第十九話 「暴走」
第二十話の投稿は7/23(木)の深夜に行います。
よろしくお願いします。
時刻は昼を回った頃だった。
洞窟を離れていた若者たちは荷物を抱えて戻ってきたところ、革のつなぎの男、ロアクに唆され一度は悠たちに抵抗を試みた。そこで羅刹鬼が再び沸騰しそうになるのをアメとヘイランが宥める。彼らは彼女によってバンキの腕が切り飛ばされたことを知り大人しく捕縛された。
もう少し抵抗されるかと思ったが、彼らはそもそも何が問題なのか分かっておらず、本気で女性を虐げることに疑問を感じていないようだった。ただ、ゴウキに黙って冬の生け贄として女性を売り物に変えていたことを、その一点だけを不安に感じているようだった。
「こんな連中に、人を人とも思わぬ連中に生きる価値などないでしょうに。殺すべきでしょうに…。」
悠は、バンキが止血のために腕を焼かれる様子を眺めながらぽつりと呟く。
「またぶつぶつ言ってるぜ、あいつ。頭やばいんじゃない?」
目を覚ましたアメノは、定位置であるカッシオの頭の上で頬杖をついて横になっている。
「まあ、なあ。気持ちが全くわからンかと言えば嘘だ。怒るのも最もだし、ある意味まともな反応ってやつなンだろう。だからって殺して解決ってのは…やり過ぎだとは思うし…。」
「人間てのはややこしいよな。気に食わないやつを気が済むまでぼこってそれでお終いでいいじゃないか。それで死んだらそれが運命ってやつだろ。」
アメノはなんでもないことのように軽く口にする。
「君ら妖はそれでいいだろうさ。彼の場合はそうはいかないってことだね。——いやはや悪いことをした。」
ヘイランはバンキの簡単な治療を終えた後、二人の会話に混ざりにくる。そして、カッシオからお茶を受け取り、静かに腰掛ける。
「そういや、姐ちゃん。あのロアク?ってやつには結局何もされなかったのか?服は剥ぎとられたみたいだけど…。無事だった…ってことだよな?」
カッシオは目の端でロアクが地面にぶち撒けた人皮をとらえながら尋ねる。彼女の顔にそっくり、のような気がするそれを。
「うん?うん、そうだね。何かされる前に助けに来てくれてありがとうね。」
「彼らの作ったあれらはここで埋めていこう。可哀想な女性たちを晒し者にするのは気が病まれるしね。——ひとつ、そうひとつだけ、あの顔の部分だけ持って行こうか。証拠にね。」
ヘイランは少し口の端を歪めながらカッシオの視線の先の皮を拾い上げる。
カッシオは思わず顔を泣きそうな、吐きそうな、そういう顔を浮かべるが何も口にしなかった。ただ黙ってそれを見守る。
その後、ヘイランは羅刹鬼に声をかけて、二人で埋葬を済ませた。
その様子をロアクたちがすごい形相で睨みつけるも、バンキの痛みにうめく声を聞いてすぐに静かに視線を落とした。
———
シュゴオ村へバンキやロアクを連行して、川沿いを歩く。真夏の昼下がりは暑く、歩いているだけで汗ばむ。
羅刹鬼は村へ近づくのを嫌がり、アメとアメノを連れて例の峠の平屋へ戻って行った。彼女に居られても、村で暴れるのをまた止める羽目になるのは目に見えていたし、もう村人以外に害意がないのは分かっていたので特に問答することもなく二手に分かれた。
「そういやよ、姐ちゃん。多分だけど…逃げられたよな?なんで逃げなかったんだ?」
「ああ…。うーんと、逃げられたけどね。逃げると君らが標的にされるかもしれないし、かといって全滅させるのも違うし…。それに目印を付けてきてしまっただろう?君らがまもなくあそこへ来ると思えば、下手に離れて君らと入れ違いになったら…と思ってね。」
「…はあ、そうか?」
「……目印ってなンだ?」
「…へ?気づいて、なかったの?」
「蛍、いたでしょう?ここらでは生息してない…。」
「蛍!あれ目印のつもりかよ!知らねえって、ここらで生息してるとかしてないとか!」
「は、はははっ。じゃあたまたまわたしを見つけてくれたって訳かい?それは…なかなか。ぷっ、くふふふ。」
「いやいや、当てずっぽうって訳じゃねえよ?なあ、悠。」
「ええ、船で連れ去りにあったんじゃないかって思って。」
「へえ、船。それはまたどうして?」
「えっとゴウキのところに——」
「殴られに行ったンだよな。」
「違います!話を聞きに行ったら結果的にそうなっただけで…。」
「で、船がどうとか言ってたので…。」
悠たちの会話を聞いていた村の若者たちが囁き合う。
「それでバレたのか。ちっ。村を衰退させるばかりのくせにそういうのは目ざとい村長だ。」
「おい、やめとけって。バンキ様もいるんだから…。」
「喧嘩すンなー。ばあさんは帰ったけど、この悠ってやつもなかなかおっかねえンだぞ?失くすのは腕だけじゃ済まねえかもしれねえぞ。」
