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第六話 「長い一日の終わり」

次の投稿は5/4(月)の深夜に行います。

よろしくお願いします。

「僕の声はお前ら人間には聞こえないぞ!」

 子どもの声が勝ち誇る。


 しかし、その言葉を聞いた悠は思惑通りだというようにくつくつと笑う。

「うふっ、ふっふふ。そんなこと言っちゃって良かったんですか?と言ってももう君の声は聞こえないんですがね。君の力は僕が推察するに、言葉にしたことを実際に起こすといったような力でしょう?」


「だ、だったら何だってん——」


 悠がにこにこと笑顔を浮かべながら、大仰な身振りで長々と説明を始める。

「もっと詳しく言うなら、その力は君が話した言葉を聞いた人がいてはじめて発動するんです!」

「君も気づいているでしょう?なぜか思うように力が使えないことがあると!それはなぜなのか教えてあげましょう。君の言葉を相手が聞いても、正確に伝わらなければ意味がないからですよ!」

「今日の昼、落とし穴に僕を落とそうとしましたね。けれど最初上手くいかなかったでしょう?あの時、君は”そこに”落とし穴があると言いましたね。”そこ”がどこか僕にはわからなかったんですよ。あの後その辺を探してみましたけれど、落とし穴は二つしかありませんでした。つまり発動していなかったんですよ!僕がわかっていなかったから!」


 それを隣で聞くカッシオは怪訝な顔を浮かべていた。


「何が言いたいんだよ!僕の力の、何がお前にわかるって言うんだ!」


「君はもう二度と、その力を使うことはできません。君はさっき、何て言いましたか?”お前ら人間は二度と自分の姿も見れず、声も聞けない”そう言いましたね。君の話した言葉を”聞く”人がいてはじめて使える力なのに、”聞き届ける人”がいなくなってしまいましたねえ。」


