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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第三章 「閉ざされた村で」
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第三章 第一話 「北の地に別れを告げて」

第二話は6/7(日)の深夜に投稿します。

よろしくお願いします。

 夏の日差しが白浜を焼く午後、悠とカッシオ、アメノ、ヘイランは海をナイフでなぞったような細い道を歩いていた。周りには何もない。振り返ってみればわずかに海辺の町が見えるがそれ以外は一面の青だった。

 ヘイランから買い取ったハーネスもどきの背負子は体への密着度合いが高く、熱がこもる。おかげで、背負った配達物と背中の間が蒸れて気持ち悪い。

 海風は吹いているが、汗のべたつきに加担するだけで、涼しさは感じられなかった。


「…あちい。」

  

「…景色だけは良いんですけどね。タニチェリまでまだ結構遠そうですね、陸も見えませんし。」


「一応は見えているんだけどね。水平線をなぞるように山脈がうっすらと。」

 ヘイランが水平線を指でなぞる。


「あれ、ですか?…ああ、言われてみれば…。」


 一行の頭上にアメノが飛び上がり、手でひさしを作る。

「ん〜?よくわかんないけど。」


「満潮にはこの道は沈むんですよね…。間に合うでしょうか?」


「今の速さだと危ういかもしれないね。少し急ごうか。」


「荷物の薬を海に沈めるわけにもいかねえしな。」


「待ってる人たちがいますからね…!」


 白浜の砂と小粒の砂利が混じる、踏み込めば沈む道に体力が削られる。荷物も背負っていては走るのは少し難しかった。それでも、満潮までに渡れなければ水没するのは道だけでは済まない。

 足元の海水は透き通り、魚が泳ぐのが見える。海の中はさぞ涼しかろうと思いながら、一行は必死に足を動かした。


———


 太陽も傾き、刺すような日差しも優しさを見せ始めた頃、タニチェリがあるという陸がようやく輪郭を持って見え始めた。

 しかし、日差しは優しくとも、足元の道は容赦なく形を失い始めていた。


「あと…少し、だ…!」


 カッシオを先頭に一行はほとんど走る羽目になっていた。ヘイランは涼しい顔をしていたが、彼女を除く三人は息を切らして顔を真っ赤にしていた。


「あと少し、あと少しだよ。頑張れ、若者!」

「まあ、本当に間に合わなそうだったら荷物はわたしが預かるよ。安心して沈んでいいからね。」


「し、しずみ…ませんよ!」


——あと、何キロや?すぐそこに思えるけど、全然近づかへん!


 海水が足を濡らし始める。冷たくて気持ちいいなどと考える余裕もない。ただただ前に進める足への抵抗が増えるだけで、腹立たしい。

 目の端が黒く染まり、音が遠くなり始める。そのとき、ふっと背中が軽くなり思わず前に倒れ込んでしまう。


 天地を見失って悠がもがいていると、腕を誰かに引っ張られる。


「おい…!しっかりしろ…けほっ、荷物は姐ちゃんが持ってくれたから…な?」

 カッシオが肩に腕を回して支えてくれた。悠がカッシオに目を向けると頭の上にアメノが仰向けになって倒れているのが見える。


「げぼ、げはっ…ん、ゔぅん!に、にも…!ヘ…ラさん?」

 悠は気管に入った海水に吐き出しながら前方に顔を向ける。


「あぁ、大丈夫…!俺らは渡りきるのに集中すれば良い!」


 陸まではまだ遠いというのに、海水はあっという間に膝を濡らすばかりか太ももまで飲み込んでくる。


 先を行くヘイランは三人分の荷物を片手の平に載せて、水上を優雅に歩いていた。服には濡れた痕跡がまるでない。


「ふぁ!?な、そんなのありですか?」


「例の超能力?かなンかだろ。超人のすることなンかまともに取り合ってたらキリねえよ。」


「いやあ?これは技術だよ。君らでも鍛錬を積めばできる…と思うよ。」


「水の上を歩く技術なんてあってたまりますか!」


「ちょっと大変だけど、水に一定の周期で二種類の振動を与えるとだね——」


「いい、いい。教えてくれなくて。無理だよ、できねえよ。聞いてもわかンねえ。」


 ざばざばと海水をかき分け、陸に向かって進んでいく。少しずつ体が海水で冷やされる。太ももから腹へ、腹から胸へと海水が迫ってくる。


 疲れてさえいなければ、泳いで陸まで行くのは難しくはない。しかし、疲労が手足を蝕み、海面に浮くことも難しい。潮の流れが体を沖に引き摺り込もうとするのがわかる。


「ひ、ひい!た、助け…!」

 恐怖が悠の心を塗りつぶし、横で支えてくれるカッシオに思わずしがみつく。


「おい、やめろ!しがみつくな!落ち着けって!ちゃんと立てば、海底に足つくだろ?」

 カッシオが悠にしがみつかれて慌てる。カッシオ自身も限界がすぐそこまで来ている。


「おーい、あと少しだよー!助けはいらないよねえ!?」

 ヘイランはいつの間にか、陸に上がり岩場に腰掛けていた。


「ほら…行くぜ!イチ、ニ、イチ、ニ!」

 

 カッシオの合図に合わせて足を頑張って動かす。しばらくすると、地面からの反発を足裏に感じ始める。

 胸まで濡らしていた海水が徐々に足先に向かって引いていく。


 浜にたどり着き、倒れても構わないと確認できたとき、足は既に限界を迎えていたことを知る。力がふっと抜けて、砂に塗れるのも気にしないで二人は倒れ込んだ。アメノが転がり落ちるが、意識は戻らない。


「お疲れ様。無事に渡れたね。」


「ぶじ、じゃねえ…。」


「仕方ないねえ、今日はここで野営しようか。わたしが夕ご飯の用意をしよう。君らは寝てるといい。」


 ヘイランがその後に海を渡りながら採っていたらしい魚を焼いてくれたが、脂の焼ける匂いを疲れた体は受け付けなかった。彼女に無理やり口を開けさせられて、口に差し込まれたが、一口食べて限界だった。


「……ねえカッシオ。」


「なンだ?」


「この人と一緒だと、ろくな目に遭わない気がするんですが。」


「今さらだろ。」


——配達先はまだ遠い。

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