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いち。

「今、なんて仰いましたか、お父様?」


 お父様が陛下に第一王子殿下付きの新たな侍従に対する抗議をしてきたその夜に、眉間に皺を作ったお父様がお母様と私とパッドリーを呼んで話をされた。その内容に聞き間違いか、と尋ねる。


「聞き間違いではないよ、ポリーナ。第一王子殿下は王位を望んでないようだ、と伝えた」


 何がどうしてそうなったのか。

 お父様は詳しく話してくれた。

 結論から言うと、新たな侍従を父親である陛下からの推薦ということで何も疑うことなく受け入れるような失態を犯したから、という事らしい。

 ……まぁそうですわよね。

 陛下の推薦だからと言って自分の目で確かめる、調査を入れることをしない、なんて己の目は節穴だと言っているものですからね。

 陛下の命で受け入れるというのは分かる。

 併し。

 それと鵜呑みにする、というのは別。

 仮令(たとえ)陛下の命で有ろうと今回のように試されている可能性も有るだろうし、その陛下の見る目が無い可能性だって有る。

 過去には他国での話だけれど。

 名君とは言い難い国王も居て、自分の愛する愛妾……その国王の妻である王妃に子が出来なかったので愛妾が召し上げられた歴史がある……が重用して欲しい、と従兄弟を推薦され、その国王は碌に調査も入れずに政の中心に近い役職を与えた結果。その愛妾の従兄弟が国の金を横領していたことが発覚した。

 何とかその横領分を国王は補填出来たものの、愛妾の従兄弟も愛妾も罪に問われ罰せられた。その愛妾が産んだ子は王妃が引き取り次代の王太子にするべく育てて無事にその国王の後を継いだ、という歴史がある。尤も父親である国王は政に混乱を招いた事により早々の退位を望まれたけれど。

 この他国の歴史から調査を入れることの大切さをその国では理解している、らしい。

 ……って王子妃教育中に教えてもらったわけなのだけれど、第一王子殿下もこの歴史を教えてもらってあるはず……よね?

 それなのに、調査、入れなかったの……?


「えっ、第一王子殿下って阿呆なんですか?」


 パッドリー、不敬よ。ここに居るのが私たち家族だけだとしても不敬なのよ……。

 でも誰も何も、もちろん私もパッドリーを嗜めない辺りに本音が丸分かりですわね。阿呆とは思わないですけれど軽率な方だとは思いましたから、まぁ私も大概ですわね。


「軽率なのは確かだな」


 お父様、パッドリーの言葉を否定せずに私と同じことを仰いますのね。でもまぁ確かに軽率ですわよね……。

 それからお父様が続きを話すところ。

 要するに殿下は陛下という方の見る目を信じて自分で調査を入れなかった上に、侍従を増長させたことに気づいて王位を望むのは相応しくない、と判断したそうです。

 なるほど?

 つまり私が頑張って覚えてきた王子妃教育は無意味になる……? いえ、違いますね。王位を望まないだけで王族籍に留まるのなら変わらないですものね。無意味にはなりま……あら?


「そして王位を望まないどころか王族籍除籍も考えているらしい」


 お父様がそのように仰いまして、あら王子妃教育が無意味になるんですか、と感想を持ちました。

 お母様の身体が震えていらっしゃいます。えっ、お母様、なぜか悲しんでおられます?

 気遣わしく思った私の耳にバキッとおよそ耳慣れない音が聞こえてきました。

 ……えっ、今の音はなんです?

 音が聞こえた方に視線を向けましたら、お母様が持っていらした扇子が真っ二つになってました。

 ーーえっ、真っ二つ?

 あまりのことに私はお母様の顔と手元を数回見てしまいました。もしや、とは思いますが、お母様怒っていらっしゃいます?

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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