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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第三章 「閉ざされた村で」
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第二十話 「そしてまた峠へ」

第二十一話は7/29(水)の深夜に投稿します。

よろしくお願いします。

 シュゴオ村を離れた翌朝。

 悠たち三人は峠の平屋に向かって山を登り始めていた。

 昨日村を出た時には、早くも日が傾き始めていたので、悠たち三人は荷物を置いた野営地で焦らず一泊することにしたからだった。


———


 昨晩。

 焚き火の光の中に浮かぶヘイランの顔は普段に比べると、かなりやつれて見えた。彼女の白髪も相まってまるでお年寄りのように感じられた。


「大丈夫ですか、ヘイランさん。いくらあなたでも監禁されたら身体的にも精神的にも辛いでしょう?」


「まあ、ねえ。いらぬ神経は使うしね。」


「あ、そうだ、姐ちゃん。これ。」

 カッシオが背嚢から彼女の忘れ物、小さな巾着袋を取り出す。


 ヘイランはそれを受け取って手に出す。中からはキラキラとした水晶の欠片のようなものと、半分に割れた黒い玉が出てくる。

「ああ、ありがとう。——君らも中々危ない橋を渡ったんだね。」


「それ、光楼石…でしたっけ?もしかして……割れてしまってました?」


「宝石ってことか?それは悪いことしたな…。結構高いよな…?金ができたら弁償するよ…悪い。」


「ああ、いやいや良いんだよ。」

「ハル君は覚えてるかな?海の中の都市の妖の職人がこれを作ってるって話。要はこれも特殊な妖力式ってわけだよ。」


「えーと、つまり?」


「これはいわゆるお守りみたいなもの、かな。海って強力な妖が多いからさ。それに襲われた時に周辺の妖力を吸って乱すみたいなことができるんだよ。」

「だから、見たこと…あるかな?沖合まで出るような船の装飾には必ず光楼玉があしらわれているんだよ。」


「ああ!それでばあさんの髪の攻撃を破れたのか!!」


「へえ、あのおばあさん、そんなことができるの。——見てみたいな…。ま、あの時これを置いていって正解だったわけだ。」


「忘れたわけじゃ無かったんですね。——あ、そうだ。じゃあ昼に話してた蛍の目印も——」


 そんな会話を三人でして、シュゴオ村での不愉快な記憶を洗い流す。心の奥底に蓋をしても漏れ出てしまう臭気も楽しい会話でかき消すように。

 そうして、その日の夜は閉じた。


———


 タニチェリ領に向かう山道をゆっくりと三人は登る。初めてここを歩いた時は、義憤や恐れ、アメの哀れな境遇など、とにかくネガティブな感情に支配され、心穏やかでなかった。

 今は普段の旅路と変わらない心持ちで歩けるので、感謝の気持ちさえ溢れてきそうだ。


「あちぃ。あの三人はもう峠に着いてンのかな。」

 カッシオは普段と変わらない様子で、前だけを見てぼんやりと歩く。


「さあ、どうでしょう。羅刹鬼は一応おばあさんですし、子どもと、アメノはものの数に入らなさそうですけど、を連れてですからね。もしかしたらどっかその辺で追いつくかもですね。」


「…ヘイランさんが知っていれば、ですけど、教えて欲しいのですが…。その…人が妖になるってことはあり得るんですか?」

「羅刹鬼のおばあさんが言っていたんです、『昔はただの主婦だった』って。」


「さて、どうなんだろうね。妖と人が子を成せばその子は妖なわけだけど、人は人のままだ。妖力を持つものは妖と呼ばれるわけだけど、人が持てるようになればそれは妖と呼べるかもしれないし…。」

「まあ、どうでもいいんじゃない?今や人より妖の方が多いんだ。——ハル君は妖は嫌いかい?」


「いやいや、嫌いとかでは!アメノだって妖ですし!ただどうなのかなって思っただけで。」

「ち、ちなみに…。……。」

 浮かんだ言葉は口にすべきでないように感じる。取り繕わないといけない。


「…そう、超能力って言って伝わりますか?カッシオは言葉の通じない相手とか誰とでも意思疎通が取れるんですけど、それは妖力とかと関係ってあります?」


 ヘイランは顎に手をやり、首を傾ける。

「…ハル君は難しい質問ばかりしてくるねえ。うーん、結論から言えば関係はない。ただ…わからない。この一言に尽きるね。神の寵愛か、努力の賜物か、はたまた妖力を持たない者がたどり着いた可能性、か。」

「うん、”超能力”。それが一番しっくりくるかな。」

 ヘイランも合点のいく答えが見つかったと言うように笑って頷く。


「ちなみに、ヘイランさんも何か超能力みたいなものは持ってるんですか?」


「悠、あんまり姐ちゃんを質問責めにするなよ。答えたくないこととかだってあるだろうしよ。」

 カッシオは背後で延々と行われる会話が尋問や詰問の類に思えてきて口を挟まずにいられなかった。


——勘違いじゃなけりゃあ、”あれ”だっておかしいしな。いくら仲間でも隠したいことだってあるだろうし…。


「いやいや、構わないんだよ、ここまでわたしに興味を持ってくれて逆に新鮮だし、嬉しいよ。これまではなんだかみんなに遠慮されちゃってね。」

「えっと、超能力があるか、だね。どうなんだろう?色々できるけど、わたし自身はよくわからないんだよ。どれもすごく難しいけど、鍛錬次第では誰でもできるという感覚だからねえ。」


