第13話:近江屋の罠、死神を狩る夜
近江屋事件へ
慶応三年、十一月十五日。京都、近江屋。
この日が歴史的な「暗殺の夜」であることは、俺の記憶に刻まれている。
だが、今の俺にとってこの夜は、最後の「ゴミ掃除」の日でしかなかった。
(さて、そろそろご来客の時間か)
俺は薄暗い部屋で、懐のピストルを点検していた。
外では冷たい雨が降っている。
表向きは無防備な志士の隠れ家。
だが、近江屋の周囲には、俺が雇った海援隊の精鋭たちが十重二十重に潜んでいる。
さらに、部屋の障子の裏や床下には、俺が特注させた近代的な防弾板と、侵入者を感知する「音響トラップ」を仕掛けていた。
障子が音もなく開き、黒装束の集団が雪崩れ込んでくる。
京都見廻組だ。
「坂本龍馬殿! 今日こそ貴様の首、貰い受ける!」
彼らが刀を振り上げた瞬間、俺は部屋の隅にある小さなボタンを押した。
――次の瞬間、仕込んでおいた閃光弾が炸裂し、部屋中が強烈な光に包まれる。
「ぐわあぁっ! 目が、目がぁ!」
ひるんだ隙に、俺は立ち上がり、音もなく背後へ回る。
刀など抜かない。
この時代の人間には理解できない、最新の護身術と、合理的な制圧法。
一撃、二撃と、俺は彼らの急所を確実に沈めていく。
「おまんら、まだ幕府の威光を傘に切るつもりか? 時代遅れなんよ。世界はもう、刀なんかじゃ動かんのや」
俺は床に這いつくばる刺客の首筋に、冷たい銃口を突きつけた。
かつて死んだはずの男が、今、死神を狩っている。
(歴史は、死をなぞるためにあるんじゃない。俺が生き残るために書き換えるためにあるんや)
雨音に混じって、刺客たちの悲鳴が消えていく。
幕府という時代の「遺物」は、ここで完全に市場から撤退することになる。
近江屋の夜は、俺の完全勝利で終わる――。




