旧体制から、世界一の経済大国への転換です」
ペンが紙に走る。乾いた音が室内に響いた。
その瞬間、二〇〇年以上続いた「徳川幕府」という名の古いOSはシャットダウンし、龍馬という名の新しいOSが日本という国家にインストールされた。
俺は立ち上がり、窓を開けた。
京の街並みが、夕日に照らされて黄金色に輝いている。
もはや誰の血も流さず、戦火も上げず、ただ一つの書類と、経済という圧倒的な理屈だけで、国は塗り替えられた。
「さあ、出航や。ここからが、真の日本株式会社のスタートぜよ」
背後で慶喜が泣き崩れるのも気にせず、俺は広大な世界を見据えた。
この国は、これから俺たちの手で、どこまでも高く跳ね上がっていく。




