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第二話 「配達人」

第三話の投稿は4/26(日)の深夜に行います。

よろしくお願いします。

 悠とカッシオは川のせせらぎを聞きながら、カラの家で昼食を取っていた。今まで食べていた物とはまた味付けが違って新鮮に感じた。


「塩味が強めですよね。でも、旨みもすごくって。良い塩梅という感じです。」

 悠たちが口にしているのは川魚を一夜干しにしたものをほぐした身、新鮮なしゃきしゃきとした葉野菜、チーズのような少しぱらぱらとした乳製品をトルティーヤのような生地で巻いたものだった。

「しかも、えっと、チーズ?みたいなものが入ってるんですね。」


「チー?どれのこと?」

 カラが首を傾けて覗き込むようにする。


「ぱらぱらした乳製品のような——」


「あぁ、シルのこと。それ乳じゃなくって豆だよ。塩と潰した豆で作った調味料ね。クセがあるから苦手な人もいるみたいだけど、ハルは大丈夫なんだね。ごめんね、言うの忘れてたよ。」


「いえぇ、とっても美味しいです!チーズではないんですね……。」


「…多分だけど、悠の言ってるやつ?北西の国で作られてンじゃねえかな。時々、ここノヴァナイ領でも出回ってるぜ。めっちゃくちゃ高えけど。」

 カッシオは心当たりがあるようで、自信なさげに教えてくれる。


「へぇ、ノヴァナイでも…。」

 悠はようやく自分のいる領地の名前を知る。知らなくても困らなかったのだ。そして今、それを知った。なにも問題はない。


——アシファラ連邦のノヴァナイ領、か。そしてロンダート領へ。


 そんな悠の心はつゆ知らず、様子のおかしな悠を見て、カラは少し緊張したように尋ねる。

「…ハルって、もしかしてどっかのお貴族様とか?うちなにか失礼なことしちゃってる?」


「いえいえ、一般庶民ですよ。有象無象のうちの一人、塵芥です。」

 悠はカラの緊張感をほぐそうと、強めに否定をする。


「一般庶民にしては、高い食べ物知ってるし、それに知的っていうか、本とかたくさん読んでそうっていうか…。」

 カラは怪しむように目を細める。


「ふふっ、本当にただの一般人ですよ。祖母がそういうのに厳しかっただけです。ご飯ありがとうございます、美味しくいただきました。」

 悠は適当に話を切り上げて、にこりと笑う。


 はたから見ると今の問答も含みがあって、ただの一般人には見えないのだが、悠は微塵も気づいていなかった。


 二人の会話に特別関心も無さそうで、会話を聞いてもいなさそうなカッシオは膝をぱちんと叩く。

「うしっ、飯も食って人心地ついた!地図はあとにするとして…、これからの仕事のことだな。」


「立ち寄った場所で日雇いの仕事、道中は狩猟採集とかかと思っていたんですが…。」


「そンなんでもいいけどな。ただ道中で狩猟採集とかは駄目だな。ハルのいたところじゃどうか知らねぇけど、獣も野草とかもその土地の領主と妖たちとの兼ね合いを考えれば気軽にはとれねぇ。さすがに緊急の場合とかは見逃してくれたりすっけど。」


「そんな…!こののどかな風景の中にも利権の奪い合いが存在してるなんてっ!」

 悠は残念そうにうなだれる。


「そんな殺伐とはしてないよ。でも、たとえばハルが夜にこっそり魚をとったりしていたら、村の誰かか、はたまた川の主にぱっくりいかれるかもね。」

 カラが誤解を解くような言い方をするが、内容を補足しただけだった。


「やっぱり殺伐としてるじゃないですか!」


「ようは、決まりを守ってればいいンだよ。別に狩猟だって決まりを守ってればやったって構わねぇよ?しっかりと、領主だか、そこの住人だかに収めるもん収めりゃいいンだよ。」

「まぁ妖によっては、命をよこせって言われたとか、聞いたこともあるけど…。」

 カッシオが小声で不穏なことを言う。


「何か恐ろしい言葉が聞こえたんですけど…。なら、何をしようって言うんです?」


「配達やろうかって思ってンだ。」


———


 悠とカッシオはカラに連れられて、川辺沿いにある配達物の集荷場に来ていた。集荷場は町工場くらいの大きさの二階建ての建物だった。建物には二つの入り口があり、大きな荷物を運び入れるための入り口と、事務所に繋がる人の出入りのための扉がついた入り口だった。