「う、嘘だ!そんなわけ——」


「嘘だと!思うのなら君の力を解除してみればいい。君の姿を見れて声も聞こえるように、もう一度口にしてみればいい!無理でしょうがねえ!」


「お前らに、僕の姿は見えるし、声も聞こえるぞ!ほら、聞こえるだろ?見えるだろ!」

 カッシオの背後から雀ほどの大きさの、羽の生えた小さな人影がふらふらと飛んで現れる。

 しかし、悠とカッシオはあらぬ方向を見てその者と視線が合うことはなかった。


「うーん、もう立ち去ってしまったのでしょうか…。どう思います?カッシオ。」

 悠はにこにこと笑顔を浮かべたままカッシオの方へと振り返る。


 カッシオは軽く首を振る。

「…知らないよ。」


「嘘つき!本当は気づいているんだろ?やめてよ、お願いだから!」

 その小さな体の妖はカッシオの肩を掴んで揺らす。


「あ、そうだ!忘れていました!カッシオ一言謝らせたいとか言っていましたけど、声が聞こえないんじゃ謝ってもらえませんねえ、すみません。」


「ご、ごめんなさい。悪かったよう。無視しないでくれよお。」

 カッシオの肩にしがみつく小さな妖の声に涙が混じる。


「あと、割られた酒瓶も直してもらえば良かったですね。でも、うまく直せたのでしょうか。」


「ちゃんと直すし、直せなかったら新しいの盗んでくるから勘弁して…。」


「盗むのは感心しませんね。ちゃんと買って返してもらわないと。」


「お、お前!やっぱり聞こえてるじゃないか!」


「でも、もう三秒は経ちましたよ。僕らの勝ちです。」


「は、はあ?ふざけるなよ!ずるだ!騙すなんて酷いぞ!」

 小さな妖はよほど怖かったのか涙と鼻水を流した顔で抗議する。


「へえ、勝負を反故にするんですか?まあ、いいですけど。あなたが有利な勝負だったのに負けて、次も勝てると?本気で思うんですか?」


「子ども相手に大人気ないぞ、悠。ちょっとこいつが気の毒になっちまったよ。まあ、こいつは謝ったんだし、もういいよ。そンなことより腹が減ったよ、俺は。」

 カッシオはやれやれと足に絡まったままの草を雑にぶちぶちとちぎり、村へと戻っていく。


「そうですね。ちょっと生意気な子どもってからかっていて楽しいから、悪ノリしちゃいました。帰りましょうか。——君!君もご飯どうですか?奢りますよ。」

 悠もカッシオの後を追いかけながら、後ろで項垂れている小さな妖に声をかける。


「くそお!絶対に仕返しするからな!…でも、ご飯は奢られてやる!」

 小さな妖はふわりと浮かび上がり、悠とカッシオの背を追いかける。


 月はとうに真上を過ぎていた。


———


 腹を空かせて酒場に戻った三人は忘れていた現実を思い出した。


「乱闘があったのは酒場でしたね……。」


 村の唯一の酒場の前には散々殴り合って満足したように眠る酔っ払いが倒れ、店員たちはその間を縫うようにして、散らかったゴミを片付けていた。


「君の力で何とかできないんですか?」

 悠はげんなりした顔で妖をじろりと睨み、尋ねる。


 妖はびくりと震えて答える。

「ご、ごめんよ、多分無理だと思う。壊れたものを直すとかは上手くいかないんだよ。」

「でも、これなら……、——ごみが一カ所に集まるよ!」

 妖が一言発すると散らばっていたごみが、屈んでごみを集めていた店員の前にずるずると集まっていく。


 店員は目を丸くして驚き、バランスを崩して尻餅をつく。

「うおお!な、何だ?ごみが…。」

 尻餅をついたことで上に向いた目は知り合いの顔に焦点が合う。

「あっ、天邪鬼じゃあないか。そういや、さっきから声がしてたな。今はお前の相手するのはしんどいから、またにしてくれ。」


「あれ、顔見知りなんですか?」


「あ?旅人の方かい?というか、さっき来てくれたお客さんだね。すまんね、店はこの有様だから、料理を出してやれんのよ。」

 店員の男は悠の言葉を聞いて、悠とカッシオ、そして天邪鬼と呼ばれた妖を順に眺める。


「ああ、いえ……。」


 悠がもう一度聞くのをためらっていると目線を悠に戻した店員の男が説明する。

「?——ああ、すまん。顔見知りだよ。昔っからこの村にいる妖で、いっつも反対のことを言う以外はまあ、悪いやつではないんじゃないか。」


 カッシオはそんなことはどうでも良さそうに屈んで、店員の手から箒とちりとりを取り提案する。

「ふうん?あ、手伝うからさ、晩飯だけ食えないかな?ここで食うの楽しみにしてたから…。」


「おう、手伝ってくれんのは助かる。そうだな、お客はもてなせないが、厨房は無事だから飯は作れる。礼と言っちゃあなんだが、ただで飯を食わせてやるよ。うちの料理を楽しみにしてくれていたんだしな。」

 それだけ言って、嬉しそうに店員の男はひっくり返っている酔っ払いたちを道の端に足で雑に寄せた後、店内に戻っていく。


「ねえ、天邪鬼、くん?さん?この村では酔っ払いが暴れるのは良くあるの?」


「やめてくれ、”くん”だとか、”さん”だとか怖いから。アメノでいいよ。酔っ払いがバカやるのは今に始まったことじゃないだろ。」


「へえ…、アメノ。アメノって名前があるんですね。——確かに酔っ払いなんてそんなもんですね。」


 悠たち三人は協力して、片付けを済ませていく。片付けを始めてしばらくした頃、酔っ払いの家族たちが酒場に現れ、悠たちに会釈だけした後にめんどうくさそうに彼らを起こして家に連れ帰って行く。

 確かにこの村では良くあることのようだった。思ったよりは大した事件では無かったことに悠は内心安堵した。


———


 二、三十分程かけて店の外を粗方片付けると、そろそろ就寝したい時間になってしまった。寝静まった住民と交代だと言わんばかりに草の根の間から虫の鳴く声がする。

 悠が伸びをするとじんわり汗をかいた背中を風が撫でていった。


 店員たちは店外の片付けを終えた後、各々帰って行った。彼らと少し会話をしたところ、悠たちが最初に話していた男は店主だったらしい。


 その店主の男が扉から顔を出して手招きする。

「お、ご苦労さん。助かったよ。後はまた明日適当にやるからよ。料理ができたから入っておいで。」


「おお、了解!行こうぜ、悠。と、アメノ。」

 カッシオが待ってましたと、手に持っていた箒を店の横に立てかける。


 店内に入ると、ごみは片付けられ、厨房の前のカウンター席以外の客席の椅子は机に上げられていた。


 カウンター席には湯気を上げるパスタとパン、そしてスープが置かれていた。


「パスタってパスタなんや…。」

 悠がぼそりと呟く。


 そんな悠の様子に、カッシオが一瞬ちらりと視線を送るが何も言わないで、自分の食事に手をつけ始めた。

「いただきます。」


 パスタには、今日の食材の残りらしきものがたくさん入って具沢山だった。

 燻製にした肉や、香りの良い、サラダにでも使ったらしい野菜とパスタをたっぷりの油で炒めたものだった。見た目だけで言えばイタリアンといった感じだが、中華にも感じられたのは、麺のせいだろうか。とにかく、悠は美味しくいただいた。

