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第四話 「ちょっとしたトラブル」

第五話の投稿は4/30(木)の深夜に行います。

よろしくお願いします。

 悠たちが川下の村を離れてから一日が経った。幸いにも天気はずっと晴れていて、空には程よく雲が見えるのみだった。

 眼前には小さく、富士山のような形をした円錐型の山があった。この山は迂回して行く予定だが、山の中腹あたりに変な、捩れたような形の建物があって興味が惹かれる。


 ふと、悠が道の端を見ると、いつかも見たお地蔵様があった。わずかに折れて倒れた背の高い草の間に埋もれるように佇んでいる。誰も気に留める人もいないのに道行く人を見守っているようで悠は少し悲しくなった。


——今まで自分だって、そんなに気にとめへんかったのに、気になるのは”同郷”やから、なんかな?


 そう考えていたためか、悠はほとんど無意識のうちに、カッシオに休憩を提案する。

「——カッシオ、少し、お昼には早いですが休憩しませんか?」


「ん?ンああ、いいぜ。慣れねえことやってるしな。疲れてなくてもした方が良いかもだしな、うン。」

 カッシオは虚を突かれたようで、少し驚く。しかし、納得のいく理由を見つけて提案をのんだ。


「城下町までは、まだ遠いですね。」

 悠は背負子を道の端で下ろして、肩を揉む。


「んー、そうだな。いつもはゴードンさんがあらかじめ馬車の手配をしてたから、ちょっと遠いところって感覚だったンだけどな。」

 カッシオも背負子を下ろし、背嚢から水を取り出して飲む。


「あと、どのくらいかかると思います?昨日から数えて三日後にハンドマンさんのお誕生日ですよね。だから、明後日の朝には着かないとまずいですけど…。」


 カッシオは斜め上に視線をやりながら、顎をさする。

「そーだなぁ、いつもなら朝一に馬車で村を出て、昼過ぎくらいには風車の村に着いて飯食って、晩には城下町って感じだったからなあ。歩きだと——」


「えぇっと、馬車で昼過ぎに風車の村というのに着くなら、そこが丁度中間地点ですかね。なら、そこに今日着いて出発するくらいでないとまずいですよね?」


「そうだな。そこで昼飯調達して食えればな、って思ってるよ。」


「その村ってあの迂回する予定の山の向こうですよね。…昼過ぎくらいには着きたいですね。」

 悠も自分の背嚢から水を取り出す。ついでに小腹が空いた時のために持ってきた、塩気のあるビスケットのようなもの、というか材料的にもほとんどビスケットをかじる。

 ビスケットを食べると口の中の水分がほとんど持っていかれて、もったりとする。そこに水を流し込んでほどけていくのがなんと無く気持ちよくて悠は好きだった。


 そして、悠はおもむろにお地蔵様の側の草を少しむしって綺麗にし、ビスケットを一枚だけ供えた。


「な、あちこちで良く見るけどよ、その石像ってなんなンだ?」

 カッシオが後ろから尋ねる。


「これは、お地蔵様ですよ。道行く人を見守ってくれる神様、で良いんですかね?」

 悠は手を合わせて拝みながら答える。


「ほぉん、なら配達人の神様ってわけだな。俺も拝ンどくか。」

 カッシオも悠の真似をして拝む。


「僕も別に信心深いってわけじゃないんですけどね。”同郷”なもので、気になっちゃって。」

 悠はなんとなく言い訳のように呟く。


「そっか、同郷なら大切にしないとだな。」

 カッシオが大仰に頷く。


「そろそろ、行きましょうか。」

 悠はお尻と膝についた千切れた雑草を払い、立ち上がる。


「よしっ!あと一踏ん張りで昼飯だー!」


 カッシオの気合いを入れる声が少しうるさくて、悠は笑ってしまった。


———


 昼過ぎ頃に二人は山を迂回するための道までたどり着いた。

 ここまではずっと平野で道の先が見えており、わずかにカーブなどはあったが、ひたすらに真っ直ぐ歩いてきたため、悠は正直に言って飽き飽きしていた。しかし、ようやくはっきりと曲がり道となり、進めば景色が変わることに気分が持ち直していた。


