第十二話 「失くしたもの」
第十三話は6/29(月)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
悠は下山を始めた時の目論見通りに、村人たちが昼食を済ませて各々が仕事場に戻っていく頃に、村にたどり着いた。自分たちに与えられた宿にひとまず戻ると、ちょうど管理人の男が戻ってくるのが見えた。
「あの、戻ってきました。村長さんに…ゴウキさんにヘイランさ…ヘイランを返してくれと伝えてくれませんか?」
悠が男に声をかけるが、聞こえているのかいないのかも定かではない様子だった。
しかし、戻ってきた足でそのまま宿からどこかへ出て行ったので、おそらくはゴウキに伝えに行ったのだろう。
——待っときゃええんかな?ちゃんと言うたし、宿でぼーっとしとくか。
——いや……あかん。なんや難癖つけられたぁ、かなわんしな。川沿いにでも座っといたったらええか。
しばらく川辺でぼんやりした後、誰も来ないので橋に向かい、怒られなさそうな橋の端に当たる位置で川を眺める。
川は温泉が沸いているからか、草木はあまり生えておらず、岩ばかりだ。なんとなく北の方に目を向けると船着場が見える。ただ、今はそこに船は無い。
——船で移動して海まで行くんやろうか。そもそも川はどこへつながって——
「本当に戻ってきたのか…?荷物を置いて逃げたのかと思っていたが…。配達を終えたそうだが、お前一人か?」
ふと顔を上げると背の高い禿頭が一人と、さっきの管理人の男が立っている。
「あ、ゴウキさん。ええ、終わりました。あの子はきちんと生け贄んなりましたよ。そんなことよりヘイランと荷物を返してください。」
「はあ?本当だろうな?…あんなにごちゃごちゃと文句を言っていたのに、えらくあっさりしたもんだな。」
「まあいい、届けたことを証明しろ。でなければ返さん。」
「…ちっ、はあ。いない二人は死にました。羅刹鬼のばあさんに殺されてね。淡々とした感じなのは気持ちの整理がつかないからですよ。とりあえずヘイランと荷物を取り返しに行くかって感じですね。証明ってことですけど、なあんも証明できるもんがありませんね。勘弁しちゃあもらえませんか?」
「……。まぁ良いだろう。信じてやる。荷物は後で宿に持って行かせる。それと金だ。それを持って失せろ。」
ゴウキには悠の疲れただけの顔と目が、仲間を失った悲しみを受け止め切れない人間に見えたらしい。そして、金の入った少し重そうな袋を足元へ放り、橋の向こうへと踵を返す。
「へえ?ちょっ…!ヘイランさんは!?返してくれるんですよね!?」
「ちっ!知らんな、初日の夜が明けた頃には消えてたぞ。見捨てられたんじゃないか。役に立たん奴らだと。……お前らの元に向かっておらんのか…。」
「人質取っといて…!その管理責任っつーのもアレですが『いなくなりましたあ!』って通用せんやろ!!」
「知らん、失せろ!!」
ゴウキは足早に橋を渡っていく。
悠が追い縋ろうとするが、管理人の男に邪魔をされてしまう。非力な悠にはどうすることもできなかった。
「僕はッ…どないしたら——」
———
夕刻を迎え太陽が水平線に沈もうという頃、谷に挟まれた村は一足先に夜になっていた。
悠はこの先の行動を決めかねて、宿で荷物のようにまとまらない頭を動かそうとしていた。ヘイランはいない。返してもらった荷物は一人では運べない。
——一人で持てる分持って山登るか…?それから素知らぬ顔でカッシオ連れて戻って、そんで…。
——いや、ヘイランさん探さんと!あの人は、変な人やけど無責任に消えてまう人やない。なんか困ってるかもしれんし、はよ見つけたらんとまずいかも…!
悠が頭を抱えて、ただ徒に時間を溶かしていると管理人の男が部屋にいる悠の元に来る。男は悠と外を交互に指差す。
「…あ、出ないとまずい、ですよね?」
「あの荷物!荷物だけ置いとかさせてもらえません?ほら一人やし、一気に持って行けないです!」
男は首を振り、何度も出て行くようにと悠を促す。
「それ、やったら、お金!お金払いますから!それやったらいいでしょう!?」
男が目を細め、手を差し出す。悠はそれを見て、了承が得られたらしいと思い、今日受け取ったお金が入った小袋を持ち出す。
「あ、あっと…!いくら、ですか?僕、お金の単位とかよくわからなくって…!」
男はわずらわしそうな顔を浮かべて、袋を丸ごと悠からひったくると、必要な分だけ抜き取って悠に突き返す。
「あ、ありごとう、ござ——」
戸惑いや不安を隠せなくなっている悠を尻目に男は何も言わないで部屋を出て行った。
——か、感じわるぅ。…しばいたろか。いや、この村の人にしては良い人か。喋らんだけで。もしかしたら喋られへんのかもやしな。
——今晩はちゃんと寝て、明日に、しよ。”手遅れ”とか考えてまうけど、ちゃんと寝るんが先やろ。
——そういや、若い女の人もやけど、今日若い男もあんまおらんかったような…。
——今更やけど、あのえらっそうな村長が自分で僕ら相手にすんのもなんか…。
「関係あらへん!寝るで、僕は!寝る寝る寝る!」
悠は大きめの一人言を叫ぶように口にしながら、水をたっぷり含ませた手拭いで体を拭いて、頭も流して布団に寝転がった。寝転がってから夕食を取っていなかったことに気付いたが、今更起き上がるのも面倒だったのでそのまま眠りについた。
夜、夢を見た。誰かに手を握られている夢だった。最初は男性か女性かもわからなかった。次第にはっきりしてきて、その人はヘイランの顔をしていた。彼女は心配そうな顔を、あるいは悲しげな顔を浮かべていた。ヘイランのそんな顔は見たことがないはずなのに、胸が締め付けられる。
気がつくと、顔はカッシオに変わっていて、頭の上にはアメノが乗っている。涙を流して、垂れた鼻水を服で拭っていた。「汚いなぁ」と声を出したつもりだが出なかった。
最後に、両親の顔に変わった。父親にはもう何年も会っていないが、相変わらずぴっちりしたスーツで、高そうなネクタイを締めている。母親の顔は、わからない。祖母の顔に似ていたはず——
【ちょっとお知らせ】
最近は本編も書きつつ、こそこそと別作品も執筆中です。
本作のプロットはあるのですが、ストックが尽きつつあるので、更新頻度を落とす予定です。
連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。
別作品の紹介です。
悪役令嬢ものに挑戦します。
ストックが出来次第、そちらの投稿も開始しますので、お楽しみにしていただければ幸いです。
また、なろうの夏のホラー企画に向けてホラー短編を書きました。
・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話(7/2〜7/6毎日投稿)
・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)




