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深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?  作者: Yuzuki
第一章 「死者と共に暮らす村」
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第二十三話 「復興」

第一章はこれにて完結となります。

間話の上を4/16(木)に投稿します。

どうぞよろしくお願いします。

 早朝、再び村人総出で山道の復旧作業に取り掛かる。作業は足場の悪さが影響して、思うように進まなかった。


「くそっ、足場が悪すぎる。足は膝まで沈むし、猫車は木板が沈むから近くまで寄せれねえ。」

 村人の誰かが苛立って足元の泥を蹴り上げる。


「はぁ、ふぅ、重機があれば簡単なんですけどねぇ。そういえば機械とかってこの世界にあるんやろか?」

 悠がそれを息を切らしながらぼんやりとそれを眺める。


 蹴り上げられた泥が近くの草むらに落ちる。そこががさがさっと動く。

 ふとサラビが姿を見せた。

 最初、あまりに自然で誰も気づくことができなかった。


「ぎ、ぎゃあぁああ!!サラビだ!殺されるぞ!!」

 一番に近くにいて気づいた男が悲鳴をあげる。


 その場は阿鼻叫喚となり、一斉に村人たちが逃げようとする。


 子どもたちは気づくのが遅れたのだろうか。動こうとしなかった。

 悠やカッシオを含めた少し冷静に動けた者たちが子どもを抱えて離れようとする。


 しかし、子どもたちは動いてくれなかった。


「ちょっ!逃げなきゃなんだって!!」

 カッシオはアイネを抱えようとするが、動いてくれなくて焦って声を荒げる。


「静かにしてよ!何か言ってるでしょ!」


「何か?何も聞こえ……、そうか!高音すぎて大人に聞こえてないんだ!」

 悠はよくわからない状況に納得のいく理由を見つけて興奮する。


「もう!!うるさいってば!!」

 アイネが苛立ち、大声で叱るように叫ぶ。


「ごめんなさい。」

 悠が口をつぐむ。村人たちもアイネの大声に驚いて目を見開き、様子を伺っていた。


《……、…》


「何て…言ってるんですか?」


「……っ。…手伝うって言ってる…。償いたいって。」

 アイネは渋い表情を浮かべながら、ゆっくりと言葉にする。


「それは…どう、なんでしょう。」

 悠は言葉を失ってしまう。


「償いたいって言われても、死人が出てるのに?許せるわけがないでしょう。」

「死んで詫びろって感じだよな。」

 村人が小声で囁き合う。


「うるせぇ!!今は一刻を争うんだ!息子は死なせねぇ!!手伝ってくれ!!」

 カルロスが村人を黙らせるために怒鳴る。


 ボルドーは少しの逡巡の後に口を開く。

「…カルロスの言う通りだ。それに許せなくとも、償いの機会くらいはあっても良いだろう。裁きは後回しだ。」

「アイネ、手伝ってくれと伝えてくれるか?」


 アイネは泣きそうな目をしながら口だけ微笑み、軽く頷いた。

「…さっき、ボルドーさんが言うのを聞いて、『わかった、ありがとう』って言ってたよ。」


———


 その後、村人たちは渋々受け入れ、サラビたちの手伝いを受けた。

 彼らは人よりは余程小さい上、手も足もないのに力は人の及ぶところではなかった。彼らは大岩や折り重なった木々を簡単に引きずって運搬していた。


「どうなってるんですか?あれ。力が強いだけでは説明がつかないような……。」

「というか、あんなの相手によく生き残れましたよね…。」

 悠は驚きと好奇心で作業の手が止まる。


「妖ってのは、あンなもんだよ。悠はサラビと龍しか知らねぇけど、もっと訳わかンないのもいるぞ。見た目完全に傘なのに、喋ったり跳んだりするやつとかな。」

 顔も手も泥だらけにしたカッシオが教えてくれる。


「唐傘おばけってこと…ですか?嘘でしょう?んな馬鹿な…。」

「というかこの世界の人間のカッシオもおかしいと思う存在って…。」

 悠は驚愕した顔でにへらと笑ってしまう。


「にやにやしてねぇで作業しろよ。爺さん連中が見てるぜ。」


「あ、はい。」


 そんな無駄話をしている最中も、サラビたちは働き続け、昼前には土砂はあらかた片付けられた。

 幼い子どもたちを歩かせるには少し難しいが、大人が歩く分には申し分ないほどにきれいになった。


「ボルドー!!早速だが——」

 カルロスがひどく疲れた顔をしているが、笑顔でボルドーの方を向く。


「あぁ、急がねばな。おい、数人手伝いで着いて行ってやれ。」

 ボルドーが村人たちに声をかける。


「僕も行っていいですか?レネのこと、心配ですし。」


「ハルか。疲れていないか?川下の村までは結構距離があるぞ。」

 ボルドーが悠の血色の悪い顔と、泥に塗れた細い体を見て気づかう。


「なら、せめて山の麓まででも。」


「ふむ…、そうだな。村の復興の拠点も必要になるしな。わかった。山の麓まで送った後は、そこで野営地づくりをゆっくり始めていてくれ。」


「俺も一緒に行こう。その辺は俺がいた方が上手くやれるだろ。」

 カッシオも手をひらひらさせながら、歩み出てくる。


