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保健室には秘密がある  作者: 熊猫ぱんだ


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8/11

あと少し

卒業まで、あと二週間だった。

卒業式までの二週間は、長いようで一瞬だった。


学校では最後のテスト返却があり、

クラスでは寄せ書きや写真撮影ばかりしている。

みんな浮かれていた。

でも結衣だけは、どこか現実感がなかった。


卒業したら終わるかもしれない。

その不安が、ずっと胸の奥にあった。



「結衣、最近ほんと丸くなったよね」

昼休み。

奈緒が唐揚げを頬張りながら言った。


「なにそれ」

「前よりピリピリしてない」

結衣は少しだけ目を瞬く。

そんなふうに見えていたんだ。


「なんかあった?」

奈緒がニヤニヤしながら覗き込む。

「彼氏?」

「違う」

即答すると、奈緒は「怪しい~」と笑った。

結衣も曖昧に笑い返す。


昔の自分なら、たぶんこういう会話すら面倒だった。

誰かに興味を持たれるのが怖かったから。

でも今は少し違う。

高瀬が何度も言ってくれた。

「お前は、そのままで十分だ」って。


だから前より、自分を取り繕わなくなった。



その日の放課後。

保健室の前まで来た時、中から女子生徒の笑い声が聞こえた。


結衣の足が止まる。

「先生ほんと優しい~」

聞き慣れた女子の声。

ドアの隙間から見える。


一年生くらいの女子が、高瀬と話していた。

高瀬はいつも通り穏やかに笑っている。


胸がざわつく。

嫌だった。

自分だけが特別じゃないって、当たり前なのに。


今日は帰ろう。

そう思った。

でも。


「相沢」

後ろから声が飛ぶ。

振り向く。

高瀬だった。

一年の女子はもう帰ったあとだった。


「なんで逃げる」

「逃げてないです」

「嘘つけ」

結衣は目を逸らす。


高瀬は小さく息を吐いた。

「嫉妬か」

「違います」

「分かりやすいな」

少し笑われる。

悔しい。

結衣は唇を尖らせた。


「先生、誰にでも優しいじゃないですか」

「養護教諭だからな」

「それズルいです」

高瀬は困ったように眉を下げる。

「お前だけ特別扱いしたほうがいいか?」

その言葉に、結衣の心臓が大きく跳ねた。


「……そういう言い方ズルい」

高瀬は小さく笑う。

結衣は顔が熱くなるのを誤魔化すように、丸椅子へ座った。


保健室には夕陽が差し込んでいる。

オレンジ色の光。

静かな空気。

この時間が、好きだった。


「先生」

「ん?」

「卒業したら、ここ来れなくなるんですね」

高瀬の手が止まる。

「まあ、普通はな」

「寂しい」

ぽつりと零れた本音。


高瀬は少し黙ったあと、静かに言う。

「俺もだよ」

その瞬間、胸が締めつけられた。

嬉しいのに苦しい。

結衣は俯く。


「先生って、たまにズルいくらい真っ直ぐですよね」

「お前にだけは言われたくない」

二人で少し笑う。

その空気が心地いい。


でも、終わりは近づいていた。

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