第二十二話 「日常に帰る」
第二十三話は8/10(月)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
二日が経った。羅刹鬼と別れて、タニチェリの町を目指し歩き始めてから。
道中、何度かニコのように行商をする人たちや、タニチェリの治安維持をしているらしい警備隊のような集団とすれ違った。
昔はこういった人たちがシウォク領を目指す道中で、あのシュゴオ村に立ち寄っていたのだろう。
丸一日と少しが過ぎた頃、日が暮れる少し前にはヘイランが昔訪れたという町にたどり着いた。
推察するにどうも羅刹鬼の言うアメの目的地である町は、一行の配達先でもあるタニチェリの海辺の町らしかった。というのも、その町は既に荒廃していて町の玄関口だったらしい付近の数軒に農家が住んでいるだけで孤児院などなかったのだ。
そのため、その町では素泊まりだけして翌早朝に早々と出発した。しかし、その判断は悔やまれることになった。
出発してから数時間後、もうそろそろ昼ごはんを考えようかなと普段であれば考えるころ、どうやって雨をしのごうかなと考える羽目になっていた。
空には厚い雲が立ち込め雨がざあざあと降り、雷はどんじゃんばりばりやっていて、風はごうごうと吹荒び、とても歩き進められそうになかった。
ちなみに一行は合羽のような雨具を羽織っているが、直接濡れないだけで、水は染み込むし重たいしで大した性能はない。
「俺、雨嫌いだわ。」
カッシオは雨宿りできる家を探しながら呟くように言う。もじゃもじゃでふわふわの髪の毛は全て顔に張り付いていて、落武者みたいだった。
ちなみにアメノはカッシオの背嚢の中の鍋に入って寝てしまっている。
——ひとりだけずりい。小さい体って不便も多そうだけど、良いことも多いよな。
「……。嫌い?」
アメが悲しげな表情を浮かべる。だが、その内心はもうみんなわかっていた。アメノにすっかり感化されて遅めの生意気盛りというか、いたずらっ子と化している。
「うン、お前じゃなくて、空から降ってくる方な。面倒臭えンだよな。普段やンなくていい仕事が増えるから。」
「ああ、わかります。こっち来てから本当に嫌いんなりました。前は結構好きでもあったんですがね。」
「へえ、そうなんだね。わたしは…どうだろう、好きなような嫌いなような……。」
ヘイランも雨には普通に濡れるらしい。余裕のある表情は全く崩れていないが。
「姐ちゃんは水の上は歩くのに、雨には濡れるンだな。」
「…?そりゃ濡れるでしょう。避けようがないし。」
「避けれるもんなら避けていたみたいな口ぶりですね。」
「小さい頃はできたらいいなとか考えてたかもね、もう忘れちゃったよ。」
「い、一緒!わたし…も小さい頃、頑張って避けようとしてたら、お、お姉ちゃんに笑われちゃったの!」
「うんうん、一緒だねえ。お揃いだねえ。アメ君が興味があるなら、色々教えてあげるよ。お姉さん、こう見えて結構すごい人なんだぜ?」
ヘイランと子どもの取り合わせなんて想像できなかったが、思った以上に面倒見はいいようだ。
「まあ、ほどほどにな——お、家だ!民家だ!やっと雨をしのげる!ほら、あれ!」
カッシオは声をあげて、指で木造の掘立て小屋のようなものを指し示す。正直、距離と雨のせいでよく見えないし、民家にしては簡素すぎる気がする。だから、これは半分願望だ。暖かいものを口にしたい。
しばらく歩いて行くと、見えていたのはやはり農家の物置だった。だが、裏手にはきちんと民家があり住民もいた。
住民は壮年の夫婦で、子どもらは奉公で海辺の町へ行っていないから「どうぞ使ってくれ」と迎えてくれた。
「はぁ〜、ノヴァから来たんか。大変だったなあ。雨っこたくさん降ってる時にご苦労さんだあ。」
住民の壮年の男性(オロと名乗っていた)が火鉢に火を灯して出してくれる。
「あんたが見てたらお嬢さん方着替えられないだろ、裏に行っといで!」
オロの妻サトが彼を叱る。
「じゃ、俺らも向こうで着替えてくるか。」
