第十六話 「山の中の若者たち」
第十七話は7/11(土)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
日が沈み月が昇り始めた頃、悠とカッシオ、羅刹鬼は川から少し離れた、木の生えていない広場のような場所で火を焚いて腰を落ち着けていた。
羅刹鬼によれば、昔は宿屋か何かがあったらしい。よくよく見れば建物の残骸らしき、石で組まれた何かが土から顔を覗かせている。
羅刹鬼は「〜さんのとこの〜という息子が相続して宿をやっていたが、博打をして潰した」とか、なんとかずっと教えてくれた。相当昔のことらしい上に、誰一人として顔も知らないので、二人とも苦笑いをしながら「へえ」とか「ふうん」と相槌を打っていた。
途中から悠は「ぶへえ」とか「ぐええ」とか、どこまで変な合槌でもバレないか試していると、カッシオが吹き出してしまい、それに気づいた羅刹鬼は怒ってしまった。
「最近の若者ときたら!全く年寄りを敬う気持ちが足りておらん!」
「その年寄りに殺されかけてもいるし、敬うのは難しいでしょう。」
「なんか、言うたか!?前も言うたが、聞こえんでも多少はお前らの言いたいことぐらいはわかるぞ。お前らは特にわかりやすいしのお!」
「その、年寄りに殺されかけてますので、敬うなんてできるわけないです。」
悠はまるで謝っているかのように顔を作り、頭まで下げる。
その悠の素ぶりを見て、羅刹鬼は謝っていると思ったらしい。
「ふんっ、わかればええんじゃ、わかれば!」
カッシオは変に大胆で気の強い悠の態度にまた笑いそうになるが、今回は我慢できていた。
その後、持ってきた保存食を適当にしがみ三人は交代で眠りについた。流石に一度襲って来た相手を前にまだ無防備に寝る気にはなれなかったからだ。
———
翌朝。日が昇る少し前、村で見た黄色い光を、川沿いをしばらく行った先に見つけた。この辺りは水が綺麗らしい。
現代日本ではなかなか見られないその光に眩しげに悠が目を細めていると、カッシオがしきり首を傾げていた。
「なんです、首でも痛めました?」
「いや、蛍って夜明け前でもあンなに飛んでたかなって…」
「夜に活動する虫なんですから、日が昇る前なら飛んでんじゃないですか?」
「まあ、そうか…。」
「蛍、蛍か、懐かしいのお。そういえば昔、若い男女が逢引に使っておった洞窟があったのお。邪魔をして申し訳なかった。」
「へえ、洞窟…。それは!この近くなんですか!?」
「ああ近くじゃ。そこも行ってみるか?すぐそばまで行かんとあるのも気づかんから、お前さんらの連れはおらんかもしれんぞ?」
それでもと、悠とカッシオが頷く。それを確認した羅刹鬼は「では早速」と洞窟への案内に立ち上がる。
まだ空は暗いが歩けるくらいには明るかったので二人は黙って着いて行くことにした。
「あ…。」
悠は羅刹鬼の歩いていく背中を見て、ふと思い出す。
「あン?」
「あいえ、なんでも…。」
——シュゴオ村に行く道中で、バンキがどっかに入ったら危ない場所があるとか言うてなかったか?
