第九話 「愚か者」
第十話は6/23(火)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
「『人を食べたいんじゃなくって、村を滅ぼしたいんだろ』?」
カッシオは言葉の意味もよく理解しきれないまま、悠の言葉をなぞる。
羅刹鬼は振り返り、睨みつけるような視線をカッシオに向ける。
「……何を言ってんだ?そりゃあお前、わかってもの言ってんのか?わしは言うたぞ、”関わるな”と。」
「あ?当たってンのか?そもそも人喰いじゃねえってのか?」
「じゃあ、なおのことアメのこと返してくれよ!」
「ちっ、帰れ!帰れ帰れかえれええ!!」
羅刹鬼はカッシオの言葉に対する返答は何もないまま、ただ怒りを撒き散らす。
「帰らないと殺す!関係あるかっ、シュゴオか否かなぞ!!」
怒りに同調し再び鎌首をもたげる蛇のように、羅刹鬼の髪の毛が溢れ出し逆立つ。
「ま、まずい!一旦引きましょ!」
今度こそ本当に命を取られかねないと感じた悠は気絶して転がっているアメノを拾いあげ、動かずにいるカッシオを引きずってその場を離れた。
———
悠に引きずられながら、峠を下りたところでカッシオは悠の手を振り払った。
「も、もう良いって!自分で歩くからよ!」
「ンなことより悠!大丈夫かよ、アメを置いてきて!よく分かってねえけど!喰いたいわけじゃあなかったっつっても、喰わねえと限ったわけじゃねえだろう!」
カッシオのあまりの剣幕に悠は驚いてしまう。
「そ、りゃ…!確かに、そうですがね!んじゃあ、何です?突撃してみんな仲良くおっちにますか!?」
「ンなこと言ってねえだろ!早くしねえとマジいだろって話!」
カッシオはもどかしそうにちらちらと峠を振り返る。
「……すぁせん、取り乱しました…。」
「…えっ、と、僕らは雑魚で戦えないわけですから、…ヘイランさんを先に急いで迎えに行って、なんとかしてもらう、とか…?」
「…姐ちゃんは…でも最悪アメが死ぬってなったら、仕方ないって言い出すかもしれン。」
「やっぱよ、危険覚悟でばあさんと話す方が良いンじゃないか?」
「相手に話す気がないのに、ですか?」
「…滅ぼすってのが、虐殺ってンなら、協力はできねえ…。」
「けど、俺らが巻き込まれただけの無関係な配達人ってわけじゃねえってわかってもらえば…。姐ちゃんが捕まってて…薬だってタニチェリに持ってかねえとってわかってもらえれば?」
「『敵対なんてしない、むしろ自分たちは味方だ』とでも言ってみるんですか?羅刹鬼に通じますかね…?」
「むずいか…?」
「う、う〜ん、ん?」
二人が水掛け論を繰り広げていると、悠の背嚢から寝起きの子どもの声がする。
悠が逃げるときに乱暴に背嚢に放り込んだアメノだった。
「うるっさいなあ。何騒いでんだよ。」
アメノが背嚢の口から顔を出す。
「あれ?僕…。あ!!アメは!?一緒に隠れてたのに、今どこに…。」
「お前らもしかして…!置いてきちゃったのかよ!!ぼけ!!」
アメノは悠たちが声を出す間もなく飛び上がり、峠の方角を探して、とんぼのような速さで飛び出して行った。
「あんな飛び方できたのかよ…。じゃなくて!まずい、止めねえと!」
カッシオもアメノの後を追いかけ走り出す。
悠も一拍の逡巡を置いて追いかけるが、二人に追いつくには離され過ぎていた。