カッシオは悠に目配せして、軽く頷くのを見て歩き出す。
「あいあい、こっちだよお。」
オロが背を向けて奥の部屋に向かって歩き出す。
「すまないね、奥方、わたしたちが押し入ったのに。」
「いいんだよお、久方ぶりのお客さんだもの。こっちだって嬉しいのさ。」
「あんた方はどこまで行くんだい?」
「わたしたちは配達人で、ひとまず荷物を海辺の、ウナキの町まで届けに行く予定だね。」
「あら、そう。ウナキまで。…ローインの人たち、なんだよね?会社通さないで依頼とかしても良いもんかね?」
「構わないよ。個人的に依頼を受けることを禁止されているわけじゃないからね。」
「そりゃあ、良かった!たまに町まで行くという連中に預けたりするけど、やっぱりちゃんと配達人方に依頼するのが安心だからね!」
「な、なにを…届ける、の?」
「子どもらに手紙と、あと食べる物とかかね。お嬢ちゃんも配達人かい?可愛らしい子だねえ。」
サトがアメの頭を撫でくり撫でて、にっこり微笑む。
「〈入ってもいいですか〜?〉」
ヘイランはアメに目配せして、もう着替え終わったと軽く頷くのを確認する。
「もう、いいかな?——構わないよ、入ってくれて。」
「ちょっとだけ聞こえてたんですが、何かご依頼ですか?」
悠はサトとヘイランに順に視線を送る。
「あら、聞こえてたの。手紙とか、たまに来るやつだね。」
ヘイランが簡単に説明する。それを受けてサトが戸棚から丁寧に封をした手紙を持ち出してくる。
「ああ、いつものですね。——大丈夫です、必ず届けます!」
悠はそれを受け取り大げさに胸を叩く。
「うんうん、今日はあんた方が戸を叩いてくれてよかったよ。——あんたらにとっちゃあ不運だろうがあたしらには幸運だったね。」
「ああ、ほんとおに良かったよお。あいつらに会ったら『たまには帰ってこ』って言っとってくれ。」
オロも手に火鉢の炭をいくらか持って戻ってくる。
「ほんで、今晩は泊まっていく、だろう?何食いたい?なんでもはないが、あるもんなら出してやるから。」
オロとサト夫婦が歓迎してくれるのと、雨は止みそうにないことから、一行はありがたく泊めさせてもらうことにしてその日は終えた。
雨はざあざあと一晩中降り続いた。眠りに入ってからも聞こえる、屋根を打つ雨の音は心地良く、ここ一週間ほどの疲れが吹き飛ぶようだった。
———
翌朝。雨は上がり、朝日に虹がかかっていた。足元には大きな水たまりができていて、キラキラと空の碧と白い光を反射している。湿った土の匂いが濃い朝だった。
「ふんじゃあ、サトさん預かりました。ちゃんと届けっから安心してください。」
カッシオが背負子にまとめた、少し増えた荷物にそっと手を置きにっこり微笑む。
「うん、あんたらも気をつけてね。ウナキの方は大丈夫だけど、シウォクの方で物騒なことがあったみたいだから。」
サトがアメの手をにぎにぎしながら言う。アメノがつまらなさそうにそれを見ているので、最後にサトに頭を指で撫でられていた。
「じゃ、俺らはこれで。」
「「気ぃつけるんだよお!」」
オロとサト夫婦に見送られながら一行は海辺の町ウナキを目指して歩き出した。
【ちょっとお知らせ】
いつも読んでくださり、本当にありがとうございます。
本作についてですが、しばらくの間、不定期更新とさせていただこうと思います。
初めて書いた小説ということもあり、キャラクターにも世界観にも強い思い入れがあります。一方で、今は別作品にも力を入れたいと考えています。
この作品は、いつか彼らの人生の行き着く先まで、もっと多くの方に読んでいただける形で届けられるよう、自分自身ももう少し成長したいと思っています。
第三章は最後まで更新し、間話も三話分ストックがありますので、しばらくはこれまで通り更新していきます。その後は他作品との兼ね合いを見ながらの不定期更新となります。
また、新しいホラー短編も執筆中です。
『ファントム・バイブレーション 〜鳴り止まない通知〜』
投稿日が決まりましたら、改めてお知らせします。
これからもよろしくお願いいたします。




