第19話:崩れ落ちる重臣たち、鳴り止まぬ不協和音
容保公のファンの方々ごめんなさい
京都守護職邸には、重苦しい静寂が漂っていた。
見廻組の解体という「汚名」を被り、商人の怒り、領民の不安、そして幕閣からの冷ややかな視線――全てを一人で背負ってきた松平容保の心は、すでに限界を迎えていた。
「殿、また食事を……」
「……いらぬ」
容保は痩せ細った手で書類を払いのけた。その時だった。
ドサリ、という重い音が部屋に響いた。
「殿! 殿――っ!」
駆け寄った家臣の叫び声に、近隣の部屋にいた蒔田広孝と松平康正が飛び込んでくる。
しかし、彼らの顔色もまた、この世のものとは思えないほどに土気色に変色していた。
「……容保公、何ということだ……」
蒔田が震える足で容保に歩み寄ろうとした瞬間、今度は彼自身の視界が激しく揺れた。
昨日から続く、大坂の商人たちからの連日の督促。幕府の財政が底をついたという報告。
そして、海援隊から送られてくる「連日の経済制裁通告書」。
その全てが、蒔田の脳内でスパークした。
――プツリ。
何かが切れる音がした。
「ああ、米が……米が届かぬ……。領民が、百姓たちが……!」
蒔田が口から泡を吹いて床に倒れ込む。
最後には、一人残った松平康正が、狂ったように笑い出した。
「ハハハ! 結局、我らは何のために生きていたのだ! 坂本という商人に、国を、誇りを、全てを喰らい尽くされただけではないか!」
康正もまた、過度のストレスによる脳の血管の悲鳴に耐えられず、糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
三人の有力者が同時に倒れた。幕府の要石が次々と外れていく。
彼らの倒れた床には、海援隊からの「未払い代金請求書」が散らばっていた。
それはまるで、新時代という名の死神が、古い権力者たちに突きつけた最後の領収書だった。
かつて栄華を極めた男たちが、一人の男の「計算」によって、誰に看取られることもなく無様に地面を這う。
京の街には、時代の移り変わりを告げる鐘の音が、どこか冷ややかに響き渡っていた。




