第十五話 「手がかりを辿って」
第十六話は7/9(木)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
悠は殴られて流した鼻血の痕のパリパリを右手で擦り落とす。
悠は鼻の奥に感じる血の匂いの不快感に耐えながら、汚い木の檻の中から目の前に立つ頭頂部の禿げた老爺を睨みつけていた。
「クソガキがッ…!橋を渡るなとは言われなかったか?」
「俺をあんまり怒らせるなよ?女はどこかへ消えたがな、金はやった。1シュにしてやろうかと思ったが、1クンと少し包んでやった。それに荷物は無事に返した。」
「何の文句があると言うんだッ!」
「あの女だって勝手にいなくなったんだッ!」
ゴウキが顔を赤くして、唾を飛ばす。
話にならないゴウキの態度に悠も声が大きくなる。
「文句を言いにきたわけやない!!」
「話し聞けや!俺は『お前なんか知ってるんじゃないんか』って聞きたいだけや!」
ゴウキは目をぎょろぎょろと動かしながら、悠の言葉に対して返答にならない返答をする。視線が合うことはない。
「女が消えたのだって、勝手に…逃げたんだろうがッ!無事に返したのとなんら変わりはない、合流しなかったのはお前らの関係性の問題だろう!」
「言い訳なんかしていらんねん!!」
「おい!!このうるさいガキをどっかへやれ!!ここにいられると目障りだ!!」
ゴウキは後ろに控えている部下か、家の手伝いの者を呼びつけるようにして悠の解放を命じる。
「ちっ…まだ船は帰って——」
そうして、舌打ちとともに小さな呟きだけを残して、その場を足早に去った。
それを見送った後、悠は自分を殴りつけた男に檻から引きずり出されて、橋まで連れて行かれた。
橋まで行く道中、悠はあまりに乱暴に引きずられるので仕返しをした。ルールを破ったのは悠だが、殴ってきた相手を少しでも嫌な目に遭わせてやりたい。引きずられてバランスを崩したフリをして、前を歩く男の足に自分の足を引っ掛けて転ばせてやった。
転んだ男は憎々しげな目で、悠を見やり一度だけ腹を殴りつけた。殴られたところが鳩尾で、えずいてしまったが気分は爽快だった。
———
「そんで、ボコられて涙目で帰ってきたんだ。バカじゃねえの、お前。」
「まあ、何もやり返さないで帰ってきたら僕がボコボコにしてたけどな!」
アメノは憎まれ口を叩くが、内心は大嫌いな村人の一人に仕返しをした悠を誇らしく思っているのか、にこにこ笑っている。
「はあ〜……。短絡的でしたぁ…。アメノと同レベなんて…。」
「話はできませんでしたけど、ひとつ気になることがありました。——カッシオにも聞いてもらいたいんですが…。」
悠がカッシオの名前を口にした時、慌てた彼が野営地に飛び込むように駆け戻ってくる。
「おい、悠が橋で喧嘩して——」
「あ、お前!!なにやってンだ!!怪我して…ンな、バカ!」
「そうバカバカみんなで言わないでくださいよ。話はできませんでしたけど!一応得たものもありました!」
「けが…の、こと?」
アメは悠の怪我を見て、少し怯えたような顔をしながら、アメノの後ろに隠れて悠を挑発する。アメノのせいで悪い影響を受け始めている。
「若い男ってのはバカなもんじゃろ。村の連中に比べれば気持ちのいい子じゃ。」
「ばあさんは黙っててくれ。」
「で、なにがわかったって?」
「えっと…すぅ、はぁ。えっと、まずゴウキはやっぱりヘイラン失踪の件に心当たりがあるみたいです。隠したいってことは、——断定は早いでしょうが、村の誰かしらが関わってるのか…なんかでしょう。んで、最後に船がなんとかとも言ってもいました。」
「船ぇ?ンなもんあったか?この村に。」
「あっはい。あいや実物は見てないんですが、船着場みたいなんが、ほら、あそこに…。」
悠が村の中心を流れる川の一部を指で指し示す。
カッシオが手で庇を作り、目を細めて眺め見る。
「はぁン……。確かにあるみたいだな。」
「僕とのやりとりの中で、なんの関係もない”船”が出てくるはずないですよね?ゴウキの中では何かしら結びつくものがあって口をついて出たはずです。」
「…まあ頭を悩ませる事柄の一つとして思い浮かんだだけかもしれませんが。」
「じゃ、船を探してみるか。川沿いを、な。とりあえず下流側に向かって探してみようぜ。」
「はい、わかりました。…ちなみになんで下流なんです?」
「川は下流に向かって流れるからな。まあ上流に船で向かうこともあるだろうが、なんのために船使うんだってことだな。この村の場合なら、海…かどうかは知らンが何かを村から運び出したいからだろ。」
「はあ。なるほど…。カッシオもその辺は詳しいんですね。」
