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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第三章 「閉ざされた村で」
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第十三話 「合流中」

第十四話は7/1(水)の深夜に投稿します。

よろしくお願いします!

 日が昇る。遮るものもなく飛び込んでくる日差しは、荒れた平屋の床を白く焼き付ける。


 疲れた顔のカッシオと、アメノとアメに加えて羅刹鬼は山を下りる準備をしていた。悠が持って行った包丁を羅刹鬼に返すために。


———


——昨日。

 悠が山を下りて半日が過ぎた頃、カッシオは少し疲労が溜まり始めているのを感じていた。子どもは別に嫌いではないし、遊んでやるのも悪い気はしない。アイネやテオが身近にいたから、意識せずとも子どもに注意を払うというのもできる。


 しかし、クソガキと呼ぶに相応しいアメノと引っ込み思案のくせに妙に気が強いアメの相手を一人でするのは大変だった。二人がことある毎にしょうもない喧嘩を始めるので、二人の仲裁を何度も繰り返していた。

 また、羅刹鬼は「包丁は悠が預かって行った」と説明しているのに、「なんとかいう包丁だから、早く返せ」とうるさくカッシオに詰め寄る。襲われるのに比べれば大したことはないのだが、声が大きい。ぐつぐつと低い声で叫ぶので、聞き取るのもストレスになっていた。


「あの包丁は〜と言うもんなんじゃ!早く返さんと知らんぞ!」

 羅刹鬼がカッシオの服の裾を掴み、確かめるように彼の肩を撫で回す。


「だから!包丁は悠が預かってったって!帰ってきたら返してもらえよ!ばあさんに暴れられたら手ぇつけらンねえから預かってンの!」

 カッシオは羅刹鬼がこけないように、丁寧に服を掴む指を剥がす。


 その後ろで、アメノとアメは夕食代わりになけなしの干し葡萄と、悠が置いていったビスケットを食べている。


「お!お前、これ食わねえの?もーらい!」

 アメノが干し葡萄をアメの皿から掠め取り、飛んで逃げようとするが、飛べない事を思い出してとことこと走る。


「や、やめて…!と、とったら…!舌…ぬ、ぬくから!」

 アメが容赦なく手で押さえつけるようにアメノを捕まえる。


「アメノ!人のもン盗るな!アメは…!こいつこんな元気だけど、怪我人だからもう少し優しく、な?」


「おい、もじゃすけ!あの包丁をとり返しに行くぞ!」


「うるせえ!何がそんなにまずいんだよ!ちゃんと返すって!」


「あれは子どものおもちゃじゃないんじゃ!怪我しても知らんぞ!」


「わかったって!ンじゃあ、明日!明日な、山下りよう!悠を迎えに行きゃあ良い!な?そうしよう!」

 カッシオは適当に口から出まかせのつもりで答えたが、なんだかとても名案のように思えた。


——もっと早く思いついてれば、一緒に山ぁ下りたのに。なンで思いつかなかったかね。帰りは姐ちゃんもいるしな。あの二人にぜぇんぶ任せちまえば良い!


——そうだよ。こんなに“ストレス”ってやつを溜める必要ないだろ。


——それに、ガキどもも何かする事でもありゃ、喧嘩なンかしねえだろ?


「おい、夜ももう遅えンだから、早く寝ろ。」

 カッシオは我ながら名案を思いつけたことに口の端を歪ませながら、手のかかる三人を薄汚れたござに寝かせる。


 アメノとアメは結局深夜まで寝ないで騒いでいたので、カッシオはげんなりした。



 悠はまだ辺りが暗い時間に目が覚めた。ご飯も食べずに早めに寝たからだろうか。

 暑苦しい布団を跳ね除けて寝ていたらしく、寝汗の蒸発した足先が変に冷えている。


 まずい口の中を洗い流そうと水筒を手に水場に向かう。お金を支払っておいたからか、妙に豪華な料理が食卓に用意されて湯気を立てていた。


「これは…僕が食べていいやつ?他に宿泊客なんかおるわけないし…せやんな?」

「というか、ぼられた?ちっ、説明してけよな。……ま、ええか。どうでも。」

 悠は適当に身支度を済ませて、食卓について朝食を頬張る。


 どうでも良い、栄養補給だけの食事。仲間は誰もおらず、たった一人の食事。

 思えば一人で食事をするのは、この世界に来てからは一度もなかったかもしれない。味なんてしないはずの食事なのに、妙に温かく、そして美味しい。自分自身の舌がただただ恨めしかった。