だから峠を登り切り、平屋の前に着いた時にはもう既に羅刹鬼とアメノが交戦を始めていた。先ほどまであったはずの大量の髪は消えており、悠はそれが少し気になった。だが、そんなことは今はどうでもいい。
「どけ!ババア!ぶち殺すぞ!」
「ちびがわしをどうにかできるつもりか?身の程知らずめ!!」
羅刹鬼の髪がざわつく。髪が少しずつ伸び始め、また体を覆い隠す。
「あ!さっきの汚くて臭い糸は何かと思えば、お前の毛かよ!!きったねえなあ、伸びるんなら片っ端から切り刻んでやるよ!僕の力でな!!」
「禿げろ!!」
しかし、アメノの思ったように羅刹鬼の髪が切れたり抜け落ちることはない。
「あれ、これはだめか?じゃあ燃えろ!燃え尽きて、火だるまになっちゃえ!」
「アメノ!見た感じそういうのは多分無理なんで、絡まれとかなら!」
「お!ぐっちゃぐちゃに絡まれ髪の毛!!」
「……ふ…ん、ぎぎき、き。かったい!なんだこれ、土より硬い、いや重、い…?」
「ど、どういう感覚です!?」
「動きそうなのに…に、う、ご、か、ない!!」
「ならこうだ!!僕の飛ぶ速さはトンボ並みだぞ!」
アメノは自分自身に力を使う。
先ほどの飛行は力によるものらしい。加速時を見ると、まるで何かに投げられているかのようだった。
羅刹鬼の反応を上回り、アメノが平屋に侵入する。
「待ちやがれ、くそちび!!鬱陶しぃいいいい!捻りつぶす!!」
羅刹鬼が屋内に足を向ける。
悠とカッシオが慌てて、羽交締めに飛びかかるが、羅刹鬼は避けようともしない。
「そ、そうだ!殺すのをやめないと、ようじゅつを使えねえようにするぞ!」
「くだらねえ、鎌かけだ。よくはわからんが何度でもできるなら、もうやってんだろ?もうできねえってわかってんだよ!!」
羅刹鬼は二人を意にも介さず引きずって屋内に入る。
羅刹鬼の背中越しにアメノが意識のないアメを力を使って浮かべて脱出を図っているのが見えた。
「きっさまぁあああ!娘っ子を連れてくつもりかあ!!許さん!!殺す!!」
羅刹鬼の髪が勢いよく跳ね、平屋の倒壊も考えない勢いで柱に衝突する。柱は軋んで曲がり、木の柱の表面の薄い繊維層はぴしりと折れてしまう。
アメノは柱の陰にいたので直撃はせずに済んだ。だが、柱に巻き付くような形で勢いをつけた髪の束がアメノの背後の土壁を破り破片と髪がアメノを打ち付ける。
「ぎやあぁ!」
短い悲鳴を上げて小さな体のアメノは弾き飛ばされ、瓦礫とともに部屋の隅でぶつかり転がる。アメノの薄い羽根は折れてぼろぼろになっているのが見える。
「アメノ!」
悠はアメノの元に向かおうとするが、足元を埋め尽くす髪のせいで近づけない。
「アメノ!!——てめえ!やめろ!!あんなちびガキいじめるなンて、どうかしてンのか!?」
カッシオが拳を振りかざし、羅刹鬼に叩きつける。
羅刹鬼はそんな二人には目もくれず、アメノを髪の玉に封じこめ潰そうとする。
「潰れろ!ちび!」
「ぐえ、えっ…クッソババ、ア!」
「ア、メは、西に向かって飛んでいく…!誰も邪魔はでき、ない!」
アメノがアメを指差して一音ずつ逃すまいと、叫ぶ。
「ザ、マ…」
アメノは髪の玉に飲まれ、アメを指差した右手がだらりと力を失って垂れる。
アメはアメノの言葉通りにふわふわと西に向かって動き出し、壁も押しのけるように壊して進む。しかし、足は地面に擦れ、平屋を出た少し先で推進力を失い倒れるのが屋内から見えた。
「…はっ、ちびが無駄に足掻くからだっ…!」
「…全く、命までっ…賭けようとは……。」