「他にも何人か行って欲しいんだが、誰か行けるか?」


「俺も行こう。」

「わしも行く。ここにおっても、もう力仕事しかなさそうだしな。」


 そうして、村の働き手のうちの数人と一部の老人を伴い下りることとなった。


———


 昼の太陽の高い時間を少し過ぎた頃、悠たちはレネを担架にのせて、山道を確かめながら、しかし、急いで山を下りてきていた。


「初めて山を下りるので少しどきどきしてきました。」

 悠が横を歩くカッシオに小声で話しかける。


「そっか、悠は初めてだったな。でも、町とかはねぇからあんまり面白くはねぇかもな。」


 会話が聞こえていたらしい、先頭を歩くカルロスがちらりと振り返った。

「そういえばハルが村に来てから、まだ一度も下りたこと無かったな。……ベルトラムのオヤジとかは別口で下りることはあるけどな。」

「あのオヤジは無事…なんだろうか……。」


「…そ、その山を下りる時って?」


「年に一度、納税のときと、あとはそれぞれ収穫物とか売りに出たりな。俺ら同士では現物交換だが、流石に多少は金がいるからな。俺の場合は、一部原材料の仕入れとか、売りに出たりとかかな。」

 カルロスが歩きながら答える。


「確かにお金って見たことなかったですね。そういうもんかと思ってました。」


「いくら田舎モンでも多少はあるさ。俺だって持ってる。」


「どうせカッシオのは酒代でしょ。知ってますよ。この村では見ることのない銘柄のお酒いっぱい持ってますもんね。」


「ふへっ、金は大切ってことだな。」

 カッシオがにやりと笑う。


 悠はカッシオに小声で話しかける。

「後でちょっと見せてくださいよ。持っていないのは良くても流石に全く知らないと人に変に思われるでしょうし。」


 カッシオは軽く頷いた。

「おン、後でな。」


「おーい!麓から煙が上がってるぞ!」

 列の先頭を歩いていた男が声を上げる。


「なんじゃ?…落雷もあったし、まさか!山火事か!?」

 悠たちのすぐ後ろを歩いていた老人が焦った声を出す。


「大雨の後でも、火事になることってあるんですか!?」


「折れ重なった木に火がつくと中で熱が上がるからな。一度消えてもまた燃えだすことがある。」

「山火事となると大変じゃ!おい、早く見に行かんか!」

 列の後ろから大声で指示を出す。


「あぁ!行ってくるぜ!」


 そう言って村人の男が走り出そうとしたとき、前に人がふらりと現れる。悠が見たことのない村の外の人間だった。

「山の村のもんか?」

「騒ぐ声が聞こえるから、来てみれば…。村からは出られないって話じゃなかったのか?」


「おい、キルケじゃないか。何でここにお前がいるんだ。」

 後ろから首を伸ばすようにして、カルロスがその男の存在に驚く。


「おう、カルロスもいんのか。何でって…。あ、そうか。ゴードン村長が生きてんだよ。そりゃそうか。知るわけねぇよな。」

 キルケと呼ばれた男がおもむろに顎で指を鳴らす。その指の間には薄い膜があった。


 悠は少しその手を見て驚いたが、妖かその親戚みたいなものなのだろうと納得することにした。それよりも驚くべきことがあったのもある。


 目を見開いたカッシオの喉から乾いた空気が漏れ出る。

「……ふぁ?」

「ゴードン村長が……親父が、生き…てる?」

 カッシオが唾を飲み込む。


「お前さんはボルドー?いや、そんな面じゃなかったような…。まぁ、いいや。良かったな。親父さんが生きてて。」

 キルケは親子が再び生きて出会うことができたその事実に満足そうに笑って頷く。


「麓まで一緒に来てるからよぉ。会ってやんな。あと、もう一人熊捕りの親父もいるぜ。怪我が酷すぎて、そっちは村に居るけどな。あ、でも医者は連れてきてるからな。安心しろ?」


「よしっ!みんな急ぐぞお!」

 カルロスが嬉しそうに拳を握り込む。


「ゴードン、生きておったのか。よくもまあ生き残れたもんじゃあ。」

「ベルトラムも上手く山を下りれたかどうかわからんかったしな、無事でよかった。」

「良かったなあ、本当に良かった…。」

 村人たちは嬉しそうに肩を叩き合う。カッシオはまたべそべそと泣いていて、村人たちに肩を力一杯にべしべしと叩かれていた。


 悠も村人たちと喜びを分かち合いながら、麓の方へ目をやる。そうすると、麓へ続く道の先から、かすかに風が吹き上がってきた。

 山の匂いに混じって、湿った土と、遠くの川の気配がした。


 悠は担架の横を支えて歩きながら、ふと振り返った。

 山間に少し見える、土砂に埋もれかけた村は、まだ痛々しい姿のままだった。流石に人は見えないはずだが、そこに立つ人々の背中が見えた気がした。


——全部、終わったわけやない。


——でも、終わらせんで済んで良かった。


 そう思えたことが、悠にとっては何よりも大きかった。


 山を下りる。

 村の外へ出る。

 それはもう逃げるためではなくなり、繋ぐための一歩になったのだと、あらためて思う。


 風に揺れる木々のざわめきの向こうで、道はまだ先へと続いている。


 悠は前を向き、担架を支える手に力を込めた。

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