第23話:神輿から転げ落ちた「天」の正体
稲葉正邦、板倉 勝静、酒井 忠惇、松平容保、蒔田広孝、松平康正の六人のファンの方々ごめんなさい
「……あれが、本当に老中様たちなのか?」
江戸・日本橋の路地裏。瓦版売りが配る最新号の絵図には、病院の廊下でうつろな瞳を天井に向けたまま、呆然と口を開けている幕閣たちの似顔絵が描かれていた。
町人たちの間では、朝からその話題でもちきりだ。
「見たんだよ、俺は。昨日、病院の前でさ。板倉様が担架で運ばれていくのを。あの威厳に満ちていた顔が、まるで枯れ枝みたいに細くなっててよ。何よりも……その目が、何一つ見えていないみたいだった」
魚屋の親父が、包丁を止めて呟く。
その言葉に、周りの客たちも神妙な面持ちで頷いた。
かつての江戸の町人にとって、老中や守護職といった役人は、雲の上の存在だった。
遠くから影を見るだけで平伏し、その一言で街が震える。
そんな神のような存在が、いまや「ただの病人」として、医者に指図されるままに身を委ねている。
「坂本様というお方は、一体何をしたんだ……?」
誰かがポツリと洩らした。
武力で城を攻め落としたわけじゃない。
血を流して戦ったわけじゃない。
ただ、坂本龍馬という男が「経済」という名の秤に徳川を乗せたとき、彼らはその重さに耐えきれず、自ら崩壊してしまったのだ。
「結局、俺たちは『名前』を恐れていただけで、本当の支配者は別のところにいたってことかよ」
茶屋の隅で聞いていた若い浪人が、皮肉っぽく笑った。
病院から漏れ聞こえる重鎮たちのうわ言――「借金が……」「市場が……」「海援隊が……」という、武士らしからぬ商売の悩み。
それを聞いた町人たちは、もはや彼らを敬うどころか、哀れみすら抱いていた。
権威とは、脆いものだ。
一度、その「神輿」から転げ落ちれば、あとはただの老いぼれた人間でしかない。
江戸の街角で、新しい時代の風が吹き抜けていく。
坂本龍馬が作り上げたのは、刀のいらない、誰もが公平に「数字」で語り合える世界。
町人たちは、病室にいるかつての支配者たちを見捨て、日本橋の先にある「新しい未来」へと歩き出した。
もうちょっとだけ続きます




