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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第三章 「閉ざされた村で」
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第十一話 「終わりはまだ来ない」

第十二話は6/27(土)の深夜に投稿します。

よろしくお願いします。

 朝は思っていたよりも早く訪れた。朝の支度をするカッシオが鳴らす、かちゃかちゃという音で目が覚める。カッシオを適当な時間に起こして代わりに眠りについたが、寝たというより一瞬だけ意識を飛ばしていただけのような感じがする。


「あぁ、もう朝ですか…。なんか余計に疲れた気がしますね。」


「…そりゃあ、仕方ねえよ。ま、さっきのアメノの騒ぎようを知らずに済んだんだから、俺よりマシだと思うぜ。」


「何かあったん——」


「何かもクソもないよ、目ぇ覚めたらババアが僕の顔覗き込んで頭なでてんだぜ?昨日殺そうとしてきたやつが!!」

「お前ら頭おかしいんじゃねえの?殺し合いした相手と同じ部屋で縛りもしないで寝てるなんて!!」

 布切れで簀巻きにされたアメノが、寝起きには響く声で騒ぐ。一応は治療のつもりだ。血は出てないが、下手に飛ぼうとして、机や人の肩から落ちるとまずい。


「アメノ…うるさい。」

 アメがじとりとした視線をアメノに向ける。アメ自身はほとんどの騒ぎの間、気絶していた上、羅刹鬼自身とは今朝が初対面なので思うところも何もないらしい。


「まあまあ、アメノは結構頑張ってたんですよ?羽根だって…。」


「それは…ごめん、ね?」

 アメが簀巻きになったアメノの背中あたりを見て、辛そうな顔をする。羽根があればあんなみじめな格好にはなっていない。


「ふんっ、お前のためじゃないよ。僕がむかつくからやったんだ!」

「それに羽根なんかそのうち生えるから、むしろ取れてた方がよかったのに!」


「…うわぁ、妖の間じゃもいで治すの普通なんですか?」

「まあ、聞いたかどうかわかんないですけど、僕がヘイランさん迎えに行ってくるんで、治せるかだけ聞いてからにしましょ?もぐの。」


「——そういや、アメさんにはもう話した…んですか?」

 悠は背嚢から手拭いを取り出し、それを水で濡らして顔を拭いながら、アメをちらりと見てからカッシオを見る。


「おン、死ななくていいらしいぞって。」

 カッシオは顔を上げることなく、それだけを口にする。


「お役目は…果たせた、みたい?良かった…!」

 アメは朝だからなのか、考えるのが苦手だからなのか、ぽやっとした顔で微笑む。


——ちゃんと話したんやろか?まさか、死なんでいいとかだけちゃうやろな……。ま、ええか、ざっくり言えばそんだけやし。


「羅刹鬼のばあさんはどこ行ったんです?」


「水汲みに行ってくれたよ。ばあさんなのに大丈夫かって聞いたけど、”ババアである前に妖じゃぞ”だってよ。」

「そういや包丁がねえって言ってたけど、知ってるか?なんか、一応大切なもンらしい。」


「あ…。怖かったんで、僕が「せめては」と思って外に出しちゃいました。」


「……あぁ、そンなら後で返してやれよ。…いや預かってた方が良いのか?ばあさんには悪いけど、危ねえもンな。」


「じゃ後でことわっといてください。僕が預かって行きます。」

 悠は立ち上がり、伸びをする。


「ん、もう出るのか?まあ今となっちゃ向こうのほうが危ねえかもだしな。」

「茶ぁしかねえけど、飲んでけよ。ほい。」

 カッシオが自前の茶器で淹れたお茶を悠に差し出す。


 お茶は湯気がたっていて熱かったが、飲めないほどではなかった。

「あざます。——ん、じゃ行ってきますね。」


 外は既にかなり明るく、気温はまだ高くないが日差しがじりじりと悠の肌を焼く。

 平屋の外の瓦礫の山に置いた包丁は目の見えない老人には見つけられなかったらしい。昨日の晩に適当に置いた場所にそのままあった。一夜明けて日の下で見ると錆びかと思われたそれは、赤茶色の模様だった。まるで地獄の業火のように見える。