——そう言えば、山の中腹に見えたあの謎の建物はどっから上がっていくんやろうか。道かなんか、そこらにあるんやろうか。


 どうでもいい事に思考をやりながらも一歩一歩を確実に踏み出す。前を歩くカッシオをなんとなく眺めていると、不意に子どもの声がする。


「そこ、落とし穴があるよ。」


「ゔえ?って、うおおお!」

 カッシオの叫び声が響く。


「っ…!カッシオ!」

 悠が慌ててカッシオのいた場所まで走って行く。


「そっちにもあるよ。」

 子どもの声が再びどこからか聞こえてくる。


「え、どこ?」

 悠は走り出した足をもつれさせながら、急停止する。


「あ、間違えた。”足元”に落とし穴があるよ。」


「ふえ?足元?」

 悠が足元を見やった時だった。足元で存在を主張していたはずの固い地面が、急に元気をなくしたように体重を支えるための力を失っていく。


「うわわ、わあ!」

 悠はそれほど意識を払ったわけではないが、背中に背負った荷物が下にならないように、前傾姿勢で穴に落ちた。そして、頭を落とし穴の土の壁に強かにぶつけた。


「いっ……たあ、落とし穴とか初めて落ちたわ、ぼけぇ!びっくりやで。たんこぶできたんちゃうか!」


「あっははあ、バカ二人が落ちた。バカが落ちた。あはは、あは、げほっ、こほ。」

 そんな声が穴の上から響いてくる。


「ふざっけンなよ、ガキンチョ!お仕置きしてやる、ここから出せ!」

 カッシオも無事だったようで、少し離れたところから憤慨する声が聞こえる。


「けほっ、けほっ、うふふ、知らないよ。ばぁーか。」

 声の主はその場から離れていくようで、笑い声はしばらくの後に聞こえなくなった。


「カッシオー!出れそうですかー!」

 悠は土の壁から出ている木の根や、石に手をかけ脱出を試みる。


「まあ、なんとか!ただ荷物がよう…。」

 カッシオの声に嘆きの色が混じる。


 幸い穴はそれほど深くなく、2メートルと少しくらいでものの数分で脱出できた。


「はああ、なんなんですかね。落とし穴とか初めて落ちましたよ。そういや、荷物がどうとか言ってましたけど……。」

 悠が深く息をつきながら、道端に座り込む。


「おン、割れたかもしれん…。カシャンて聞こえたンだ。」

 カッシオも悠の隣に荷物を下して、心配そうな顔で覗き込むようにして荷物を確かめる。


「ああ、やっちまってる…。酒瓶一本が割れてる。」


 カッシオが肩をがっくりと落としながら取り出したお酒の瓶を入れた袋には染みができており、強烈なアルコールの匂いが辺りに充満する。


「あちゃあ、ですね。僕の方も確かめておかないと…。ああ、よかった。割と無事でした。」

「僕の方は背負子の紐が切れかかっているのと、僕の背嚢の中でビスケットが散乱しているだけです。」


「はああ、多分まじぃよな。ああ、くっそぉ!ガキンチョめえ!絶対ぶっ飛ばしてやる!尻が割れるまでひったたく!」

 カッシオはどこに行ったかも、姿もわからない相手に聞こえればいいというように大声で叫んだ。


「はあ、カッシオ、お尻は初めから、って聞こえてませんね。」


 カッシオが落ち着くのを待って、荷物をまとめなおした二人はあらためて、風車の村を目指した。結局二人が村に着いたのは、夕ご飯の準備を始める頃だった。


———


 悠とカッシオは災難にあったこともあり、無理に進むより今日をしっかり休んで明日から頑張ろうと決め、宿を探していた。

 幸いにも一泊できる宿は到着してすぐに見つけることができた。


 宿の主人によると普段は人がほとんど訪れないらしいが、納税の時期になると、周辺の村から城下町を目指す集団が来るとのことで、普段から貸し出すための部屋の用意があるとのことだった。


「あーあ、もう少し進みたかったンだけどなあ。」

 カッシオは昼食と夕食が兼用となってしまった村の名産の麦で作られたパンをむしりとかじる。


 風車の村は穀倉地帯で、麦をたくさん育てていた。気分さえ良ければ、辺り一面の金色の麦と風車に感動していたのだろうが、二人にこの景色を楽しめる余裕はなかった。


「ですね。明日は相当頑張って進まないと…。はあ。」


「あー!だめだ。気晴らしに行こう、悠!酒場があるんだ。悠も多少は飲めるンだろ。行こうぜ!どうせ後は寝るだけだ!」

 カッシオが頭を掻きむしって立ち上がる。


「ええ…?まあ、いいですけど…少しだけですよ。」

 悠は気乗りしなかったが、カッシオの後に続いて宿を出る。


 酒場に着くと、美味しそうな小麦の焼いた香りと、肉を焼いた香りが外まで漂っていた。そして、村の人々が集結しているのかと思わせるほどの喧騒が中から聞こえる。


「いっつも気になってたンだよな、ここ。昼は空いてねえけど、評判が良いって村の連中が言うからさ。」

 カッシオは早くも昼の不運を忘れて、にこにこと嬉しそうにする。


「確かにすごく美味しそうな香りがしますね。酒場っていうから、こうなんか、お酒以外のものは置いて無い感じのバーみたいなお店かと思いましたよ。」


 カッシオが店の扉に手をかけ中に入ろうとした時、聞き覚えのある子どもの大きな声が響く。


「乱闘騒ぎが始まるよ!」

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