「ああ、崖をこともなげに登ったり、水の上歩いたり?超能力でいいンじゃねえの。」


 話しながら歩いていると、先に見覚えのある木陰と水場が見えてくる。そこからは覚えのある子どもたちのはしゃぐ声が聞こえてきた。


「お!やっぱ追いついたか!——おぅい!昨日ぶり!」

 カッシオが水場でぱちゃぱちゃと遊ぶひとりと小さな小さな人影に向かって声をかける。

 脇の石の椅子には枯れ木のように今にも割れそうな腕をしたおばあさんが座っている。孫を遊ばせているおばあさんのように見えて微笑ましい。アメノとアメ、羅刹鬼の三人だ。


「あ、バカだ!バカがきたぞ!」

 アメの肩に乗ったアメノがカッシオに気づいて、彼女に目配せをする。


「バカ、の…人!」

 アメは少し口にするのを躊躇うような表情を見せつつも、悪戯っぽく笑う。シュゴオ村で育ったからだろうか、こういったじゃれあいに不慣れな感じが否めない。


「うるせえ、アメに変なこと教えンな!お前みたいに救いようのないやつになったらどうすンだ!」

 カッシオはアメの気安い様子に少し驚きもあれど、子どもらしい雰囲気を纏うようになり嬉しくなる。


「ははっ。アメさん、すっかり元気ですね。——村にはもう戻らないことになりますけど、大丈夫ですか?寂しいとか、友だちとか…。」


「ちょっと…寂しい。でも、生け贄のお役目は終わったから…!おばあさん言ってくれたの!好きなことしろって!だから…海見たい!それから、お菓子もたくさん食べたい、の!」


 アメが一生懸命に話す様子に耳を傾けていた羅刹鬼は優しく微笑む。

「もともと、そのつもりだったんじゃ。それに村に戻ったとて、あらためて生け贄に出されるだけじゃろう。腹は立つがそういう計画じゃしの。」


「そういえば、アメさんをバンキたちに見られたわけですが、連中、放置して良かったんですかね。」


「なンでだよ?」


「だって、僕らが攫ったと思われたなら、指名手配とか、そもそも代わって新たな生け贄が必要になるとか…。」

「ん?大丈夫か。生け贄の子を助けて指名手配もおかしいし、新たな生け贄となれば羅刹鬼のおばあさんによって助けられる子が増えるだけですもんね。」

 悠は自分で話しながら自己解決してしまい、それを見守るカッシオがぼんやりした顔を浮かべるのを見て少し申し訳なくなる。


「はあ。ンなことよりよ!みんな無事に揃ったんだ、打ち上げじゃねえけど、飯にしねえか?」


「あ!いいな、それ!ばばあ、なんか獲ってこいよ!」

 アメノがカッシオの意見に賛同して身を乗り出す。肩から落ちそうになるが、アメも慣れたようでさっと支えている。


「ばばあ…?」

 ヘイランがこめかみに青筋を浮かべ始める。


「口の減らんガキが、まあ良い。子どもは生意気なくらいが可愛いもんじゃ。」

 羅刹鬼がくつくつと笑いながら腰を上げる。

 アメノの「ばばあ」は羅刹鬼のことらしい。勇気があるのか、あるいはただ無謀でお馬鹿なのか。


「いーや!わたしは許さない!女性に向かって『ばばあ』とはなんだい!アメノ君!礼儀ってのは大切だよ!」

 ヘイランがアメノに詰め寄る。

 いつもの光景だ。アメノがからかい、ヘイランが怒ったように振る舞う。そしてアメノを人形か何かのように扱い可愛がるのだ。アメノにとって”かなりクツジョク”らしいが、本当に嫌なら力を使ってでも逃げるだろうから、やっぱりじゃれあいだ。


 そうして、平和にじゃれあいながら食事の準備を始める。

 羅刹鬼は獣を獲ってくると言って、茂みに消え、カッシオは心当たりがあるからと、アメを連れて山の幸を採りに行った。

 残った三人は怪我人なので、のんびりと火を焚いたり水を汲んで沸かしたりして準備をする。アメノはいまだに羽根がないことを忘れて動いてしまうらしい。しょっちゅう転んでしまうからと、ヘイランに偉そうに命令したりしていた。

 一番痛ましい様子のアメノがこんなに元気に振る舞えば、もう悲しんだり下を向くのは間違いとしか思えなかった。

 

 一時間と少し後。

 羅刹鬼はウサギや鳥を獲ってきた。カッシオも前に登り下りしたときに目をつけていたらしい山の幸をたくさん採ってきた。アメは両手でたくさんの果実を抱えてにこにこと笑っていた。

 羅刹鬼の獲ってきた獲物をヘイランが解体して枝肉にしていった。カッシオがそれを受け取り食べやすい大きさに切り分けて焼いた。

 肉の脂が火に落ちてぱちんと弾ける音。肉の香ばしい香り。美味しい食事を作っていく大人たちの手元を眺めながら待ちきれないといった様子でアメとアメノはそわそわしていた。悠はそんな二人のために、のんびりと果物を拭いて皮をむき、切り分けて渡してあげた。あまりに嬉しそうに受け取るので、思わず悠も笑みが溢れた。

 

 峠の平屋までまだ少しあるというのに突発的に始めた食事会は日が暮れるまで続いた。

 しばらくの間、ただの栄養補給としての落ち着かない食事しかしてこなかったことがわかる。串に刺して塩をふっただけの肉でもすごく美味しかった。

【ちょっとお知らせ】

悪役令嬢もののストックがある程度できましたので、投稿を開始いたしました。

そちらもどうぞよろしくお願いします。

悪役令嬢ものと本作は交互に二日おきで更新とします。


別作品の紹介です。

・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み

・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(7/26(日)深夜 投稿予定)

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