「——ふぅ。飯も食うた事やし、ひとまず荷物置かさせてもらって、山…登るか。」

 悠は食器を適当にまとめた後、立ち上がる。


 部屋に戻って、自分の背嚢と少しの荷物だけを抱えて宿を出る。丁度山のてっぺんから太陽が顔を覗かせ、暑苦しい熱気と日差しで悠の顔を照りつけていた。


———


 悠が宿を出て四、五時間経った頃。なんだかよくわからない道に迷い込んで慌てて元の道に戻ってきた時に、前方から声がした。


「あれ、悠か?上手い事会えたな。よかったよかった。」

 カッシオは悠を見つけて嬉しそうに笑う。背後にはアメとその肩に乗っているアメノ、なぜか羅刹鬼までいる。


「あれ、姐ちゃんは?一緒じゃねえのか?…まさか!怪我でもさせられたンじゃ…!!」

 どうせはずれだろうと考えているらしく、おどけるように悠に尋ねる。


 カッシオの浮かれたような顔が無性に癇に障る。

「いえ…。いや、もしかしたら、あいやわかんないですけど…。」


「ンだよ、煮え切らねえな。……え、ホントにいねえのか?」

 カッシオが眉を顰めて、深刻ぶった顔になる。


「はい…行方知れずです。…なんすか、僕が悪いってんです?えぇえぇ、小指でも切ってけじめつけりゃ良いんでしょ!!」

 カッシオの期待を裏切ってしまい、落胆するその顔に心が軋む。


 都合よく、背嚢に大ぶりの包丁が入っていたことを思い出し取り出す。近くの木に手をつき、包丁を小指にあてがってみると、なんだかひんやりとしていて濁りが晴れるような気がする。

 後ろでカッシオが悠を止めようとして叫んでいるのが聞こえる。


——何も悪ない自分を、何も知らんのに責めたことを後悔すればええねん!