——妖刀ってやつになるんかな?いや、妖包丁か。


——見た目アレやけど、ちょっとテンション上がるな。


 少しだけ布切れで包丁の刃を拭い、丁寧に包んだ後、背嚢にしまう。

 そして一人、昨日登ってきた道を下っていく。歩きやすい道であることもあり、村には昼過ぎくらいには着けるかもしれないなどと考えながら——。



 ヘイランは悠たち三人に加えて少女一人と別れた後、バンキに連れられて橋を渡り村の西側に来ていた。渡ってはならないと言われた橋の向こうは、ただ村人たちの家があるのみで、一目でわかるような面白みはなかった。


 ヘイランはすぐにゴウキの元に連れて行かれるのかと思っていたが、一軒のボロ家に連れて行かれた。

 バンキに押し込まれてヘイランはそこに入る。すると、海辺で打ち上げられて腐敗した魚を想起させるわずかな臭いが鼻に残る。家には一部屋しかなく、少しの生活用品と仕事に使うらしい農具や工具が雑多に押し込まれている。

 バンキは下卑た笑みを浮かべながら、服を脱ぐのもわずらわしいと言わんばかりに股間だけを露出させヘイランに抱きつく。


——女を犯すことしか頭にないとは、いっそ清々しいね。


 ヘイランは慣れた手つきで、バンキの襟を掴み、首を締め上げてその辺に転がす。


——こんなところには酒なんてないのだろうなあ。


——覚醒と失神を繰り返せば、良い時間を過ごしたと勘違いさせられるだろうか?


——いや、面倒だ。数日寝かしておけばそれで足りるだろうか?…いや、足りる。


 ヘイランはバンキを適当な縄で吊し上げて、覚醒して動く度に頸動脈が締まるように調整して家を出た。仮に衰弱死しようが、窒息死しようがそれまでのことだ。この村への影響など特にないだろう。


 ボロ家を出た後、ヘイランは一番豪奢な屋敷に適当に入ってみる。塀の内には酷い出来の木でできた檻があった。


——橋を渡ろうとした時に邪魔をした老人がいたが、こういうものを隠したかったのかな?これをまずいと感じるくらいには倫理観があるのか…。


 旅慣れたヘイランにとって、こんな馬鹿みたいな風習がある村というのは珍しいものではない。いずれ何らかの形で滅ぶのも間違いなく、どうやら妖による結末まで用意されているなんて、悠に聞けば「予定調和ですね」なんて言うに違いない。


——この村の異常性ってやつを引き出すにはどう振る舞うのが良いだろう。素直に連中に付き合ってやるのも面白くはないだろうしなぁ。


——壊さないように大切に、慈しむように。


 そんなことを考えながら木の檻の前で腕組みをして立っていると早々に見つかってしまう。

 相手は顔の整った若い男で、バンキとは違い華奢だった。生け贄の少女より少し上、成人はしていそうだ。


「女がそこで何をしている!」

「…外から来た配達人とかいう連中か?勝手にうろつくなよ。バンキさんはどうした?」


「先にこちらに行って待っていろとのことだよ。わたしはヘイランだ。君は?」


「僕はロアク…じゃなくて、なんで教えないといけないんだ!」

「ゴウキ様がお待ちだぞ、ぐずぐずするな!」

 ロアクがヘイランの組んでいた腕を掴み、乱暴に引っ張る。ヘイランは特に意識もしていなかったが、引っ張られたことに抵抗、とまではいかないものの何気なく姿勢を維持する。そうして、彼はヘイランの体幹を崩せずに足を滑らせて背中から倒れ込む。

 ヘイランはほんの少しのいたずら心を出してしまったことに「やってしまった」と思いつつも、表情を緩める。


 ロアクは自分の非力さを露呈させてしまったような状況に顔を赤くして立ち上がり、手を振り上げた。


ばちんっ!


