ゴ。
「陛下の御前で許可なく発言をするとは、お前はどれほど偉いのか」
もうこれ以上間違いを犯すわけにはいかない私は敢えて厳しい声音で言葉を紡ぐ。侍従はハッとした顔で……そしてようやく己の立場を理解したかのように青褪めた表情でその場にて平伏した。
「陛下並びに殿下と公爵様におかれましては、も、申し訳ないことを致しましたっ」
……どれだけこの侍従の中に響いているのか分からないが、いくらかは理解出来ただろうか。
「陛下、レバーム公爵。臣下の無礼は私の非でもあります。私の下げた頭程度では許しなど無い事でしょう。このことはきちんと考えたいと思います。陛下、私と侍従への処分はお決まりでしょうか」
改めて父上とレバーム公爵に謝る。反省はしているが妥当な落とし所を今の私では考えつかない。改めて考えさせて欲しい、と願いながらも父上が処分を考えていらっしゃるのなら粛々とそれを受け入れるつもりだ。
「セスターならばその侍従にどのような処罰を与えるか」
父上の静かな声と目は、私が目を逸らすことを許さない。
「私ならば専属侍従を外し、侍従として一からやり直しを。また実家である男爵家に調査を入れ、教育課程を確認して本人の資質か男爵家そのものの資質か判定し、場合によっては男爵家にも処罰を与えます」
「妥当だな。レバーム公爵どう思う」
「甘いですな。そこの侍従は処刑。侍従本人の資質ならば男爵家は監督不行届で五年の社交禁止。男爵家全体での問題ならば即刻お取り潰しでしょう。というか王家の処罰を待つ気はないので我が家が速攻で男爵家など貴族名鑑から消します」
かなり怒っているレバーム公爵の言い分は分かるが処刑と取り潰しとは穏やかではない。とはいえ、そんな甘いことを私が考えているからこそ侍従は増長し、父上と私と公爵が居るのにも関わらず、勝手に発言をするような、身分やマナーを理解出来ない人間が増えるのだと私も分かったのでそれ以上は言えない。
「そ、そんなっ! 処刑だなんてっ! あと、家は関係ないですっ! どうかご慈悲を!」
……こんな風に。本当に理解していたら、何を聞いても黙っているべきところであるのに抜け抜けと縋っている辺り、やっぱり真に理解出来ていないのだろう。
「処分を言い渡す。男爵家の方は後々調査を入れて決めるが、その方は処刑はせんが鞭打ち十回後に貴族籍剥奪と侍従解雇と王都追放だな。本当に反省していたのなら、何を聞いても黙っていたはずだ」
父上に罰を言い渡された侍従は顔面蒼白で全身を震わせる。私は侍従を振り向くことはしていないが助けてくれ、と思っているのだろう強い視線を背中に浴びる。それでも私は振り向かない。
父上が護衛の騎士に侍従を託すのと同時に罰を言い渡し、命じた。鞭打ちは非公開にて行われるだけ慈悲だろう。公開されるということは、見せしめもあるがそれだけ重い罪とも見做されるから。
侍従にそのような罰を与えさせたのは、私が父上の推挙だから……と調査も入れずに受け入れたことに加えて、殆ど何の関係性も築いていないのに関わらず、侍従が私に傾倒し過ぎていることに気付くのが遅かったことが原因だ。
つまり、私こそが侍従を増長させ、延いては愚行に走らせて罰を与えるような罪を犯させた。
……私も大概、罪深いのだろう。
そして私はまだ己の罪の処分を受けていない。
「さて、セスター」
「はい」
「お前の処分だが。お前だったらどう思う」
「私の考えでは甘いかもしれませんが」
父上から私自身の処分を客観的に見て判断してみろ、という視線を受けて少し考える。
そして、考えていたことを口にした。
「王族籍の除籍」
「……ほぅ」
父上が意外そうな声で頷きレバーム公爵も眉間に皺を寄せて私を見ている。
「臣下に下り我が国と隣国の国境を治める辺境伯の臣下として領地開墾が出来ていない土地へ赴任します」
父上を見ていたが、レバーム公爵が父上に発言の許可を求め、許可を得て激しい口調で問うてくる。
「それに我が娘であるポリーナも付き合わせる、とでも仰いますか」
レバーム公爵の怒りが更に増す。望まない婚約を王命で押し付けられた上に辺境地に私と共に向かわせるのか、と。
私と彼女の結婚式は日取りまで発表されているので王命が覆らない以上、そういうことになってしまうだろう。……やはり私は浅はかだ。
「まぁレバーム公爵、あくまでもセスターの考える処分で余の処分ではない。置いといてくれ」
苦い表情の公爵は、それでも口を閉じる。
「セスター、そなた王族籍の除籍ということは、国王の座には着かんと申すか」
「はい」
「なぜだ」
「私は愚かにも父上の推挙ということで、あの者の調査も入れずに受け入れました。父上の推挙だからと鵜呑みにするのではなく、調査をして自らの目で為人を確認し、きちんとあの者自身を見て関係性を築くべきでした。そんなことも出来ない私に人を見る目があるとも思えないし、人を正しく使うことも出来ないでしょう。人の上に立つ者として信用を築くこと、それでも相手を疑うこと、時に懐大きく、それでいて冷酷にもなれなくては国を導けません」
「……なるほどな。だが余も含め歴代の王もまた、人である。誤ちが無いとは言わんが」
「その誤ちを正す人間関係を周囲の人々と築いていれば、余程大きな道の誤ちでは無ければ修正も出来ましょうが、私は自身を支えてくれるはずの妻になる女性を長年に亘り蔑ろにしてきました。それを知る者は、果たして私が父上の後を継いで高みの存在に着いた時、支えてくれるでしょうか」
私の愚行による後悔は、私自身の足元すら掬うのだと身に染みて理解する。自分で気付く程に私の王子としての足元は揺らいでいることにようやく気付いた。大切にしていれば、尊重していれば、このようなことになっていなかった。私の愚行の結果だ。
「そこに気づいたか。間違いに気付くことに遅いことは無い。だが確かに今回の件について、そなたにお咎めなしとはいかぬ。だが、余も直ぐには決めかねている。処分を言い渡すまでの猶予期間を与えよう。その期間、そなたは今まで通り第一王子として王族の義務を果たすと共に、もしもそなたが王族籍を離れることになった場合、そなたの弟である第二王子と第三王子のどちらが王太子の位に相応しいかそなたが見極めよ」
「お受け致します」
その後、私は退室を言い渡されたので分からないが、父上はレバーム公爵の怒りをどのように宥めたのか。それは少し気になった。
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