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第二十二話 「門出」

第二十三話は6/3(水)の深夜に投稿します。

次話で第二章は終幕となります。

今章は間話はありません。

 カッシオがいつものようにローインの扉に手をかける。しかし、今日は開く前に深呼吸をしてぐっと力を込めて押し開いた。


「こんちは!ハンドマンさん来たぜ!」


 ハンドマンはいつもと変わらない様子で受付に座っている。三人の姿を確認すると封筒を棚から持ち出してくる。


「上からの返事がその中に入っている。」

 彼にしてみれば見ただけで結果は大体わかるのだろう。いらぬ儀式だと言わんばかりにため息をつく。


「じゃあ…開けるぞ…?」


「ええ、お願いします…!」


「早くしてよ。結果はもう出てるんだろ?」

 アメノには情緒が無いらしい。


 中には契約書の写しが一番上に入っている。それと、色々な規約が書かれた書類、そして、配達人の手引きと書かれた冊子が入っている。


「…つまりどうなンだ?」


「無事契約してもらえたってことですかね?」

 なんとなくこう、「合格」とか書かれたわかりやすいものが入っていると思い込んでいたが、別に大学の入試でもなんでもないのだから、これが当たり前なのだろう。


「はあ、そうですよ。封筒を開けた連中はみんな同じ顔をするんだから、わかりやすくしてくれと何度も言ってるんだが…。」

「…これで契約となりましたので、配達人手帳をお渡しします。手帳にはあなた方の名前が記載されますので、こちらの用紙に名前を記入してください。」


 ハンドマンが唐突に敬語で話し始めたため、ぎょっとした顔で固まってしまう。


「あなた方は荷物を託す配達人で、大切な仕事仲間ですから、礼儀を持って接するのは当然でしょう。」

 

 思い出してみれば、他の配達人たちやヘイランには敬語で話していた。初めてここを訪れたときも、配達人でないとわかるまではそうだった気がする。


 ハンドマンが差し出した手帳は革の装丁がされていた。アメノの手帳は二人が渡されたものよりひとまわり以上小さい。小柄な配達人用の手帳だろう。


 ハンドマンから羽根ペンを受け取り、用紙に名前を書き上げると、その文字がすっと消えて、代わりに橙色の皮の装丁をされた手帳の端に文字が浮かび上がる。


「え、あ!もっと綺麗に書きゃよかった…。」


「あんさぁ、こんなでっかいペンじゃ上手く書けないんだけど。指で書いてもいい?」


「アメノさんは手形とかでも良いですよ。誰の手帳かが分かれば事は足りるので。」

「これで手帳をお渡しすれば手続きは終わりとなります。この手帳は換えが無いので紛失にはお気をつけください。」


「わかりました。気をつけます。」

 悠がこくこくと頷く。


 三人の了承を見届けたハンドマンが口を開く。

「さて、なんか依頼を受けていきますか?あなた方はまだ新米ですので…。今あるのは……遠出するものばかりなので、また明日に来てもらう方が良いかもしれませんね。」


「そうですね、ヘイランさんにも報告したいので、依頼は明日来て決めたいと思います。」


「お好きにどうぞ。」


 三人はハンドマンに見送られながら、ローインを後にする。時間がかかったが、これでロンダートを目指すための路銀のあてができた。肩にのしかかっていた不安が一つ消えて清々しい気持ちだった。


———


 夜までは時間があったので、宿に戻って、部屋を提供してくれているカッシオの友だちに向けて書き置きを置いておく。ひと月近くも少額で寝床を提供してくれていた。悠は朝と夜に挨拶を交わす程度の関係だったが、彼には感謝しかない。


 そして、お世話になった人たちにも手紙を書いた。トリリシャたちやレネに、それにミズタとカラにも書いた。まず、アメノとヘイランという旅仲間ができたこと、無事に配達人という仕事を見つけたこと、いよいよ本格的に南下を始めて次の町へ向かうことを書いた。


——手紙なんか書いたんいつぶりやろ?


 元の世界に戻れるかもわからないから、なおのことこの世界の故郷を大事にしたい。


 自分の気持ちを文字にするのは気恥ずかしい気持ちもあるが、いずれこの手紙を見る彼らが少しでも喜んでくれたら嬉しい。


 夕刻に手紙を出して、市場へ向かうとちょうどヘイランも現れた。


「…いい返事をもらえたようだね。」


「わかりますか?」


「みんな晴れやかないい笑顔だよ。」

 ヘイランはそう言いながら革製のベルトにケースがついたものを一人ずつ手渡す。小柄なアメノに渡したものは腕輪サイズで可愛らしい。


「これは…なンだ?」


「手帳入れだよ。」

「これからは手帳を持ち歩かないといけないからね。配達人である証明の手帳を外から見えるところに身につけておくんだよ。」


「ありがとうございます!お、おお…それっぽいですよ、カッシオ。」

「アメノのは首から下げる感じなんですね。それなら飛べるんじゃないですか?」


「ちょっと飛びにくいけど、思ったより軽いし、いいな、これ!」


 三人の様子を満足げにヘイランは眺めていた。

「喜んでもらえて良かったよ。」

「商人の彼にも君たちの新たな門出を伝えたら、何か張り切っていたよ。」

 ヘイランがニコの店の方を指さすと、ニコもこちらに気づいて手を振る。


「ニコにも言ったんですか!?」


「祝うということは大切だからね。盛大であればあるほど良い。」


 店の前まで行くと、ニコは嬉しそうに立ち上がり何やら取り出してくる。

「お三方!めでたいことがあったらしいじゃないですか!昼に会ったときに教えてくれればよかったのに!」


「いや、あンときはまだどうなるかわからんかったからよ…。」


「これ!どうぞ、わたしからの祝いの品です!大したもんではないですが、配達人であればたくさん歩くでしょう?」

 ニコは靴を贈ってくれた。見ればニコとお揃いものだった。


「ただ、流石にアメノさんに合う靴は持ち合わせがなかったんですよね…!」

 ニコが悔しそうに顔を顰める。

「そこで、アメノさんに好みの糸を何本か選んでいただいて、それで装飾品を作ってお贈りしようかと…!」


「そうしょくひん、かあ。そうだな——いらないけど、もらえるもんは貰っとくか。」

 アメノは微妙な顔をしていた。


 おしゃれ自体に興味がないのだろう。食べ物をあげるのが一番喜びそうだが…。


 アメノは目を瞑って色々な糸の中から適当に四、五本の糸を選ぶ。


「これでいいや。」


「かしこまりました!明日お渡しするんで、また来てください!」


「ニコも店仕舞いが終わったらいつものとこに来いよ。一緒に飯食おうぜ。」


 カッシオはお祝い事が好きらしく、早くもにこにこして、そわそわしている。悠もこの数年は正月くらいしか祝うということをしていなかったので、何だか浮かれてしまいそうだ。


「何食う?俺はとりあえずあのでかい肉買うぜ。」

 カッシオが指差したものは、切り分けて売るための焼いた肉の塊だった。


「うそだろ!あんなの買って食べても許されんの!?」

 アメノは興奮して飛び回っている。


 悠は串焼きの肉を何本かまとめて買った。お酒のお供の定番だが、美味いものは美味い。


 店頭に並ぶご飯はどれも美味しそうで、出来立ての湯気をあげている。香ばしい匂いや、香辛料のスパイシーな香り、肉の脂が焼ける匂いがする。


 たとえ手に持った串焼きの肉の脂が服に落ちても、今日は笑って済ませられそうだった。

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