きゅう。
「それは私も考えたことがある」
帰宅されたお父様にパッドリーが伝えるその場に私も立ち会います。一応第一王子殿下の手紙による提案でしたので。そしてお父様はその提案にあっさりとそのように仰いました。
「だが実行には至れなかった」
至らなかったではなく至れなかった。
お父様が考えていたこととは別の想定外の出来事が起きたということ、でしょうか。
「それは何故でしょうか」
「職人だけでなく領民たち全員に頼もうとしたが、当の職人たちが反対した。反対理由の一つめが職人のプライドだな。素人に出来るわけがない、というプライド。そこを何とか頼む、という前に、プライドだけで反対しているわけがない、と職人たちが更に言った。均すだけ、の作業に見えるだろうが凹凸の無い道に均すだけが難しい、とな。見習いから始めて毎日やっても六ヶ月ほどは掛かる。半年かかって一人でなんとか整えられるのが半人前。整えるだけじゃなくて轍の無い部分と違和感が無いように仕上げるのが一人前。ここに至るのは早くて一年ほどだな。まるで真新しい道のように見えるほどの熟練者は、今は居ない。隠居している。……つまり、それだけ難しい仕事なのに素人に簡単には教えられない。その上太陽が登って直ぐくらいの早朝に素人にやらせては、均したつもりで凹凸が出来てしまうそうだ。日の光がきちんと届かない部分が出るから、というのが理由だと」
だから無理だ、と断られた……とお父様が仰いました。
まぁ。そういうことですか。
「それでしたら、土魔法が得意な私がサッと轍に土を被せ、それを職人たちが均すのはどうですか」
パッドリーが提案します。
職人たちの話では均すのに時間がかかる、ということですがその前段階の土を轍に被せる所から時間がかかるとは聞いています。それならば土を均すだけでいいですものね。
「ふむ。聞いてみよう。パッディの土魔法で轍に土を被せてサッと平面になるようにしてもらう。その上で職人たちに最後の調整として均してもらうならば職人たちが言うところの素人ではなく、自分たちだけでやるから話がまとまるかもしれんな」
その後ですが。
お父様はある程度執務を片付ける間に職人たちを取りまとめるリーダー宛にパッドリーの提案を書き付けて送ったようで、そのまま返事をもらうように従僕に命じて出立させました。この従僕は馬を操るのに長けているので我が家の早馬係です。
馬を乗り継ぎ領地へ行って帰って来られるので体力も無くては務まらない重要な役目の彼は、三日で往復してきまして、相変わらず素晴らしい速さだと感心しました。馬車だと行くまでに五日かかりますから、それだけ馬も駿馬でしょうし、彼も凄いのです。
尚、その提案ならば。ということで急遽パッドリーとお父様は領地へ出立されることに。私はお母様と留守番です。
さて、お父様に領地についての話をした翌日まで時を戻す事にしましょう。
例の四十二通目の手紙です。
私のことについて言及しているという。
怖々とした気分で四十二通目を開封しました。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