 小さい方の扉には木の板が掛けられており、そこには「配達のローイン」と書かれていた。


 カッシオが何気なく扉を開いて入っていく。


「ちょっ!勝手に入って——」

 悠が慌ててカッシオを止めようとする。


「お!ようこそ!配達のローインへ!荷の受け取りはこちらへ、発送は倉庫側へ!」

 元気で野太い声が聞こえてくる。


「ども。俺たち働きたいんだけど。」

 カッシオがいつもの少し覇気のない感じで頭をかきながら言う。


「なんだ、就職希望か。残念だが、人手は足りてる。」

 受付の赤黒い顔の中年の男が興味を失った声を出す。男はこの村出身ではないらしく、指の間に膜はない。筋肉がやたら発達しており、穏やかな顔を見なければ凶暴な猛獣を思わせる風体だった。


「あーいや、”ここ”じゃなくて、俺たち二人を個人事業主として配達人の登録してもらいたいンだ。」

 カッシオが悠の肩を掴んで、作り笑いをする。


「あぁ、委託契約を結びたいってことか。だが、ここでは無理だな。ここはただの集荷場だ。町までいかんとな。」

「というか、本当にやるつもりか?お前さんらのようなひょろひょろっとしたやつには難しいんじゃないか?」


「…な、なにか危ない仕事なんですか?」

 悠が小声でカラに尋ねる。


「うーん、まあねぇ、配達先が妖だったりとか、単純に高価なものだったら、とか?」


「襲われる危険があるんですか…。」


 受付の男が悠達の会話へ混ざる。

「そういうことは稀だぞ?長距離の荷運びでは、重量があるもの、荷物によっては繊細な取り扱いが必要になるものなど神経をすり減らさねばならん。だから言ってるんだ。」


「そういうこと…ですか。」


「気をつけりゃーいい話だろ?何にせよ、旅の間の路銀を稼がねえと。」

 カッシオが旗色が悪くなるのに勘づいて話に割って入る。


「ふん、まあいいだろ。俺がとやかくいうことじゃあない。城下町まで行けば契約できるだろうよ。」

「まあ実績がある程度ないと契約してもらえんかもしれんがな。」


「実績、って配達人になりたいのに、配達人であったことがないとなれないんですか?」


「ふむ、どこの馬の骨とも知れんやつに、もしかすると荷物目当てのクズかも知れんやつに、大切な荷物を預けられんだろうが。信頼のおけるやつでないといけんわな。」


「ど、どうしましょう?どうするんです、カッシオ!」

 悠がカッシオの肩を掴んで揺さぶる。


「どう……するか…。」

 揺さぶられて頭をぐらぐらとさせながら、カッシオはうなる。


「ねえねえ、うちが配達の依頼出してあげて、それを二人で受けたら実績にならない?」

 カラがあわてる二人に助け舟を出す。


「村の嬢ちゃんだな、親族間とか友人間での実績のかさましは勧められんなあ。」

 受付の男は額をぽりぽりとかきながら、困った顔をする。


 当てが外れて申し訳なさそうな顔で立つカッシオ、本当に困ったという顔をしてどうすれば実績が得られるだろうと考えている様子の悠、そんな二人を励まそうとするカラ、それぞれを順に見て受付の男はふっと息を吐く。


 少し悩んだ顔をしたかと思うと受付の男は口を開く。

「……仕方ねえ、まあ悪い奴らじゃあ無さそうだしな。城下町の俺の同僚に誕生日祝いをそろそろ贈ってやろうと思ってたんだ。それをお前らに依頼してやるよ。」


「え!いいんですか?」「いいのか!」


「構わねえよ。ただな、実績に数えられはするだろうがこの一件だけじゃあ、契約してもらえるかはやはりわからんぞ。契約してもらいたいなら、信用を勝ち取らなければならん。わかるな?」


「うン、できるだけ丁寧に運べばいいンだろ?」


「それだけじゃあない。誕生日祝いだからな、間に合わなけりゃあ意味がない。それにお前さん方は喋り方もなんとかした方がいい。片方の片言な喋り方は…まあ許されるかもしれんが、片方は少し荒っぽい印象だ。お客に信用されたいなら、そういうことにも気をつかうもんだ。」


「僕って片言に聞こえます?」

 悠がカラに小声で尋ねる。


「ちょっとぎこちないよ。ただ頑張って喋ってるし、それこそ本とかでたくさん勉強したんだろうなって感じ。」


「そう…ですか〜。発音はなかなか、直りませんね。」

 悠は肩を落とす。


「そンじゃあ、依頼受けさせてもらう、…受けます。相手はノヴァナイ領城下町のどちらさんですかね?」


「ふっ、ハンドマンだ。荷物は明日梱包して渡す。そして依頼人の俺はトールマンだ。よろしくな。」


 その後、細かい依頼内容や、配達物の取り扱いの説明を受けて、集荷場を出た。少し日が傾き始めており、長い一日が終わろうとしているのを悠は感じた。

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