第二十話 「歯車は軋む」
第二十一話は5/30(土)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
配達を終えて城下町に戻ったとき、太陽はすっかり沈み、町には赤紫に光る火玉灯がゆらゆらと浮かんでいた。ローインの営業所も流石に閉店時間を過ぎており、翌日もう一度集合することにして別れた。
悠たちの報酬は配達料金から支払われるため「明日また集合しよう」ということでその日は解散した。
このときになって——金額の大きさから言えば前払いは難しくても、いくらかの前金を請求した方が良かったかもしれないと気づいた。「次からの教訓にしよう」と悠は心の中で決めた。契約は大事だ。
翌朝、いつもの時間にローインに向かう。配達人が詰めかける向かいの食堂にヘイランはいた。彼女の今日の朝食はパンケーキのようなものらしい。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。君たちもどうだい、朝食はもう済ませたのかな?」
「いンや、今日もまたなンか仕事探ししたいから、とりあえずその後で適当に食うよ。」
「そう?ああ、そうか、君たちはまだ見習いと言っていたっけ。」
「喜ぶと良い。今回のわたしの配達手伝いは妖がらみだったからね。おまけにあの屋敷の評価も十分だったし、おそらく契約してもらえるんじゃないか?」
「へえ?たった一件の依頼しか——それも手伝いしかこなしてないのに、大丈夫なんですか?」
「妖が絡むと厄介だっていうのはみんな知っているからね。無事に配達して帰ってこれる人材は貴重ってことさ。」
「…さらに嬉しいことに、妖がらみの依頼がたくさん集まってくるよ!面白い体験がたくさんできるね!おまけに報酬もいいから、うはうはさ!」
「う、嬉しくないです…。夢ん中であっても死にたくないんですけど。」
「面倒ごとは避ける方がかしこいンじゃないか?」
「バカだから避けられないってことだろ?」
アメノが茶々を入れる。そして、誰も反応しない。いつものことだ。
「まあ、契約してもらえるかはまだわからンし、ひとまずは営業してくるよ。悠はどうする?」
「僕は…僕はやめておきます。正直まだ疲れてるんですよ。」
悠は少し悩んだが、悪夢に続いて昨日も遅くなり、二日続けてまともな睡眠ができなかった疲れを癒すことを優先したかった。
「おン、そうか。行ってくる。」
「じゃあ、ババァ——…ン。ヘイランと一緒にご飯食べてようぜ。」
アメノはヘイランの浮かべていた笑みが引きつるのを見て、妙な取り繕いでかわす。
「ハル君、何を食べる?なんでも頼むと良いよ。」
「僕はヘイランさんが食べているものと同じものを。」
悠は席に腰掛けながら答える。
「僕は——」
アメノの言葉は最後まで続けさせてもらえなかった。
「君は自分で頼みたまえ。奢りもなしだ。」
「そんな!途中でやめたのに!」
———
食堂で朝食が終わる頃、カッシオも戻ってきた。やはり、いつもの書類配達くらいしか受けられなかったそうだ。
ただいつもと違って、挨拶と少しの会話をするだけだった配達員たちが、二人がヘイランの依頼を受けたことを知っており、カッシオに何事も起きなかったらしい様子を喜んでくれたそうだ。
「『よく無事に帰ってきた』って、みんな言ってたな。妖がらみの依頼は基本はベテランか、それか見知った連中のとこ以外は受けないンだと。」
「配達員連中もはけたし、ハンドマンさんとこ行こうぜ。」
カッシオは悠の皿の上のトマトを摘み上げ口に放り込む。
ローインの扉を開けて入ると、ハンドマンは二人の姿を見つけて少しだけ表情が明るくなる。
「おはよう、例の配達の料金の支払いを。これが請求書だ。」
「ヘイランさん、おはようございます。確かに受け取りました。少々お待ちを。」
ハンドマンが奥の部屋に書類を持っていき、お金を入れた袋を持って戻ってくる。
「確認を。」
ハンドマンが差し出したそれをヘイランが確かめる。
「問題ないよ。——じゃ、一人10クンずつだったね。」
「ありがとうございます。お疲れ様でした。」
カッシオが財布にしまうのを見届けてから、悠はハンドマンに尋ねる。
「ハンドマンさん、ヘイランさんから今回の依頼で実績が足りるんじゃないかと聞いたんですが…。」
「ああ、そうだな。契約書類を渡すから記入してきてくれ。それと、実績についての証明書も提出してもらうからな、忘れるなよ。無いとは思うが、契約成立しないこともありえるからな。喜ぶのは早いぞ。」
三人が喜びかけているのを見て、ハンドマンが釘を刺す。
「提出から一週間前後で、答えが返ってくる。宿に契約書の控えを送ることもできるが、どうする?」
「ここで配達手帳を支給するから、そのときに一緒に渡すということでもいいぞ?」
「一緒で構いません。また、後で提出にきます。」
ハンドマンから書類を受け取り店を出た後、ヘイランとは別れた。カッシオもいつもの書類の配達に向かいアメノもそれについていった。
悠は一人宿に戻り布団に倒れ込む。
——とりあえず寝よう。前後不覚に眠り倒そう。
——書類関係はまた後回し。
そう思ったところで、この疲労感が、自分を見失いかけた感覚からくるものであることに気がついた。




