第八話 「月明かりに照らされて」
本日は二話連続での投稿とします。
第十話は5/8(金)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
からからと音を立てる人のいない荷車は悠とカッシオ、ニコが呆然と見守っている間も、段々と迫ってくる。
一本道なのだから当然と言えば当然なのだが、こちらを目標にして迫ってくるようで、思わず三人は道の脇の草むらに飛び込み、走ってその場から離れようとする。
ふと、悠は、ニコは荷物は良かったんだろうかと思い、横を走るニコを見る。そしてニコの馬車を引く馬を振りかえって確認すると、馬は逃げ出す様子もなく、その場で草をはんでいた。
——逃げ遅れ…、いや逃げやんでも良かった?
悠の他の二人も同じようなことを考えたらしく、全力で動かしかけた足をそれぞれにもつれさせながら、立ち止まる。
三人が馬と、からからと近づいてくる荷車を交互に見ていると悠とカッシオには聞き覚えのある声がした。
「おいーッ!なんで逃げるんだよ!失礼なやつらだな!そろそろ泣くぞ!ほんとにもう!」
小さくて視認できていなかったがよくよく見ると荷車の荷台で、生意気そうな顔をした天邪鬼が小さな手をぶんぶんと振り回して怒りを表現していた。
———
悠とカッシオは数時間ぶりの再会で、もうしばらく、あるいは生涯会うことはないと思っていたのに拍子抜けした気持ちでアメノの顔を見る。
そんな三人の何とも言えない再会の空気の中、ニコは彼らしい喋り口をアメノに披露する。
「お二人のお知り合いでしたか、逃げ損ですね!」
ただ、旅慣れたニコもさすがに得体が知れないものには肝を冷やしたらしく、ほっとした顔をしている。
「なんだ、ちっちゃくて見えなかったって。ずっと手を振ってたのに!恐ろしげな顔をして逃げられたら、僕だって傷つくんだぞ!」
再会したアメノは最後に見た時と変わらずぷりぷりと怒っていた。
「いやあ、ほんとに見えなかったんですよ。妖か何かだと思っても、段々とこちらに迫って来られたら、とりあえず逃げたくなりますよ。ねえ?カッシオ。」
「うン、不気味だった。この夕暮れの時間も相まって余計に、な。」
「ふん!そんで何してんだ?お前ら。追いつくのにもうちょっとかかるつもりでいたのに。」
「追いかけて、来ちゃったんですか。いいって言ったのに…。」
悠はいじらしいアメノにほっこりして微笑む。
「あいや、違う、違うぞ!お前らがむかつくから邪魔して遊んでやろうと思ったんだ!」
「はあ、そうか。」
カッシオも少し微笑みながら、やれやれと言った様子で小さく息を吐く。
「ああもう、うるさいぞ!質問に答えろよ!」
「それには!わたしから説明しましょう!簡単に言えば、壊れてしまったわたしの馬車の修理に親切にも!手を貸してくださったのです!代わりに城下町まで直した馬車でお連れするはずだったんですが…。」
「はあーん。なるほどね、お人好しやってた訳だ。ふふん!僕の荷車に乗りたいか?乗りたいだろう!まあ、頼まれたって乗せてやることはないんだけどな!」
「結構ですよ。大人一人ならまだしも二人も乗れないでしょう。」
悠はアメノの乗ってきた荷車を目の端で見ながら言う。
「へ?あ……。お前らデカすぎるんだよ!」
「ま、まあまあ、荷物くらいは載せさせてもらえるだろ?悠、そんな顔するな。ありがとな、アメノ。」
カッシオは小さいアメノの頭を指で撫でる。
「そんなことより、アメノ。壊れたものを直したりは上手くできないと言っていましたけど、アメノの力でニコさんの馬車を壊れないように走らせるのはできませんか?なんか、こう…、いい感じに。」
「——おい、やめろ!頭を撫でるな!ハルも訳わかんないこと言うな!なんだ、壊れないようにって。」
カッシオの撫でる指を押し除けるように払いながらアメノは怒った顔のまま聞き返す。
「ああ、ええと、馬車のこの車輪の部分の金具見えます?これがもう壊れそうなんですよ——」
悠がアメノに伝わるように説明を考えながら話す。
それを引き継ぐようにしてニコが話し始める。
「そう!金具がですよ!ひしゃげてしまって、弱っちゃってるんですね!車軸、この棒が刺さってるのが良いんですが、ちょっと馬車が跳ねたりしたら、外れかねないわけです!」
「ふうん?なんかよく分かんないけど外れなきゃいいのか?じゃあ、——その車輪は外れないよ!」
アメノがニコの説明を大雑把に解釈して力を使う。
「ニコ、どうだ?」
カッシオがニコに尋ねる。
「よく、分かりません。走ってみないと…。その妖の子、アメノさんは馬車を直せるんですか?妖って不思議ですね!わたしの国の妖にあたる者たちは——」
「まあまあ、ひとまず走らせてみましょうよ。せめて城下町まで普通に走れさえすれば良いんでしょう?」
話し始めそうになるニコを悠が止める。
「そうですね!町まで行ければ、修理を頼めるでしょうから!」
ニコは放っておけばいつまでも話していそうな様子だったので、悠とカッシオに促されて、馬車に乗せられる。
ニコは最初は慎重に、馬も馬車が突然壊れてしまったことはわかっているようでおそるおそる走らせ始める。
馬車は次第に速度を上げ、馬に負担がまるでかかっていないのか、競走馬みたいな速度で走り抜ける。競走馬が走るところなど悠は見たこともないのだが。とにかく速く見えたのだ。
「あっははは!まるで鳥になって飛んでいるようです!」
ニコは暴走族の才能があるようだ。速さを追求することに喜びを覚えていた。
———
真夜中、月光が足元を照らす中、真っ直ぐに伸びる一本道を風を押し除けて一台の馬車が暴走していた。
「ニ、ニ、ニココさん!速度を落としてた方ががが!」
悠は現代の車とはまるで違う振動の凄まじい馬車に舌を噛みそうになる。
「いえいえ、急ぎましょう!大丈夫、慣れましたから!」
ニコは振り返りもせず、御者台で楽しそうに馬を操る。
アメノも悠と同じく馬車はあまり経験がないらしいが、遊園地のアトラクションに乗っている子どものように楽しんでいた。カッシオの頭の上で。
「うわわ、結構楽しいぞ、これ!」
カッシオは馬車が跳ねるたびに、アメノが髪の毛を掴んで跳ねるので不満げだった。
「おい!やめろ、髪の毛を引っ張るな、禿げンだろ!」
真夜中。
月光に照らされた一本道を、風を切って一台の馬車が駆け抜ける。
がらがらと不安げな音を立てながら。
——馬に乗ったことはあっても、馬車は初めてやな。ええ経験や。……もう二度と乗りたないけどな。
おえっ。