 カッシオも「うまい、うまい」と涙と鼻水を流して感激していた。いや、それは流石に悠の誇張され過ぎた記憶違いだった。


 食後に皿を片付けに店主が厨房に引っ込むと、カッシオが思い出したように悠に尋ねる。

「そういやあ、悠。アメノとの勝負の前に勝算があるとか何とか言ってたけどよ、どこまで想定してたンだ?」


「正直あまり想定していた通りには行ってないですね。最初は、——アメノの言葉を聞いてるとたまに言い直していたじゃないですか。だから、慣れていないのかなって。上手く力を発動できないで失敗したと思わせて、おびき寄せて捕まえればいいかなと思ってたんですけどね。」

「もうお前らは歩けないって言われた時は焦りましたね。歩くことができないくらいの怪我とかさせられたらって……。」


 それを聞いたアメノがぼそりと呟く。

「ほんとに足を折ってやればよかった……。ああ、うそうそできないよ、そんなこと。試しに自分の前髪でも切ってみるかってやった時、全然切れなかったから。」


「——最後の方なんて結構やぶれかぶれに嘘ついて乗り切りましたしね。」


「いやあ、そんな焦ってる感じなかったけどな。悠、結構楽しンでたぞ。見たことない顔で笑っててちょっときも…、不気味だった。」


「じゃあ、慌てないでもうちょっと逃げ切れば、僕が勝ってたってこと?腹立つなあ。」

 アメノは不服そうに食器をコツコツと弾く。


「そういえば、アメノは天邪鬼という妖なんですよね。嘘ついたら本当になる力ってことですか?」


「なんだ僕らのこと知ってんのか。まあそんなとこだよ。最近できるようになったんだ。すごいだろ。」


「ええ、すごいですねえ。アメノもようやく大人ですねえ。」


「やめろ!ガキ扱いすんな!ずっと気になってたんだ。こんなナリだけどお前らなんかより年上だぞ!たったの数十年しか生きてないくせに、人間はすぐに老いるからって、バカにしやがって。」


「そうですねえ、大人ですねえ。大人だったら取るべき責任は取ってくれますよね?」


「う…。それは悪かったよ。ちゃんと弁償はするさ。」

 アメノがそんなことを言っている時に店主が厨房の片付けを終えて戻ってくる。


「おう、すまんがそろそろ店じまいにさせてくれ。それとちょっと聞こえちまったんだが、また、天邪鬼がなんかやらかしたのか?」


 悠は深刻ぶった顔を作り、店主に説明する。

「ええ、アメノったら僕らの大切な配達の荷物を壊しちゃったんです。」


「なに?また、お前は…。全くしょうのないやつだ。何を壊したんだ?」


「北国産のきちょーうな酒だよ。こいつときたら全く。」

 カッシオはいつの間にかお酒を飲んでいたみたいで、ふわふわとした口調で言う。


「ほう?うちにもいくらかあるぞ。銘柄は何だ?」


「ノーザンライツってやつだ。」


「ああ、それか。良かったなお前ら、うちに在庫があるから一本くらい分けてやるよ。」

 店主がカウンターの下に屈んでしばらくすると一本の酒瓶を取り出してきて、悠に渡してくれた。


「代わりにいつかまたこの村に来た時になんか珍しい酒を持って帰ってきてくれ。お前ら配達人なんだろう?旅してりゃなんかのきっかけに手に入れることもあるだろ?」


「ええ!?良いんですか?いくらかは正直存じ上げませんが、とても助かります!いつかいいお酒持ってきますね!」


「おっちゃん、あんたはいい人だ!きっと明日はいい日になるぜ。」


「ああ、そうかい。代わりの酒を楽しみにしておくから、また客としておいで。じゃあそろそろ帰んな。明日に響く。」


 悠とカッシオは店主の戸締りを見届けて、彼らと店の前で別れる。すっかり遅くなり、夜空には星が瞬いていた。

 悠は学生時代の飲み会帰りを何となく思い出したが、あの時の空とは似ていないはずなのに、同じように綺麗に見えた。

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