 ロアクはヘイランに平手打ちをした。

「お前、今僕を馬鹿にしたな?しただろう、躾が必要だなあ!」

 鼻に皺を寄せて、ヘイランの顔に唾を吐きかける。


 ヘイランは生臭い匂いに顔を顰めたくなるのを我慢しながら、目に入った唾を親指で拭う。

「ふぅ…申し訳ない、謝るよ。わたしのような非力な女が君を侮辱してしまうなんて、あってはならないことだね。これはゴウキ様による裁きが必要なんじゃないか?」


「裁…き…?女も裁く、のか?」

 ロアクは何かに納得がいかないらしい様子で目を細め首を傾げる。

「…まあいい、確かにゴウキ様に躾けてもらう方が良いか。」

「それか…そうだな。冬の生け贄はお前を推薦するのもいいかもな。」

 ロアクは良いことを思いついたと黒い笑みを浮かべながら、着いてくるようにと顎でしゃくる。だが、さすがに今度は手を掴もうとはしなかった。


 案内されて行った先ではゴウキはもう就寝に入る準備をしていた。「夜伽をしろ」などと言い出すのかと思っていたが、驚いたことにゴウキは手を出そうともしなかった。

 むしろ、ゴウキはロアクが「躾が〜、生け贄が〜。」などと騒ぎ出すのを心底腹立たしそうに一喝し追い払った。そのあと、ヘイランはさらに奥の部屋に案内された。


「お前はそこにいろ。俺が良いというまで出てくるな。そうすれば無事に返してやる。」

 ゴウキは大した関心もなさそうな顔で一度だけちらりと視線を合わせた。

「——バンキは小屋か?」


「ああ、そうだね。ちょっと眠ってもらったよ。」


「ふんっ、馬鹿なやつだ。”あの男が勝手に襲って、やり返された”わけだ。頭を冷やすが良いだろう。」


「うん、そうだね。”あの男が勝手に襲った”のさ。」


「ちっ。」

 ゴウキは踵を返し、部屋を後にしようとする。


 ヘイランはその背中を呼び止めるために声をかける。

「ひとつ気になったんだけどね、生け贄を出すのが嫌なら、領主に助けを求めないのかい?わたしたちが伝えてあげようか?」

 しかし、ゴウキは何も答えず、足も止めなかった。

「無視か…。傷つくなあ。」


——しかし、わかったことがある。この村が倫理観をなくさずに村の体裁を保てているのはあの男ゴウキがいるからだ。


——村を壊したのも、維持しているのもあの男、か。


「維持…ね。本当にできているのかな?」

 ヘイランは倫理観などどこかへ忘れてきたらしい、今もボロ家で覚醒と失神を繰り返しているに違いない青年を思い浮かべながら、口の端でくすりと笑う。


「さて、わたしは——」

 ヘイランは短く息を吐き、「出るな」と言われたばかりの部屋から何気なく出て行く。まるで、その家の住人が生活するかのような自然さで扉を開けて——。

前話に掲載したものと同じです。

読んでくださった方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!

【ちょっとお知らせ】

最近は本編も書きつつ、こそこそと別作品も執筆中です。

本作のプロットはあるのですが、ストックが尽きつつあるので、更新頻度を落とす予定です。

連載は頻度が落ちても続ける予定ですので、そこはご安心ください。


別作品の紹介です。

悪役令嬢ものに挑戦します。

ストックが出来次第、そちらの投稿も開始しますので、お楽しみにしていただければ幸いです。

また、なろうの夏のホラー企画に向けてホラー短編を書きました。


・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話(7/2〜7/6毎日投稿)

・悪役令嬢もの「ハッピーエンド以外絶対に認めません!〜親友の聖女ちゃんを救うためわたくしは悪役令嬢を貫きます〜 」(執筆中)

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