「人を危ないやつみたいに言うのはやめてくださいよ。——まあ死ねばいいのにとは思いますけど。」
「まあまあ、落ち着きなよ。ハル君らしくないよ。」
「けっ、化け物女め。」
ロアクが吐き捨てるように言う。
ばちっ
悠が握り拳でロアクの顔を殴りつける。握り方も殴り方もなっていないので、平手打ちのようになってしまう。
「やめなさいと言っているでしょう。——ほら、もうまもなく村に着くよ。替えの服に着替えたいんだけど、わたしの荷物は——」
カッシオが野営地にしていた、道から外れていった先の木々の生い茂った小さな丘を指し示しながら答える。
「あの小高い丘みたいになってるとこに俺らの荷物は集めてある。…でも、バンキが——」
「…触ってないですよお。わたしの役目はあんた方の監視でしたし…。」
「こいつの行動が怪しいから見張っていれば、生け贄は生きているわ、訳の分からない老木がいるわ…。挙げ句にちょっと勇気を出して助けに入れば腕は落とされるわ…。」
「ああそうかいそいつは災難だったな。——じゃあ先に行ってるぜ。村の入り口で待ってるからよ。」
カッシオはヘイランを見送ってから振り返り若者たちに釘を刺す。
「お前ら、監視が減ったからって暴れんなよ。お前らのバンキ様の腕だってちゃんと手当てしないといけないんだからな。」
「なんで暴れるんだよ。僕らは被害者でお前らが加害者だろうが。」
若者の一人がカッシオを憎々しげに睨みつける。
その様子を見た悠は拳を握りしめ、顔を赤くしていく。
カッシオは悠の赤い顔を見て、また殴りつけかねないと感じ、彼の背中を押して悠を先頭に歩かせた。
———
着替えを終えたヘイランと合流して村に着くと、何人かの村人が集まり、どこかへと行こうとしている様子だった。中心にはゴウキがいて、神妙な顔を浮かべている。
ふとゴウキが顔を上げて周りを眺め見たとき、悠たちの集団を見つけて、目を丸くする。
「お前たち…!見つかったか、ああ…女も…。」
「あんたんとこの村の連中、女性の皮剥いで売り物にしてましたよ。うちのヘイランもあわや鞄になるところでした、どう落とし前つけてくれるんですかね!」
「…金を渡す。50クンならすぐに渡せる。それで許してくれ…。」
「は!?村長!なんで!!こいつらに僕ら襲われたんですよ!?」
「バンキ様は腕だって…!」
「やかましい!!わしの言うことを聞かんか!!なんでお前らはっ……!」
「金の問題じゃあないでしょう!!」
「こいつらは人を殺してそれを…!ヘイランだって!!」
「分かっている。然るべき罰を与える。手間をかけた……。」
ゴウキは怒り半分、悲しみ半分といった表情を浮かべる。彼の内心など到底推し量れそうも無かった。
「ハル君、わたしたちはこの村の人間じゃない。ここまでだよ。行こう、わたしたちの配達を待つ人がいるんだから。」
ヘイランは踵を返し、その場から離れるよう悠たちにも促す。
悠は、ゴウキに引き渡され安堵と少しの恐れを抱いたまるで子どものような表情を浮かべる若者たちの顔に憎悪を抱く。
「でも!あいつら死刑になるべきでしょう?村の仲間だからって手心を加えるかも!それにゴウキがあの商売に関わっていない保証だって!!また、誰か同じ目に遭うかも知れない!!」
——唾棄すべきあいつらの最期を見届けずにさよなら?ありえへん!!
「”かも”しれないね。でも、それでもわたしたちは村の人間ではないんだ。外から勝手をしてはいけない。」
「悠、そうはいうけどよ、あんな事件があったンだ。これからは起きないようにあらためるだろうよ。それに羅刹鬼のばあさんが見てるさ。きっと悪いようにはならねえよ。」
「僕は少数派ってわけですか…。はぁ、わかりましたよ。……。」
——これから先、もしこいつらクズ連中に誰かが殺されるなんてことになれば……。
——自分にできる最善はまだ何かあるんじゃないか?わからへん…。わかるはずがない…。
「行くぞ悠。」
悠は歩き出した二人の背中を追う。あまりの後味の悪さに一度振り返る。
振り返ったそこにあったのは、村人たちによる人でないものを見るような排他の視線だけだった。まるでお前は間違っているのだと突きつけられているようで、あまりの居心地の悪さに二度と振り返ることはしなかった。
【ちょっとお知らせ】
悪役令嬢もののストックがある程度できましたので、投稿を開始いたします。
そちらもどうぞよろしくお願いします。
悪役令嬢ものと本作は交互に二日おきで更新とします。
別作品の紹介です。
・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み
・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(7/20深夜 投稿開始)