ぷつっ。


 悠の指に包丁の刃先に沿って赤く血が滲む。


「あいたぁ!」

 悠は痛みに驚きの声をあげる。


 カッシオがその隙を逃さずに包丁を取り上げると、羅刹鬼の足元に滑らせるように放った。

「バカ!なにやってンだよ!!」


「ふんっ、だから言うたじゃろ。子どものおもちゃじゃないと。——良かった良かった、無事に返ってきて。」

 羅刹鬼は久方ぶりに孫に会った祖母のように顔を綻ばせ、大切に包丁を拾い上げる。


「な、なんすか!それ!手放してみりゃあなんか…なんすけど!なんかしらの放射線でも出てんじゃないですか!?」


「ほうしゃ…?なんかよくわからンけど、あの包丁になんかあンのか?」

 カッシオは突然雰囲気の変わった悠に戸惑いながら、羅刹鬼に尋ねる。


「わしのな、娘の魂が宿っとるんじゃ。これはわしの娘じゃ。無念じゃ、無念じゃといつも言うておる、可哀想に。——かかあはここにおるぞ。心配するな?」

 カッシオの疑問に答えつつも、羅刹鬼の視線は包丁に向いたままだ。


「それって…お姉ちゃん…の?」


「何年か前に喰われた…わけではねえのか?死んだって言う。」

「…てことは、形見か…。そんでこれも一種の妖力式みたいなもンか。人の頭をおかしくするタイプの。」


「たい…ぷ?」


「っと”種類”みたいな感じ、か?」


「要はアホな奴がさらにアホになる馬鹿みたいな包丁ってことだろ?」

 アメノは一連の流れを面白おかしく楽しんでいたようで、にやにやしている。


「で、姐ちゃんは結局いねえンだな?とりあえず、昨日休憩したとこ行こうぜ。少し戻るけどよ。」


———


「で、行方知らずってえと、人質になってたのを逃げ出したってことか?妙だな…。自分から行ったようなもンなのに。」


「そう、ですね。ゴウキによるとなんか僕らが出発した、朝にはいなくなってたらしいですよ。」


「はあ!?じゃあ、俺らンとこに戻ってきてくれよ姐ちゃん…。」


「そうなんですよね。戻ってきててもおかしくないんですけど…。戻れなかった…?いや、戻らなかったのか。」

「ヘイランさんは村の意向を尊重すべきって言ってました、から。」


「や、でもやっぱおかしいだろ。だってよ、荷物は置いてってたンだろ?夜にその…なんだ、用足しに出たたきにでも、誰かに捕まったンじゃないか?で、戻れなくなったとか。」


「捕まるか?あのババアがさ。どうせ大方面白半分でこの辺散策したりしてんだろ。」

「前に言ってたもん。『たまに一人でどっか行く時あるけど、何してんの』って聞いたら、『その辺ぶらぶらしてるんだよ』って。」


「…ああ、それもありそうだから嫌んなりますね。でも探さないわけにはいかないでしょう?本当に散策してんならまだしも、危ない目にあってるかもですし。」


「どこを探すとかアテはあるか?」


「いえ…全く。…でもでも、あのヘイランさんがなんかヒントもなしに消えるでしょうか?」


「なんか置き土産でも…ってか?」

「じゃあ、一回村に戻るか。」


「あ、ごめんなさい。みんなのこと殺しちゃいました。」

「えっと、ゴウキに説明するのにめんどくさかったんで、みんな羅刹鬼に殺されたことにしちゃいました。」


「あー、まあ、なンか…生還したことにすりゃ良いんじゃねえか?」

「ばあさんとアメはどうする?まあ、今更もうアメを殺すつもりなんて無いのは見りゃわかるけどよ。」


「村へは行かん。二度と足を踏み入れるか、あんな汚らわしい村っ…!」


「僕が!面倒を見ててやるよ!ありがとうございますって言え!!」


「お前は面倒かける側だろ。——どうすっか。俺は姐ちゃん探す方のが良いだろうけど、な。悠はわりと抜けてっから一人で道もねえ山ん中歩かせるのは怖いし…。」

「おい、ばあさん。俺らも殺す気はねえンだよな?大丈夫だよな?」


「村のもんでは無いんじゃろ?無駄な殺生はせんよ。」


「ンじゃあよ、悠についてってやってくれねえか?聞いてたと思うけど、俺らの仲間が一人消えちまったンだよ。探してやンねえと。」

「で、アメノとアメもそっちに着いてってくれ。俺が山ん中を虱潰しに探すから、そっちは近場をのんびり探しててくれよ。」


「わしは村の近くは行かんぞ。皆殺しにしてやりたくなるからな。」


「じゃ、適当にやっててくれ。悠も無理すンな。姐ちゃん見つかり次第にさっさと出れるように準備しててくれ。」

 カッシオが立ち上がって、ため息混じりに深く息を吐く。


「あ、ご飯だけ食べてからにしましょう。もう昼じゃないですか。カッシオも無理は禁物ですよ。」


 悠が背嚢から、宿から持ち出した朝食の残りを全員で分けて食べた。冷えた食事だったが、アメノもアメも美味しそうに食べていて、悠は荒れた心が安らぐのを感じた。


——あかん、まだヘイランさんは見つかってないんや。気ぃ引き締めんと。

前話に掲載したものと同じです。

読んでくださった方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!

【ちょっとお知らせ】

最近は本編も書きつつ、こそこそと別作品も執筆中です。

本作のプロットはあるのですが、ストックが尽きつつあるので、更新頻度を落とす予定です。

連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。


別作品の紹介です。

悪役令嬢ものに挑戦します。

ストックが出来次第、そちらの投稿も開始しますので、お楽しみにしていただければ幸いです。

また、なろうの夏のホラー企画に向けてホラー短編を書きました。


・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話(7/2〜7/6毎日投稿)

・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)

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