さん。
久しぶりに師匠と大師匠が我が家を訪れた。
「師匠、大師匠お久しぶりです。お元気でいらっしゃいましたか」
十七歳という年齢を迎え、第一王子殿下の婚約者として披露目があってから結婚の準備に入った私。忙しくて治療魔法士としての仕事も出来ず仕舞いだからお二人と会う機会も中々無かった。
尤もお二人はこの国での大掛かりな魔獣討伐の後は、自分たちだけでも対処出来るから〜と、二人だけで国の隅々に出現する魔獣討伐で忙しかったはずなので、お互いさまではあるのだが。
そのお二人が揃って我が家を訪れたとなると、なにかあったのだろうか。私は緊急性の高い事案でも起きたのか、と緊張していた。
「久しいなぁ、孫弟子よ。忙しいところに悪いな」
「いえ。大師匠、大丈夫です。何かありましたか」
のんびりとした口調の大師匠。こちらの緊張を解そうとしているのだろうか。
「いやなに、弟子が国王に招ばれたもんだからわしもついて来ただけだ」
師匠が陛下に呼び出された?
チラッと師匠を見れば、うん、と頷く。
「陛下からね、第一王子殿下、第二王子殿下、第三王子殿下の魔法の実力を見て欲しい、と頼まれたんだよね」
今のこの時期に? 咄嗟に口を閉じた私を誰か褒めて欲しい。師匠も私の言いたいことが分かっているように、ウンウンと頷く。
「私も同じことを思ったよ。何も今の時期に言って来なくてもいいだろうに、とね。でも陛下から事情を伺ってなるほど、と納得した。ポリーナ、君はその年齢にして随分と波瀾万丈だねぇ」
師匠のやや呆れたような口振り。
いえ、私だって別に波瀾万丈になりたいわけでは無いのですけど。
「師匠。物凄い他人事ですね」
「実際、他人事だしね。とはいえ、可愛いたった一人の弟子をぞんざいに扱われるのは、腹に据えかねるよねぇ」
他人事とか言いながらも気にかけてくれる辺り、師匠は本当に昔から優しい。
「弟子の弟子はわしの孫弟子だし。わしもこんな可愛い孫弟子を軽く扱われるのは頭に来るからの。この国の国主だろうとなんだろうとちょっと痛い目に遭うと良い、とは思うわなぁ」
大師匠、何気なく怖いことを言わないで。
「大師匠、それは不敬なのでやめてください」
私が肩を落として頼めば、大師匠はカラカラと明るく笑う。
「ま、それはおいおい」
「おいおいってなんですか」
大師匠、“おいおい”何をするのですか……。
「まぁ楽しみは後に取っておくもんじゃ。話を戻すが国王からの頼みでの、弟子が数日城に通う。その間、わしは孫弟子の弟に魔法を教えるということでこの家に滞在することになった。よろしくな」
はぐらかされたな、と思う間もなく大師匠が我が家に滞在すると聞いて驚く。
「それは私も大師匠に教えを乞うことができるのでしょうか」
「治療魔法は無理じゃの。それにパッドリーと言ったか。教えるのは初歩的なものじゃ。孫弟子はもう知っていること。それにそなたは忙しいのじゃろ。結婚の支度をしてなさい」
現実を突きつけられて落ち込む。今でもこの結婚は無くならないかなぁ……と思っているのだから仕方ない。
「ポリーナ、君は昔から聞き分けの良い子だったがいざという時にとんでもないことをやらかすから、私は心配だ。そのためにも私ができることはやっておくからあまり心配をかけさせないでおくれ」
落ち込む私に師匠が困った子だ、と笑いながらそんなことを言う。いつまで経っても師匠の中で、私は五歳児なのだろうか。
さておき。
「数日間、大師匠よろしくお願いします」
「うむ。任せておけ」
「師匠もよろしくお願いします」
「うん。まぁ私ができることなどあまり無いだろうけれどね。取り敢えずポリーナは、ポリーナのやるべきことをきちんと務めれば良い」
私のやるべきこと、か。
王太子妃教育は今のところやらなくていいこと。
第一王子殿下が王太子位を望まないらしいこと。
その仮定を踏まえると、王太子選定は私には関係ないこと。
その仮定を踏まえると、王太子妃候補となるだろう、第二王子殿下と第三王子殿下の婚約者様方の為人を知ること。
第一王子殿下が王太子位を望まないとしても結婚は変わらないのだから結婚の準備を行うこと。
……結婚、すること。
こんなところかしらね。
治療魔法士としての仕事は無いし。
ある程度の教育は終えてるし。
はぁ。結婚の準備、やるしかないですわよね。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
章タイトルの年齢が間違っていたので前章と今章の年齢を直しています。




