第18話:切り捨てられた番犬、潰えた権威
京都守護職邸の一室。そこには、以前までの威厳は見る影もない、憔悴しきった三人の男たちの姿があった。
京都守護職・松平容保。備中浅尾藩主・蒔田広孝。そして、旗本・松平康正。
彼らの目の前には、近江屋襲撃を主導した京都見廻組の与頭が、何が起きたのかも分からぬまま、跪かされていた。
「……今日を以て、京都見廻組を解体する。貴様ら全員、浪人として京の地を去れ」
容保の声は氷のように冷たかった。
与頭が驚愕に目を見開き、抗議の声を上げようとする。
「殿! それはどういうことでしょうか! 我々はあくまで、賊である坂本龍馬を討つために――」
「黙れ!」
今まで沈黙を守っていた蒔田広孝が、激昂して机を叩いた。その顔は、極度のストレスで引きつっている。
「貴様らの独断専行のせいで、海援隊から経済制裁を食らったのだ! 領民が飢え、藩の台所が火の車になりかけておる。……貴様ら、幕府を滅ぼす気か!」
松平康正も、吐き捨てるように言葉を続けた。
「お前たちが彼を襲ったおかげで、我々は商人に土下座して借金の返済猶予を願う羽目になった。武士の恥、万死に値するわ。今すぐ首を差出せとは言わん、ただ、二度と我々の前に顔を見せるな!」
与頭たちが連れ出される背中を、三人はまるで「汚物」を見るような目で追った。
かつては彼らこそが、幕府の威光を体現する「正義の剣」だったはずだ。
しかし、龍馬という男が持ち込んだ「経済」という名の現実は、そんな武士の論理を一瞬でゴミ箱へと投げ捨てた。
彼らは龍馬を討つために見廻組を使ったのではない。
龍馬に脅かされた自分たちの地位と、藩の財政を守るために、身内をトカゲの尻尾切りにしたのだ。
(ああ、我々は敗北したのだ……)
容保は心の中で静かに呟いた。
龍馬を討つべき「敵」として認識していたはずが、いつの間にか彼らは、龍馬の指先一つで生殺与奪を握られる「下請け」に成り下がっていた。
見廻組の解散令書に、容保の手が震えながら筆を走らせる。その墨の黒さが、徳川幕府という時代の「終焉」を告げる死斑のように見えた。




