第21話:権威の終着点、白い病室の静寂
江戸の街角と京の都に、どよめきが走った。
幕府の最高権力者である老中三名――板倉勝静、稲葉正邦、酒井忠惇、そして京の治安を預かる守護職の松平容保、蒔田広孝、松平康正。この「幕府の心臓」を成す六人全員が、ほぼ同時に意識を失い、病院へと緊急搬送されたというのだ。
かつて大名行列で威容を誇った彼らは、今やただの「一人の病人」として、無機質な担架に乗せられ、慌ただしい足音と共に白い廊下へと消えていく。
「どけ! 道をあけろ! 徳川の重臣殿のお通りだ!」
家臣たちが血相を変えて叫ぶが、通りすがりの町人たちの目には、その光景が奇妙に映った。
これまでお上として畏怖されていた男たちが、ただの虚ろな目をした老人となって運ばれていく。
そこに、威厳の欠片も残っていない。
診察室の扉が閉まる。
医者たちが集まり、口々に困惑の声を上げる。
「過労……それに極度の精神疲弊。まるで、目に見えない何かに魂を削り取られたかのようです…」
病室のベッドに横たわる彼らは、麻酔の効いた夢の中でなお、うなされていた。
坂本龍馬という名の、計算機のごとき男が突きつける「莫大な負債」と「突き崩される国家」という悪夢。
その頃、俺はその病院の屋上から、暮れゆく江戸の空を眺めていた。
六人の権力者が倒れたことで、幕府の意思決定機関は完全に沈黙した。
今日をもって、日本という国から「旧時代の支配者」は姿を消したのだ。
(ああ、これでようやく……この国を、俺の描く設計図通りに再建できる)
病院の中では医者たちが慌てふためいているが、そんなことはどうでもいい。
彼らが次に目覚めたとき、そこにはもう「徳川の幕府」など存在していないのだから。




