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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第三章 「閉ざされた村で」
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第十八話 「正しさ」

第十九話の投稿は7/17(金)の深夜に行います。

よろしくお願いします。

「どうすれば二人を助けられるか」

 悠の頭の中では、それがぐるぐると渦巻いていた。


——羅刹鬼が自害させられるのは違う。でも、それではアメノが殺されるかもしれない。


——なんとか助ける?何を、どうやって?バンキに組みつけばなんとかできるか?あの手に少し力を入れられるだけで終わるのに?


——羅刹鬼には悪いけど死んでもらう、か?自害するのを待つか、僕が……。いやあかん。それはあかん。死んでもらうとか殺すとか、なんでこっちがしんどい目に合わなあかんねん。


——バンキを殺す。それも一瞬のうちに。できる、か?


——羅刹鬼は力はあっても、包丁さばき見てる感じノーコンや。一瞬は無理か?


「…ゔっ…うぅん。」

 バンキの手の中でアメノが目を覚ます。

「ああ、気持ち悪い。ぐらぐら揺らしやがって…。それに臭いんだよ、お前。」


「アメノ!良かっ…くはないですが、目を覚まして良かった!」


「あ、そうだった…。ごめんよお。なんかご飯食べてたらこいつ急に出てきてさ、逃げようとしたんだけど、飛べないし、力も出ないしで…。アメの足じゃすぐに追いつかれちゃって…。」


 アメはアメノの言葉に続けて何かを口にしようとするが、バンキの声に遮られた。

「うるさいですよぉ。早く自害しないと、お仲間がせっかく目を覚ましましたのに、二度と覚めない眠りにつくことになりますよお!」


「いだだっ!触ん…な、バカ!…お前なんか…そうだ!カッシオがぼこぼこにするんだからな!」


「はぁ?…そういえば、あの小汚い男がいませんね。…どこです!!早く出てきなさい!!」


「あいつ、あんなだけど元傭兵だぞ!お前なんか瞬殺だぞ!」

 アメノがハッタリをバンキにしかける。


 アメノのハッタリはただバンキに嫌がらせをしたいだけに違いない。違いないが今は都合が良い。


 悠は大きく息を吸い込み、羅刹鬼にも確実に届くように人生で出した声の中で一番大きな声を叫ぶ。

「そうだ!——今だ、行け、カッシオ!!」


 悠の言葉を聞いたバンキは後ろを振り返り、アメノに向けていた集中が途切れる。


「油断したな!死に晒せっ!この下衆野郎ぉお!」

 羅刹鬼は包丁をバンキに目掛けて下から袈裟懸けに振りあげる。


 今度はしっかり的を捉えた。バンキの肘から先が切断された。腕は血飛沫を撒き散らしながら、宙空を舞う。アメノは拳の中だったので一緒に飛んでいってしまう。


 悠は咄嗟に走り出し、腕を身体でキャッチする。アメノは再び揺らされ、脳震盪でも起こしているのか気を失っていた。


「きぃぃいやゃぁああああ!ウデ、ウデ!わたしのウデ!なにするんだぁあ!」


「殺して!!おばあさん!!」 


「言われずとも!!」

 羅刹鬼がバンキの首に目掛けて包丁を振りかぶる。


かきぃぃぃいん……


 瞬間、銀色が羅刹鬼とバンキの間に割り入って再び外してしまう。


「な、なんだ今度は!!ばあさんノーコンすぎるやろ!!」


「やかましい!元はただの主婦だったんじゃ、何を期待しとる!!」

「ええい仕方ない、ならば!!」

 羅刹鬼の白と灰の混じった髪がうねりをあげ伸び始め——


「待った待った、そこまで!」

 洞窟から二人の影が飛び出してくる。


「待て待て待て!やめろっ!悠も止めろよ!!」


 目を向けると、そこにはヘイランとカッシオが立っていた。ヘイランはカッシオの上着だけを羽織った半裸で、服を貸した本人も上着を無くして半裸になっている。


「ヘイランさん!無事でしたか!」


 しかし、そのそばで羅刹鬼は三人の再会に毛ほども興味を持たず、毛先はバンキの首を締め上げ始めていた。

「死ねぃ!」


「ぐっくく、ぶ……!」

 口の端から泡を垂らさせ、目からは涙を流し、無くなった腕も使って必死に首に絡まった髪を解こうともがくバンキ。


「ばあさん!殺しちゃダメだ!!——悠、手伝え!」


「いやいや、死ぬべきでしょう!あんなやつ!人殺して皮剥いで、売り飛ばすような連中!皆殺しにすべきです!ばあさんやっちゃってください!!」


「な…!ぬぬ、あああ!姐ちゃんすまねえ!体辛いかもだが、手伝ってくれ!」


「うん……わかってる、そして終わったよ。」

 ヘイランの手元から銀色の光が蒸散するのが見える。羅刹鬼の髪は刻まれバンキは地面に蹲って咳をしていた。


 それを見た悠は覚えのない痛みが首に走る。冷たい糸のような何かが首を横断して消えていく。思わず首を抑え、謂れのない不調をもみ消しているとヘイランと目が合った。


「ハル君、怒りはもっともだと思うし、裁きは必要だろう。でもそれを下すのはわたしたちではないよ。」

 ヘイランは諭すような視線を悠に向ける。


チッ


「ここに至って、あの村の者を皆殺しにせん理由なぞあるまい!邪魔をするな!」


「やめ…て!お兄様たちに…ひどい、こと…しないで!」

「わたし…生け贄になった…のに!…ひどい!」


「ア…メさん!?なんで…こんな奴らを——」


「みんな、すごく良い人じゃ、ない…けど!ときどき…優しくして、くれ…るの!」

「バンキ…さまは、山で蝉とか、山菜取るの…一緒に来てくれる…し、ロアクさま…は村の外から、珍しいお菓子買ってきて、少し、分けて…くれ…るの!」

「殺さないで…!」

 アメは腰に繋がれた縄をギュッと握りしめて俯く。


「悠、やめようぜ?ほら、村でのこと思い出せよ。お前言ってたじゃないか。『死んだらそれでお終い、間違えたからやり直し』なんてできないって。だから人は悩むんだって。」


「……んな事、言いましたかね…。」


「ばあさんも、聞こえてんだろ?アメもこう言ってんだ、我慢してくれ。……今までだって我慢して、殺さないで済むようにしてたんだろ?」


「……ふんっ!もじゃ頭の若造が!」

 羅刹鬼は不服そうにそう言いながらも、バンキから離れ彼らから視線を外した。煮えたぎる臓腑を落ち着かせるのにまだまだ時間がかかる様子だ。


「彼らは村に連れて行く。ゴウキの裁きに任せよう。必要ならシウォク領領主に伝えると言えばいい、わかったね?」

 ヘイランが静かにこの場の終焉を告げた。


 そこにいる誰もが、”誰もが”間違ったことをしているとは思っていなかった。

 だからこそ残ったのは、自分自身の正しさを証明したいのに押しつぶされできた、澱んだ沈黙だけだった。

【ちょっとお知らせ】

次話から更新頻度を落とさせていただきます。

本作の連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。

もう少し悪役令嬢もののストックができ次第に、悪役令嬢ものと本作を交互に二日おきで更新としようかと考えています。


別作品の紹介です。

・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み

・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)

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