悠はカッシオの思わぬ見識の高さに感嘆の息を漏らす。
「やめてくれ、そんな感心するな。自分の仕事に関わるような事だったンだ。そりゃ知ってるさ。」
カッシオはそんな悠の様子に迷惑そうな顔を浮かべて、話を流す。
「僕らはどうすんのさ。また、待ってりゃ良い?」
アメノが退屈そうに、あくびをする。
「あー、そうだな。——ばあさんは俺らに着いてきてもらって良いか?この辺りでなんか船で向かいそうなところあれば教えて欲しいンだわ。」
「娘はどうする?村の男に捕まれば何をされるか…。」
「あぁ、それは——アメノ頼めるか?お前も怪我してるからな。別にやり合わなくって良い。ただアメを隠して守ってやってほしい。」
アメノはまた待ちぼうけには違いないのだが、役割を与えられたことで目に光が戻る。
「ふん、要はまたガキンチョのお守りか。別にいいけどさ!」
全員がお前もガキンチョだろうと内心で考えたものの、誰一人としてそれを口にはしなかった。またうるさくなるから。
「…じゃあ、とりあえず川沿いを下流に向かって探す、そんで、何かこう、人が立ち入って作業したりできそうな、船で向かいそうなところを見つけていく、で良いですね?」
「おン。それで良いぜ。ひとまず、ばあさんなんか心当たりはあるか?」
「ノヴァナイに行くのに使っていた山道沿いにちらほらと茶屋と宿屋がある場所はあったがな、それがあったのは、三十年、いや五十年経つのかの?もう何も残っておらん気がするが…。」
「まあ、良いじゃねえか、アテがないよりよ。」
「もう、すぐ行きます?村の西側って…。」
「あぁ…探し切れてはねえけどな。気色悪い草とか木ばっかで、人が立ち入れる感じじゃなかったンだよ。妖っつーか、こだまっつーの?みたいな、連中の住み処だな。」
「ああいうところって大抵入るのは避けるんだよ。妖みたいに話せば分かるようなやつらじゃねえからな。たちの悪い害虫みてえなもんだ。さすがにあそこは姐ちゃんなら入ることはねえだろ。」
「わざわざそんな山の麓に住んでるんですね…村の連中。」
「じゃあ——」
「待て、もう行くつもりなのか?飯は食うていかんと!それに、子どもらに食わせる飯も用意だけはしていかねば。」
「あ?あーそうですね。今晩にでも見つけて戻って来られればいいですけど、最悪、何事か起こって数日帰れないとかもあり得るかもしれないですもんね。」
「昼飯には早え気もするけど…食えるときに食っといた方が、いい、か。いいな。そうしよう。」
———
昼過ぎ頃までかけて、今日明日は凌げる程度に食べる物を用意した。悠はまた村に行くのは少し気が引けたが、川の東側の商店で保存食と少しの野菜を買ってきた。
捜索に行く三人が保存食を少し貰っても、二人分には多すぎる食材の量になった。羅刹鬼がうるさく「足りぬ足りぬ」というので、用意し続けた結果だ。少ないよりは良いだろうが…。
「じゃ俺ら行くからよ。危ないことがあったらアメノ、守ってやれよ?」
「アメノも怪我人なんですからね、変に喧嘩売ったりしてやり返されたら目も当てられませんよ。」
「基本は村の人たちが近づいて来ることがあれば、隠れてください。」
「アメさんもアメノが短気なのはわかってるでしょう?だからフォロー…手助けしてあげてください。」
「ん…わかった。…気を付けて。」
アメが小さく体の前で手を振る。
「うるさいよ、早く行けよ。お前らこそ危なくなったら尻尾巻いて逃げろよ。」
アメノが顔を顰めて手を振る。
その様子に苦笑しながら悠たちは、カッシオを先頭に野営地を後にした。
夏なので日は長いが、あと数時間もすれば山に日が隠れる。なし崩し的に付き合ってくれている羅刹鬼に感謝しつつ、シュゴオ村に来る時も通った道に沿って三人は歩き出した。
前話に掲載したものと同じです。
読んでくださった方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!
【ちょっとお知らせ】
最近は本編も書きつつ、こそこそと別作品も執筆中です。
本作のプロットはあるのですが、ストックが尽きつつあるので、更新頻度を落とす予定です。
連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。
別作品の紹介です。
悪役令嬢ものに挑戦します。
ストックが出来次第、そちらの投稿も開始しますので、お楽しみにしていただければ幸いです。
・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み
・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)