——ま、それがその洞窟とは限らんか…。
悠は不確かな記憶を頭の隅に追いやる。優先事項を見失ってはいけないと戒めるように。
そうして三人が歩いて行く遥か後方には、それをじっとりと見つめる者がいた。
———
洞窟は木々の根元に埋もれるようにしてあった。まるで地面の間隙を縫うようにして穴が開いていた。羅刹鬼が一目見ただけでは気付きにくいと言ったのがよくわかる。穴があると知り覗き込まなければ、少し変な地形くらいにしか見えない。
「ふうん、これが言っていた洞窟ですか。実際見て思うんですが、こんなところわざわざ入るわけなくないです?」
「第一、酸素欠乏…こん中空気あるんですかね?」
「いや……当たりかもしンねえぞ、悠。」
カッシオが真剣な顔をして、口元を手で押さえる。
「まわり見てみろ。ほらこれとかわかりやすいだろ、靴の跡だ。」
指で指し示す先には、踏み倒された雑草に土がついている、ように見えなくもない。
「ただ、一人じゃねえ。靴の跡の上に靴の跡がついてる…。」
「それ、まずいんじゃあないです?ヘイランさんはやっぱり誰かに捕まったってことじゃ…!」
「どうする?のこのこ入れば俺らも襲われるかも…。」
「い、一旦離れましょう。ヘイランさんをどうにかできる連中と鉢合わせたくないです。」
「それもそうだな。」
カッシオが首肯し、羅刹鬼はそれを見て同じように小さく頷いた。
洞窟から離れて、川からの道中にあった生い茂る藪の中に三人は身を落ち着けた。得体の知れない虫やダニも怖いが贅沢は言えない。
「洞窟の中の攻略、ですか…。何をどうすれば良いんでしょう。敵だけなら煙で燻すとかでも良いんでしょうが…。」
「姐ちゃんが中にいるかも知れねえからな。穏便に金目のものとか渡して返してくれねえか頼むとか?」
「向こうに素直に返すメリットがないでしょうよ。美人捕まえたら、仲間の男が金銭持って現れて…女も金も手に入ってラッキーくらいにしか思わないでしょう。」
「漫画とかなら、相手を混乱させて誘き出したそばから皆殺し!とかしてましたけど…。」
「相手がとち狂って優先順位誤ればヘイランさんが殺されて、逃げるついでに僕らに襲いかかって、『殺せればよし!』くらいにしかならないかも。」
「…まず敵かどうかを確かめて、ヘイランさんがいるかを確かめる。そうですよ、まだ、なんか洞窟に住んでる人か妖かなんかかもしれないですしね…。」
「しばらく、見張ってみましょう。何か動きがあるかも。」
「じゃ、場所を少し変えて洞窟見張るか。」
カッシオが羅刹鬼に向けて、再度の移動を言葉にする。
羅刹鬼は少し疲れたような表情を見せ、ため息をついた。妖である彼女は見た目通りの老婆ではないはずだが、それでも疲れたように見えた。
カッシオが歩き始めた羅刹鬼の曲がった背中をなんとなく支えるように手を添えるが、鬱陶しそうにその手を払われていた。
———
洞窟の入り口が見える位置、山と川、どちらから向かっても動線上になさそうな位置に藪を見つけ、三人は身を潜めていた。
しばらく見張っていると何人かの男の出入りを確認できた。五人程度の人間が水を汲みに出たり、荷物を持って川の方へ歩いていく。友人同士なのか、和気あいあいと話しながら。
背中に背負った大きな袋がなければ、キャンプにきた大学生か何かのように見える。
「一人だけになったら——」
悠がカッシオと羅刹鬼に顔を向けて囁く。
「おン。一人、な。」
カッシオは羅刹鬼にも伝わるように繰り返す。
またしばらく待ち、昼を過ぎたころ彼らが何をしているのかがわかった。
全身に革のつなぎを纏う仮面の男が、何本かの長い木の角材を持ち出してきた。使用感のあるそれは、茶色が濃く光沢がある。
「誰か一人くらい手伝えよ——」
男はぶつぶつと一人で文句を言いながら、長い角材を組み立てる。三十分ほどかけて、組み上げたそれは木枠だった。
そうして木枠を組み上げた後、木陰に立てかけ大きくため息をつく。
「今度はあれ取りに行かないと——」
何かを取りに戻ったらしい男はしばらくの後に、何枚も折り重なった白い、白い革を持ち出してきた。それを何度も往復して外に持ち出してきた。
なぜかと言われても困ってしまうが、悪い想像が悠の脳裏に過った。
前話に掲載したものと同じです。
読んでくださった方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!
【ちょっとお知らせ】
最近は本編も書きつつ、こそこそと別作品も執筆中です。
本作のプロットはあるのですが、ストックが尽きつつあるので、更新頻度を落とす予定です。
連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。
別作品の紹介です。
悪役令嬢ものに挑戦します。
ストックが出来次第、そちらの投稿も開始しますので、お楽しみにしていただければ幸いです。
・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み
・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)




