に。
「それはつまり、王家に勝手に婚約を望まれて王子妃教育を受けさせておいて挙げ句に無駄にする、ということですの?」
お母様……怒っていらっしゃいますね……。笑顔なのに目が笑っておりませんわぁ。
「そういうことになるな」
あ、お父様も怒っていらっしゃいますね。声が一段と低くなりましたもの。
「この婚約は最初から気に入りませんでしたけれども、それなのに王子妃教育を受けさせておいて無駄にする、と?」
お母様、あまり怒らないでください。折れた扇子を持ったままなので手を怪我されないか心配です。私が宥めるのが良いかしら。
「お父様もお母様も落ち着いてくださいな。第一王子殿下のことは決定ではないのでございましたね。それならば陛下が決定されてから考えても遅くないはずです。ご存知のように私の記憶力に関しては条件付きでしたから、王子妃教育も我が家で受けることが条件でした。ですから、教育係の皆さまと国王陛下くらいしか私の教育の進み具合は存じ上げないと思いますわ」
「それはそうだが」
私がお二人を宥めながら話し始めるとお父様が怪訝な顔を見せる。
「第二王子殿下並びに第三王子殿下のご婚約者のお二方がどの程度、教育が進んでいらっしゃるのか私も知りません。ですので、これを機にお二方の進み具合を陛下から教えてもらい、私もどちらが王妃の座に相応しいのか考えることにします。私自身は王妃の座に興味は有りませんし。ですから契約のことも有りますが、王太子妃教育を避けているではありませんか」
まぁ私が王妃になりたくないから王太子妃教育もやりたくない、と言って逃げたとしても命じられれば王太子妃教育延いては王妃教育も受けたでしょうけれども、その辺は婚約した時の契約がありますからね。
お父様とお母様とパッドリーが納得した顔で頷いてます。三人共同じ表情タイミングで頷くので、ちょっと面白くなりました。
「確かに。第一王子殿下と婚姻してから五年で王太子位選定に入る、という契約だったな。仮に第一王子殿下が王太子に選ばれたとしてもそれから王太子妃教育に入ったはずだったな」
お父様が真面目な顔で重々しく仰る。
もちろん、その辺のことは騒がしくて第一王子殿下を早く王太子の位に、と周囲から声が上がっているようです。
余程のことが無い限りは第一王子殿下が王太子位に就くのが慣例ですので、本来なら既に第一王子殿下が王太子位に就いていたはず。
では何故まだ就いてないのか。
私との婚約の条件が効いているわけですね。
結婚して五年で王太子位選定に入るというアレです。……あら? この婚約の条件って公文書になってましたよね?
それなのに騒ぐって……契約書を知らないか忘れてるのかしら?
でもここにきて、第一王子殿下が王太子位選定から外れることになる可能性が出てきましたから、余程のことですよね。まぁ騒がしい周囲が慣例を持ち出して来そうですけど。
……そういえば。
私、第二王子殿下と第三王子殿下、お二方の婚約者様と面識は有りますがきちんとお話をしたことが有りませんわね。挨拶程度でしたわ。
第一王子殿下が王太子位を望まないのであるならば、お二方の婚約者様と話をして為人を知っておく方がいいでしょうね。婚約者様が王太子妃の座に就かれる延いては王妃の座に就くわけですから。多分第一王子殿下だけでなく私も婚約者様お二人を見極めることになるでしょうし……。
なんだか忙しくなるのかしら。
そういえば十八歳で婚姻するかと思っておりましたが来年に延びましたよね。ということは、契約の文言から考えるとそこから五年ということでしょうか。本音を言えば一年間で子が出来なければいいですけれども、こればかりは分かりません。
でも王太子位選定のこともありますし、陛下も第一王子殿下に罰を考えていらっしゃるのなら、早くに決めてもらいたいものですわね。
「先走ってしまいましたけれど、そうね。王太子位選定はまだ先だし、第一王子殿下が王族籍を抜けるのなら婚姻は仕方ないとしてもその先は分からないわね」
お母様が落ち着いてくださってひと安心。
「そういえば姉上、第一王子殿下から名を呼ぶように頼まれたとか言ってましたが名を呼ぶ気はないですよね?」
「唐突にどうしたの、パッディ」
呼ぶ気はないですけども。
「いえ。レバーム家の後継として第二王子殿下並びに第三王子殿下のお茶会に誘われて出席したことがあるのですが、どちらも婚約者様方と良好の証のように名を呼んていらっしゃいましたから。まぁアピールしているだけ、かもしれませんけれども、そういえば姉上は頼まれたと言っておられたのに呼ばないので。……呼ばなくていいと思っていますが」
パッドリーはお二方のお茶会に誘われているの。まぁ確かに我が家は無視するのはちょっと難しい存在ですものね。私が第一王子殿下の婚約者でも声はかけておいて損はないですよね。
「命じられたのなら呼ぶけれどそうでないなら今さらだから。今さらでも歩み寄っている、と今回の侍従だけじゃなくて他にも思うでしょうけれど。簡単に許してしまうことではないのよ」
これは私のプライドだけでなく我がレバーム家そのもののプライド。
殿下が歩み寄っているのだから意地を張るな、と言う者も居るだろうけれど。
我が家は王家の臣下であっても矜持まで王家に差し出したわけじゃない。
第一王子殿下が私を蔑ろにしてきたことは、王命も蔑ろにしたことであるし、我がレバーム家を蔑ろにしたことでもある。
一応筆頭公爵家として他貴族たちから一目置かれている我が家だからこそ、王家に目に見えて反抗はしない。でも理不尽な行動にはきちんと抗議し態度を見せる。
……ということを常々口にしているのに、未だに理解しない貴族家がチラホラ居るのよね。あれはなぜかしら。
ここで抗議をしないで態度も従順なものにしてみなさいな。途端に他家は我が家を下に見てくる。そうなれば我が家より下位の爵位の家が我が家を見下す可能性もあるわけで。身分制度なんて意味を為さないわよ。
王家に目に見えて反抗はしていない。でも筆頭公爵家のプライドを折ってはいけない。折ってしまえば身分制度の崩壊にも繋がる。そうなったらいくつの貴族家が存続するのかしらね。何の準備も無しに国を混乱させるわけにはいかないの。
私のこの考えをどれだけの貴族が理解しているのかしらね。
きっと大半の貴族が理解してないし、考えを知っても大げさだ、としか受け止めないでしょうね。
「そうですね。結婚後も殿下という敬称で構わないと思います」
考えごとをしていた私の耳に、私の返答を聞いたパッドリーが深く頷くどころか結婚してからも敬称呼びで良い、と賛成してくれる。少なくともお父様もお母様もパッドリーも理解してくれていて嬉しいです。結婚後、どうなるのか、その時にならないと分からないですけどね。
話が飛びましたけれど、第一王子殿下のことは陛下の処分が出てから考えることにしましょう。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




