第15話:会津公へ捧ぐ、「経済的」絶縁状
京都守護職・松平容保。
会津藩主にして、幕府の権威を背負って立つ男。
近江屋の襲撃を指揮した見廻組は、彼が管轄する組織だ。
俺は、蒔田と松平が震えている隙に、筆を執った。
返り血を浴びた障子の前で、俺はこれまでのどの書簡よりも冷静に、そして残酷な「抗議文」を書き上げた。
『会津藩主、松平容保殿へ。
昨夜の貴藩・京都見廻組による襲撃、誠に愚かな所業と拝察いたします。
貴公らは武士の矜持を掲げ、この国の秩序を守る任にあると聞く。されど、その組織が徒党を組み、無防備な商人を襲い、物流を停滞させるテロ行為を働いた事実は、すでに大坂の商人たちの間に知れ渡りました。
これより、海援隊が管轄する全ての交易ルートにおいて、会津藩に関連する物資の流通を「永久凍結」いたします。
貴公らが刀で斬り捨てたのは、俺という一個人ではない。貴公らが生きるために不可欠な、兵糧、武器、そして日用品を運ぶ「経済の血管」そのものです。
会津が戦う相手は、もう薩長でも俺でもない。
明日から会津の領民が飢え、兵たちが銃弾を失い、貴公の藩が干上がるという「現実」です。
もし貴公が真に民を思う領主であるならば、速やかに見廻組の解体と、幕府への謝罪を促すことだ。それが、徳川家が最後に名誉を守る唯一の術である。
返答は不要。この手紙が届く頃には、会津の市場には「会津お断り」の札が並んでいるはずやき』
俺は筆を置き、その手紙に海援隊の金印を押した。
「龍馬さん……これ、会津を本当に殺す気ですか?」
傍らで見ていた部下が青ざめる。俺は静かに笑った。
「殺すんやない。時代に合わせて『アップデート』させるんや。武士の世を終わらせるために、最後の一撃を食らわせるだけのことよ」
俺が送ったのは抗議文ではない。
会津藩に対する「戦力外通告」であり、徳川幕府の死刑宣告書だ。
この手紙が容保の手に渡った瞬間、幕末の歴史は、誰にも止められない速度で「明治」という新しい市場へと転がり出す。




