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第十八話 「逃避」

第十九話は5/26(火)の深夜に投稿します。

よろしくお願いします。

 カッシオは死に、アメノも死に、ヘイランも死んだ。仲間が全員、訳のわからない森の中で死んだ。


——誰のせいや?


「ヘイランが突然取り憑かれたみたいにおかしくなったから…」

「そう、妖かなんかに操られてたんや。ヘイランさんも。」

「何かの妖のせいや。」


——自分は悪くないって?


「そらそうやろ、何ができてん。僕に。」


——ほんまに?


「僕は悪くない。やれることはやった。」


——お前以外全員死んだのに…。自分だけ生き残っておいて…?


「違う、違うよ。僕じゃない!」


——最初っから、この依頼はやめておこうって言ってれば?


——訳ありっぽいのがわかってて、断るタイミングもいっぱいあった。


——あほみたいな顔して喜んでたのは、誰や?


「僕、や。僕が、ぼくが!」


——そう、お前が悪い。みんな死んでしもたんはお前の愚かさ加減のせいや。


——カッシオが死んだこと知ったら村のみんなはなんていうやろな。


「死んだ?カッシオが?わしの息子が…。ハルは何をしていたんだ?ぼんやり見ていた?ふざけているのか?」

「おじちゃんが死んだ?カッシオおじちゃん、なんで…。村から出なければきちんとお別れを言えたのに……。」

「カッシオが死んだの?嘘でしょう?そんな…そんなことって…。それにニルスはどうするの?お願いしたのに…。」


——アメノにも、ヘイランにも家族がおるはず…。許して、もらわれへんやろうな。死んで償えって言われるやろうな…。


——ちゃんと謝らんと。逃げたいけど…。


——そうや!この森で行方不明になったことにして、全然知らんところで記憶喪失でやり直すとか…。


——頭ぶつけたおしたら、記憶喪失にならへんかな?


 悠はふらふらと立ち上がる。木の幹に何度も頭をぶつけてみる。木のささくれが刺さって痛い。痛くて続けられないけれど、我慢する。段々とささくれが潰れて、痛くなくなる。ただ、どれだけ頭をぶつけても何となく加減してしまって、記憶喪失にはなれそうもない。


『そんな悠を見つめる目がある。』


——そうや、そもそもこんな無茶苦茶な現場おって、生き残れたんが奇跡やん。記憶喪失くらいなっててもおかしくないやろ。


——とりあえず、森から出よう。城下町戻って、何も言わんと、そう、ニコとかと行商の旅に行こう。だれも自分のこと知らんところに…。


 悠は頭をぶつけるのをやめて歩き出す。小川を離れ、森に入ってきた道の方角に、一歩ずつゆっくりと。背後の惨劇から、離れれば離れるほど罪が浄化される気がする。


——そうや、走ろう。走って走ってこの足が駄目になって切らなあかんってなれば、みんなも許してくれる。


 そうして、走り出した悠の目の前に、白く光る岩肌が見え始める。ようやく出られると安堵したのも束の間、走っても走っても、岩場に辿りつかない。


『その目が早く死ねと訴えてくる。』


——そうや、自転車を使おう。走ってるから、走るのが遅すぎるんや。


 悠は自転車に跨り、立ち漕ぎする。森の中で自転車は無理があった。木の根にがたがた引っかかって走りにくい。


——あほか、自転車なんて使っても無駄や!ぎゃははは!


——それやったら、車使ったんねん。ゴールド免許やぞ!舐めんなよ!


 ふと悠の顔に冷たい感触が降りかかる。

「冷たっ!なんや?雨か?」


 悠が目を開くと、小川の中に左半身をつけてもがいていたらしく、服がぐっしょりと濡れてしまっている。


『そこに剣が落ちているだろう?』


「かなわんなあ、太陽出てないのに。干しても乾くのに時間かかってまうやん。」


 悠は家の乾燥機に服を放り込もうと立ち上がるが、電源が入らない。プラグがコンセントから外れてしまったみたいだ。指で壁の間のコンセントを探ってみる。


——あった。これで刺せるわ。えっと?ここやろ?


 指の腹で場所を確認しながら何度もプラグを刺そうとするが刺さらない。


「ちっ、もうええわ!めんどくさい。ほっとったら乾くやろ。」


 洗濯物を適当に干したあと、今日の予定を思い起こす。今日はトールの畑に芋を植える手伝いをする。「早朝から仕事をする」と言っていたので準備しないと。着替えを引き摺り出して、着替えるとさっぱりした気分になる。


『早く首を切れ。』


「うるさい!!黙れ!!!だまれだまれだまれ!!なんで僕が!」


「ハル、芋を植える時はな?芽を上にして…、そうそう。そこにふんわりと土を置いてやるようにするんだよ。」

「なかなか上手いの、やったことあるのか?」

 トールが驚いたような顔をする。


 お世辞かもしれないけれど、褒められると嬉しい。

「小さい頃に祖母が自分の家で食べる分を育てていたので、手伝いでやってました。」


「なるほどのう。」


 畑でトールと話していると、レネがナタを持って歩いてくる。

「おーい、ハル!この前頼まれてたナタの修理、終わったから、親父が持っていけって。」


「ああ、ありがとうございます。カルロスさんにもお礼を言っておいてください。」

 レネからナタを受け取り、軽く会釈をしながら両手を胸にあげる。村の挨拶に中々慣れなくてどうしても同時に頭を下げてしまう。


「直すの簡単だったから気にすんなって。」


『早くしないと、間に合わなくなるぞ。』


「……………死んだら許してもらえる…?」


 焦点の合わない目が悠に語りかけてくる。首が話すはずなんてないのに。


『ハル君、ちゃんと首を切って死ぬんだよ。先に行くね。』

 ヘイランの最後の言葉が耳の中でこだまする。


 ヘイランの亡骸の側にあったはずの長剣はいつの間にか手に握られていた。


——これを使えば、死ねる?


 首にあてがうと、ひんやりと冷たくて気持ちがいい。


ぷつっ


 皮膚が切れて血が滲み始める。


「首を、切る。」


 刃を進めようとするがなかなか切れない。


——ああ、包丁みたいに滑らせなあかんのか。


 皮膚に沿って滑らせるとすごく切りやすい。


 首を支えていた筋肉の筋がぶつぶつ、ぶつりと切れていく。痛みもあるが爽快感を覚える。


——早く、こうすれば良かった。


 首の骨が硬くて切れないから、骨の隙間を探そうと傷口を抉る。

 痺れるような痛みに意識が遠のく。


——あとちょっと、もう少しで首切れる。失敗したくない。


 探り当てた骨の隙間に一息に力を入れて剣を滑らせると、意識が暗転した。


 ほんの少しの間だけ、血か小川の水か、ちょろちょろと流れるのが聞こえた。

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